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#56 セーラ♡ラビニア 屋根裏部屋での密会
冷え切った冬の空気が漂う、人気のない図書室の奥。
書架の陰で、ラビニアはすがるような瞳でセーラを見つめていた。
「……セーラ。あのチョーカーのことなんだけど……考えてくれた?」
バレンティーヌスの祭日、ラビニアがセーラに贈った『オメガ用制御チョーカー』。それはヒートを強制的に抑え込み、他のアルファからの干渉を物理的に防ぐ、いわば貞操帯のような役割を果たす枷である。お揃いのそれを身につけることで、自分だけのものになってほしい——それがラビニアの狂信的な願いだった。※52話参照
しかし、セーラは悲しげに目を伏せ、静かに首を横に振った。
「気持ちはすごく嬉しいよ、ラビニア。……でも、やっぱりつけられない。今の僕はあの人の『番』だから。それは…… ごめん… でも、僕は君のことを愛してるよ」
「そんな…… 言葉だけじゃ嫌だ。お前がいつか、心まであの化け物に奪われてしまうんじゃないかって、僕……」
ラビニアの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。すべてを失い、孤独と恐怖のどん底にいるラビニアにとって、セーラとのつながりだけが唯一の救いなのだ。
その痛いほどの執着と愛情を前に、セーラはどうしてもラビニアを突き放すことができなかった。
「……わかった。泣かないで」
セーラはラビニアの涙を指先で優しく拭うと、その耳元に顔を寄せた。
「今日の夜、一番上の階の……僕が昔いた、あの空きの屋根裏部屋に来て。そこで、僕の気持ちの『証』をあげるから」
◇
遠くでフクロウが低く啼き、青白い月光が静まり返った学園を冷たく照らし出す、深い夜。
豪奢な天蓋付きベッドで、ミンチンが深い眠りについたのを確認し、セーラは音を立てないようにそっとシーツを抜け出した。与えられた上質なガウンを羽織り、冷たい廊下を裸足で歩いて最上階へと向かう。
ギィ……。
見慣れた古い扉を開けると、氷室のように冷え切った暗い屋根裏部屋で、ラビニアが震えながら待っていた。
「……セーラっ」
飛びつこうとするラビニアの唇を、セーラは人差し指でそっと塞ぐ。
「しっ……。すぐ隣の部屋には、ラムダスがいるんだ。絶対に、声を出しちゃダメだよ」
秘密の共有。そのスリリングな囁きに、ラビニアはゾクッと背筋を震わせ、赤くなった顔で小さく頷いた。
冷たい硬いベッドの上に、二人の身体が重なる。
ミンチンの前では、Ω(オメガ)としての本能を抉り出され、哀れな牝として惨めに泣き叫ぶしかないセーラ。しかし、自分を狂信的に慕い、すべてを委ねてくるラビニアを抱いている時だけは違った。
(……そうだ。僕は、ただ支配されるだけの存在じゃない……)
ラビニアの柔らかな肌を撫で、愛撫によって彼女を意のままに蕩けさせていくこの瞬間だけ、セーラはかつて失われた『α(アルファ)だった頃の誇り』と『全能感』を取り戻すことができたのだ。
声を殺さなければならないという極限の背徳感の中、ラビニアは声にならない嬌声を上げて悦びに溺れ、セーラもまた、支配者としての甘い陶酔に深く沈んでいく。
——と、その時だった。
ラビニアはセーラの背中に腕を回すふりをして、密かに指先に忍ばせていた『小さな錠剤』を、セーラの最も熱く濡れた秘所へと滑り込ませた。
オメガの身体はすでに愛撫によって十分に潤い切っていたため、それは摩擦すらなく、つるんと容易く奥へと吸い込まれていく。
「え……っ? ラビニア、今、何を……」
一瞬戸惑って動きを止めたセーラを見上げ、ラビニアは甘く熱い吐息を吐いた。
「……これでもっと、僕をめちゃくちゃにして……」
それは本来、アルファ用の抑制剤である。しかしオメガが服用すれば、強烈な反作用によって理性を吹き飛ばすほどのヒート(発情)を強制的に引き起こしてしまう。——この学園で幾度となく事件と狂気を生み出してきた、いわくつきの劇薬だった。※50話参照
◇
数秒も経たないうちに、恐ろしいほどの早さで薬の効き目が現れる。粘膜から直接吸収される薬効は、劇的だった。
「はぁっ……! あ……っ、ぁっ……!」
セーラの全身から、とめどなく汗が吹き出す。視界が赤く染まり、下腹部から脳天へと突き抜けるような暴力的な熱が、セーラの理性を一瞬にして焼き尽くした。
ミンチンへの依存で肥大化していたΩ(オメガ)の欲求が、α(アルファ)への支配欲と混ざり合い、危険な衝動となって暴走を始める。
「ラビニア……っ、ラビニアぁっ……!」
「あ……っ、セーラ……っ、んんっ……!!」
完全に理性を失ったセーラは、獣のようにラビニアを貪り始めた。
声を殺すことなどとうに忘れ、暗い屋根裏部屋に、肉と肉がぶつかり合う卑猥な水音と、抑えきれない荒い吐息が響き渡る。
あまりにも激しい快感と、自分を貪り喰うようなセーラの熱情に、ラビニアは歓喜の涙を流して打ち震えた。
しかし、理性を失った激しい交わりは、古いベッドを容赦なく軋ませ、冷たい床に乱暴な物音を響かせる。
——ギシッ
——ギシッ
——ガタ
——ガタ
その異音は、薄い壁一枚を隔てた隣の部屋にいる、ある人物の耳に確実に届いていた。
「……? セーラ様……? なぜ、あちらの部屋から……」
隣室で身を潜めていたラムダスが、ただならぬ気配を察知して立ち上がる音がした。
ギィ……と隣の部屋のドアが開き、コツ、コツと、屋根裏の廊下を歩く足音が近づいてくる。
「セーラ様!? 何かあったのですか!?」
ラムダスの切羽詰まった声が、扉のすぐ向こう側から響いた。
「……っ!!」
その瞬間、セーラの脳内に冷水がぶち撒けられた。
媚薬の熱がわずかに引き、最悪の状況に気づいて血の気が引く。
「ヤバっ……早く、隠れてっ……!」
ガチャリとドアノブが回る寸前。
セーラは声にならない悲鳴を上げながら、腰の抜けたラビニアを無理やりベッドの下の暗がりへと蹴り込むように押し込んだ。
つづく
56話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8207
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あんなにも気高く美しい私の主人が、熱に浮かされ、恥じらいも捨てて私 の足元にすがりついてくる。
「昔してくれたみたいに、僕を……どうにかして」だなんて。
あぁ……そんな風に泣いて哀願されて、どうして耐えられるでしょうか。
次回、A-Little-Prince 第57話。
お許しください、セーラ様。私はずっと、ずっと……あなたをこの腕で組み敷きたいと願っておりました。
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