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#58 復習。再起を誓うラビニア

嵐のような情事がようやく終わりを告げ、冷え切った屋根裏部屋に深い静寂が戻ってきた。 すべてを焼き尽くすようなヒートの熱を幾度も解放し、完全に満たされたセーラは、泥のように深い眠りに落ちていた。 ベッドから静かに降りたラムダスは、主人の寝顔を愛おしげに見つめる。しかしその胸中には、いくら主人の哀願であったとはいえ、決して越えてはならない一線を越えてしまったという、身分違いの重い罪悪感が渦巻いていた。 「……」 散乱した自分の衣服を拾おうと、重い溜息をつきながら床へ身をかがめた。 ——と、その時だった。 暗闇に目が慣れたラムダスの視界に、ベッドの下の薄暗がりで息を潜める『人の顔』がはっきりと映り込んだ。 「……誰だっ!?」 ラムダスが鋭く声を上げた瞬間、限界まで張り詰めていたラビニアの神経が弾け飛んだ。 「ひっ……! あ、ああああっ!!」 見つかった恐怖と、一晩中見せつけられた地獄の屈辱。パニックに陥ったラビニアは、暗闇の中で自分の衣服だけを無我夢中で抱え込むと、這うようにしてベッドの下から飛び出した。そして、全裸のまま半狂乱で悲鳴を上げ、屋根裏部屋から弾かれたように逃げ出していった。 「おい、待て……!」 ラムダスが手を伸ばすよりも早く、バタン!と激しい音を立てて扉が閉まる。廊下の奥へと遠ざかっていく裸足の足音を聞きながら、ラムダスはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。 ◇ ——チュン、チュン 屋根裏の窓辺でスズメが鳴く声が響く。冷たい隙間風と共に、薄暗い部屋に白みかけた朝の光が差し込んでくる。 ラムダスは、まだ微睡みの中にいるセーラを起こさないよう、音を立てずに身支度を整えていた。ミンチンの目が届く前に、いつもの『使用人』としての仕事に戻らなければならない。 彼は眠るセーラに向けて、「……どうか、お許しを」と深く懺悔するように頭を下げると、誰にも見咎められないよう、静かに部屋を後にした。 ◇ やがて、完全に薬効が切れ、凪いだ思考を取り戻したセーラがゆっくりと目を覚ました。 「……ん……」 身を起こし、シーツから滑り落ちた自分の裸体と、そこに刻まれた無数の痕を見て、セーラは頭を抱えた。 「……僕としたことが。いくら急なヒートが起きたからって、またもやラムダス相手に完全に理性を失うなんて……」 それにしても……。 あれはいくらなんでも異常だった。今までヒートは薬でやり過ごしてきたし、ミンチンに抱かれている時でさえ、心までは屈服していなかったはずだ。それなのに、昨夜の自分は、まるで発情した獣のようにラムダスを求め、貪ってしまった。 (……どうして、あんな急に……) 深い自己嫌悪と疑問に苛まれながら、セーラは乱れたガウンを羽織り、ベッドから降りようとした。 ふと、足元に硬いものが当たる。 見ると、ホコリまみれの床に、小さなガラスの『小瓶』が転がっていた。 「……これは?」 セーラは小瓶を拾い上げ、ラベルを見て息を呑んだ。 それは、オメガが服用すれば強烈な反作用によって強制的にヒートを引き起こす、あの『アルファ用の抑制剤』だった。 ——これでもっと、僕をめちゃくちゃにして—— 脳裏に、昨夜密会した時のラビニアの甘い声と、秘所に何かを滑り込まれた感触が鮮明に蘇る。 「どうりで……。またコイツ(薬)の仕業か」 昨夜の異常な熱の正体。そして、自分が理性を失い、結果的にラムダスと一線を越えてしまった原因。 そのすべてがラビニアの仕組んだ罠——いや、歪んだ愛情の暴走だったのだと悟り、セーラは手の中の小瓶を強く握りしめた。 ◇ その日の放課後。 新生徒会長であるジェシーたちがたむろする生徒会室の扉を、ラビニアは一人で叩いた。 「……あ? 何の用だ、元・会長サマ。今度は便所にでも閉じ込められたいのか?」 ソファにふんぞり返るジェシーが、下劣な笑みを浮かべてラビニアを見下す。周囲の取り巻きたちも、転落したかつての権力者を嘲笑うようにクスクスと笑い声を上げた。 しかし、今のラビニアにはその嘲笑すらどうでもよかった。 昨夜の屋根裏部屋で味わった、魂を削られるような絶望と屈辱。セーラへの狂信的な愛が完全に反転し、どす黒い憎悪へと染まりきった今の彼女の瞳には、かつて学園を恐怖で支配していた頃の、あの氷のような冷酷な光が宿っていた。 ラビニアは無言のままジェシーの前に歩み出ると、躊躇いもなくその場に膝をつき、深く頭を下げた。 「……俺を、あんたたちの『下働き(一兵卒)』として置いてくれないか」 「はぁ?」 予想外の行動に、ジェシーの笑いがピタリと止まる。 「……急に寝返ったふりして、何企んでる? そう簡単に信用すると思ってんのかよ」 ジェシーは警戒心を露わにし、冷ややかに見下ろした。「元・会長サマが、俺たちのパシリになる? 嘘くせえな。どうせ隙を見て、またトップの座に返り咲こうって腹だろうが」 「違う。権力なんてどうでもいい」 ラビニアは床に額を擦りつけんばかりの姿勢のまま、ギリッと奥歯を噛み鳴らした。 「俺はただ、セーラを……あいつと、あいつに縋り付いてる目障りな奴らを、徹底的に地獄へ叩き落としたいだけだ。そのためなら、あんたの靴だって舐める」 そのあまりにも暗く、執念深いラビニアの声色に、生徒会室の空気がわずかに凍りつく。しかし、ジェシーは鼻を鳴らして吐き捨てた。 「口先だけなら何とでも言えるぜ。本気で俺たちの『犬』になるってんなら、証拠を見せろよ」 「……ああ。何でもやる」 躊躇いなく答えるラビニアを見て、ジェシーは嗜虐的な笑みを深め、悪意に満ちた提案を口にした。 「そうだな……なら手始めに、あのアーメンガードをやってみせろ。ナイト気取りでセーラの周りをうろちょろしてて目障りなんだよな」 「……わかった。元々アーメンガードとは因縁がある。まぁ見ててくれよ」 ゆっくりと顔を上げたラビニアの瞳には、ただ冷酷な復讐者の狂気だけが宿っていた。 つづく 58話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8210 — ラビニアたちに服を剥ぎ取られ、冷たい床で笑い者にされる、そんな地獄から(アーメンガード)を救い出してくれたのは、他でもないセーラだったんだ。 君は冷ややかな瞳で僕を見下ろして、もう一つのチョーカーを僕の首に嵌めた。 ——カチリ。 次回、A-Little-Prince 第59話。 命令してください、ご主人様(セーラ)。心を持たない人形(僕)は、ただあなたに従います。

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