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#61 絶対絶命ロッティとベッキー。全てを引き受けるセーラ
重厚なマホガニーのデスクで、ミンチンは退屈そうに学園の書類に目を通していた。コンコンコン、と控えめなノックの音が響き、入室を許可すると、そこに立っていたのはラビニアだった。
「……何用だ。今の私には、お前を構ってやる暇はないのだが」
かつて『ペット』として手元に置き、とうに飽きて捨てた手駒。ミンチンの視線は冷たく無関心だ。しかし、ラビニアはかつての高慢さを微塵も見せず、忠実な犬のように恭しく頭を下げた。
「お邪魔をして申し訳ありません、院長先生。実は……新生徒会長のジェシーより、学園の風紀の乱れを正すよう申しつかりまして。先生の耳に直接入れておくべき『重大な規律違反』を見つけましたので、ご報告に参りました」
ジェシーからの命令を口実にしつつも、隙あらば再び権力者に取り入ろうとする執念が透けて見える。ミンチンはふん、と鼻を鳴らし、顎で先を促した。
「……まあいい。学園の風紀を乱す害虫の駆除なら、生徒会の底辺としての仕事には丁度よかろう。で、違反とはなんだ?」
「おい。……連れてこい」
ラビニアが冷酷な声で命じると、背後の廊下に控えていた生徒会の取り巻きたちが、怯えてガタガタと震える小柄な生徒を乱暴に部屋の中へと引きずり込んできた。
泣き腫らした顔で床に放り出されたのは、——ロッティだった。
ラビニアは嗜虐的な笑みを深め、残酷な宣告を部屋に響かせる。
「このオメガ、誰の種かも分からないガキを腹に宿しています。……相手は、あの下働きのベッキーです。ロッティが夜な夜な、あのメイドの部屋へ足しげく通っているのを確認済みですから」
「……何だと?」
ミンチンの低い声が、地を這うように室内に響いた。
名門であるこの学院の生徒が、あろうことか腹に子を宿している。しかも相手が下賤なメイドなど、学院の権威に泥を塗る絶対に許されざる事態だった。
「連れてこいッ!!」
ミンチンの怒号が飛び、ほどなくして血相を変えたベッキーが部屋へと引きずり出された。
「ベッキー……っ!」
「ロッティ……!」
二人が悲痛な声を上げる。
「……なるほど。這い虫の分際で、学園の生徒に手を出したというわけか」
ミンチンの瞳に、決定的な冷酷さが宿る。
「許し難い。ロッティは即刻退学だ。……そしてベッキー。貴様には警察などという生ぬるい場所すらもったいない。実家への送金打ち切りは勿論、地下牢に幽閉後、ゆっくりと処分は考えてやる。一生をかけて、罪を償ってもらうぞ」
「待ってください……っ!」
家族の命綱を絶たれ、永遠の闇を宣告されたベッキーは、絶望の中で必死に顔を上げた。
「待ってください! 院長先生に、是非ともお知らせしたい情報があるんです……っ! ですから、どうかお許しを……!」
「情報だと?」
「実は……セーラ様に関する、莫大な遺産についての重要な情報が書かれた手紙を、私が預かっています……っ!」
それは、かつてロッティから預かった手紙(29話参照)のことだった。ベッキーは密かにその手紙の内容を読んでいて、手元にないそれを最後の武器として、決死の取引 に打って出たのだ。
しかし、ミンチンは「メイドの分際で、つまらんブラフを」と鼻で嘲笑った。
「本当です!」
すかさず、ロッティが涙声で叫んだ。
「本当なんです! デュファルジュ先生から僕が直接預かった(27話参照)もので、本当はアーメンガードに渡すはずだったんです! それを僕がベッキーに……っ!」
その言葉に、ミンチンの目がスッと細められた。
「……ほう。ならば、それを見せてみろ。内容次第では、命だけは助けてやってもいいぞ。どこにある?」
「ここには……ありません。隠してありますから……っ、私が行って……」
「必要ない。ラビニア、お前がコイツの部屋に行って探してこい」
「はい。院長先生、直ちに」
そして数分後。戻ってきたラビニアの手には、古びた封筒が握られていた。
「院長先生。これですね」
あっさりと見つけ出され、ミンチンの手に渡る封筒。
交渉の武器を完全に奪い取られ、ベッキーは絶望に顔を伏せた。
ミンチンは手紙を開き、ざっと目を通す。カーマイケル弁護士の署名と、莫大な遺産の行方。その内容にミンチンは一瞬だけ眉をピクリと動かしたが、すぐにどうでもよさそうに封筒をデスクに放り投げた。
完全に優位に立ったミンチンは、再び冷酷な視線を床の二人へ向ける。
——と、その時だった。
ミンチンの視線が、ふとロッティの首元で止まった。
乱れた制服の襟元から覗く、白く細い首筋。そこに、ごく微かにだが、赤黒い『番(つがい)の痕』が残っているのを、アルファであるミンチンの目が逃さなかった。
(……番の痕、だと?)
