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#55 ミンチンに焦らされて、おねだりするセーラ
重厚な天蓋付きのベッドの上。薄暗い部屋に、セーラの切羽詰まったような荒い吐息だけが響いていた。
「……はぁっ、ん……っ、あ……」
ミンチンの指先は、熱を持ったセーラの身体を這うように撫で回す。焦らすような、蛇が這うようなねっとりとした愛撫。身体の奥底から湧き上がるΩ(オメガ)特有の甘い疼きを限界まで引き出されながら、寸前で放置されるという残酷な拷問だった。
「どうした、セーラ。そんなに強張って。……お前の:あそこはもうダイヤモンドのようにカチコチじゃないか」
耳元で落とされる嘲笑に、セーラは屈辱でギリッとシーツを握りしめる。
心では相手を激しく憎んでいる。それなのに、α(アルファ)のフェロモンにすっかり支配されてしまった身体は、夜を重ねるごとに新しい快楽を学習し、ミンチンに触れられることを狂おしいほどに欲してしまっていた。
「……っ、ちが……っ」
「違う? ならば、もうやめておこうか。お前もこれ以上は望んでいないのだろう」
すっ、と身体からミンチンの熱が離れようとした瞬間。
セーラの理性が追いつくよりも早く、オメガの本能が限界を迎え、悲鳴を上げた。
「あ……/////、いやだ……っ! やめ、ないで……/////」
すがりつくようにミンチンの腕を掴み、セーラは熱に浮かされた潤んだ瞳で、自分を壊した憎き相手を見上げる。
「……もう、焦らさないで……っ おねがい、します……/////」
「気高きダイヤモンドが聞いて呆れる。今のあふんはお前は、ただα(アルファ)の種を欲しがる哀れで貪欲な牝に過ぎない。……違うか?」
耳元で囁かれる容赦のない嫌味。それは、セーラの心を抉る最も鋭い刃だった。
反論したくても、できない。ミンチンの言う通り、セーラの身体は夜を重ねるごとにこの恐ろしいアルファのフェロモンに深く依存し、底なしの沼に沈むように新しい快楽を貪欲に学習してしまっていた。
「嫌い…」
心では相手を激しく憎み、屈辱に震えているのに。身体だけは、ミンチンに触れられるたびに歓喜し、己の意思とは無関係にとろけていく。その圧倒的な心身の乖離と葛藤が、セーラを静かな狂気へと追いやっていた。
(……どうせ一生、この鳥籠から出ることはできないんだ)
天井の豪奢な模様を見つめながら、セーラは快楽で熱く蕩ける身体とは裏腹に、静かに思考を切り離していく。愛も誇りも捨て去り、ただ与えられる快感と痛みに身を委ねるだけの空っぽな人形。セーラは暗い海の底に沈んでいくような、深い諦めの境地を見出していた。
◇
セーラが完全に屈服したことへの「褒美」として、ラムダスは地下の反省室から解放された。しかし、学園の外へ出ることなど当然許されるはずもなく、彼は再び屋根裏へと戻された。
そこは、かつて二人が肩を並べて下働きをしていた場所だ。
ある日の午後。ミンチンが所用で学園を空けている隙を突き、セーラは階下の豪華な居室から抜け出し、音を立てないように階段を上り始めた。
一番上の階に辿り着くと、ひっそりと静まり返った廊下が伸びている。セーラは、つい数日前まで自分が過ごし、今は主を失って埃を被っている『自分の部屋』の前を無言で通り過ぎた。そして、そのすぐ隣にある、見慣れた古い扉をギィ……と開けた。
薄暗い小部屋の中には、簡素な衣服を身に纏ったラムダスがいた。
「……セーラ様」
ラムダスは振り返り、その場に静かに膝をついた。彼の視線が、セーラが身に纏っている上質な服や、首筋に生々しく刻まれた『番の痕』、そして何より——かつての気高さが抜け落ち、どこか退廃的で魔性のような色香を漂わせるその姿に注がれる。
「……申し訳ありません。私の力不足のせいで、あなたにこれほどの業を背負わせてしまうとは……!」
ラムダスはギリッと強く拳を握りしめ、床に額を擦りつけるようにして深く頭を下げた。主人が己の誇りを完全に捨て、アルファの腕に落ちた理由が何であるかを、彼は痛いほど分かっていた。
そんなラムダスを見下ろしながら、セーラはゆっくりと歩み寄り、冷たい床にひざまずいた。そして、傷だらけになった褐色の手を、自分の白い手でそっと包み込んだ。
「……顔を上げて、ラムダス」
促されて顔を上げたラムダスの目に映ったのは、静かに、そして艶やかに微笑むセーラの姿だった。
「僕は今、院長先生にとても良くしてもらっているんだ。温かい部屋で、何不自由なく暮らしている。だからラムダス、お前は何も悲しまなくていいんだよ」
それは、かつて『ダイヤモンド◇プリンス』と呼ばれていた頃の、太陽のように眩しい笑顔ではない。絶望の底で何もかもを諦め、狂気すら孕んだような、底知れず空虚で甘い微笑み。
「今は少し離れているけれど……昔のように、僕のいたあの部屋の隣で、ただ僕を待っていて。僕に仕えてくれれば……それでいいんだ」
セーラの言葉に、ラムダスの瞳の奥で何かの感情が激しく揺れた。しかし、彼はそれ以上何も言わなかった。主人が自らの心を守るためにその「狂気」を被ることを選んだのなら、従者はただそれに付き従うしかないのだ。
「……かしこまりました。この命に代えましても、あなた様にお仕えいたします」
ラムダスは恭しく、かつてのように忠誠の礼をとった。
誰もが傷つき、絶望に沈んだこの閉ざされた学園で。すべてがミンチンの思惑通りに丸く収まり、氷のように冷たく静かな、かりそめの平穏が訪れたかのように見えた。
つづく
55話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8203
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静まり返った真夜中の屋根裏。誰もいないはずの隣の部屋から、異様な物音が響いてきました。
ギシッ……ガタッ……!
激しく軋むベッドの音。そして、微かに漏れる苦しげな吐息。まさか、セーラ様の身に何か!? 私 は弾かれたように扉へ向かいました。
次回、A-Little-Prince 第56話。
「セーラ様!? いかが致しましたか!?」
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