ミンチンは内心で鋭く訝 しんだ。
オメガを妊娠させることはベータにもできる。だが、首に番の痕を刻み込めるのは『アルファ』だけだ。ベータであるベッキーに、あんな痕が残せるはずがない。
(あ!…噛んだんだっけな??(19話参照)よく覚えてないな… 私以外の可能性…)
疑念を持ったミンチンは、部屋の隅で鎖に繋がれているセーラへと、じろりと鋭い視線を向けた。過去に何度か、異常なフェロモンを放ち、アルファである自分の支配すら脅かしかけたことのある、この生意気なオメガを。
そのミンチンの刺すような視線と、どう見てもベッキーを絶対に許すつもりのない凄惨な怒気を見て、セーラは悟った。
(……ダメだ。このままじゃ、ベッキーが一生地下牢に閉じ込められてしまう……っ!)
自分が愛したベッキーを、これ以上傷つけさせたくない。
とっさにセーラは、鎖を引きずりながら前に身を乗り出した。
「待って……! 違う、ベッキーじゃない……っ!」
「何?」
「腹の子の父親は……僕だ! 僕がロッティを抱いたんだ……っ、だからベッキーは関係ない!」
オメガの自分が父親になれるはずがない。だが、今はとにかくすべての泥を被ってでも、ベッキーからミンチンの怒りを逸らさなければならなかった。
しかし、ミンチンはその悲壮な嘘を、底意地の悪い笑みで見下ろした。
「ほう。オメガであるお前が、父親だと?」
「そ、そうだ……っ! だから……」
「ならば、今すぐここで証明してみせろ」
ミンチンは顎でロッティをしゃくった。
「本当に父親なら、お前がロッティを抱きしめれば、その首の『番の痕』が本能的に強く反応して発熱するはずだ。……さあ、今すぐこの場で、そいつを抱いてみせろ」
「……っ!」
セーラは息を呑み、絶句した。
そんなことができるはずがない。自分が抱きしめたところで、痕が反応などするわけがないのだ。(※実際にはセーラが父親であるため、抱きしめれば反応して真実が露呈してしまうのだが、セーラ自身はそう思い込んでいる)。
抱きしめれば、嘘は即座にバレる。そうなれば、ベッキーは今度こそ確実に殺される。
「どうした。できないのか? それとも、その股間に嵌められた『貞操帯』が重くて動けないか?」
嘲弄するミンチンの言葉に、セーラは屈辱と恐怖でガタガタと震え出した。
「……うぅっ……! お願い、します……っ」
耐えきれなくなったセーラは、大粒の涙をこぼしながら、ミンチンの足元に額を擦りつけて哀願した。
「どうか、ベッキーを許して……っ。僕が……僕がなんでもしますから……っ!」
「なんでもする、か」
ミンチンは嗜虐的な悦びに目を細めると、ソファに深く腰掛け、自らの衣服の前——ズボンのチャックを乱暴に下ろした。
「ならば、お前のそのお口で……私への『誠意』を見せてみろ。そこのメイドと、同級生らの前でな」
セーラは屈辱に唇を震わせながら、這いつくばってミンチンの股間へと顔を近づける。
「セーラ……! そんな…/////、セーラぁっ……!!」
「セーラ……っ!!」
二人の悲鳴と絶望の嗚咽が響く中、ラビニアと生徒会が見下ろす冷たい床の上で。
重い貞操帯を引きずりながら、セーラは自らの尊厳を完全に打ち砕かれ、ただ泣きながら院長への奉仕を強いられるのだった。
つづく
61話グラレコ https://fujossy.jp/fanarts/8219
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みんなの前でセーラがひどいことをさせられそうになって、僕 は絶望で目の前が真っ暗になった。でも、院長先生は突然笑い出して、セーラだけを自分の部屋へ連れて行っちゃったんだ。
それから数日後。僕は退学じゃなくて『体調不良のお休み』ってことになって、お家に帰れることになったの。ベッキーも地下牢に行かなくて済んだ。……僕たち、助かったんだよ。
次回、A-Little-Prince 第62話。
……僕たちの命を守るために、セーラ、君が一生あの人の鳥籠に残るなんて……っ!
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