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第3話 モテる自分を思い出してキメてたのに、あなたが舐めますか? 〜海の魔獣の串焼き〜
見渡す限り、鬱蒼としたジャングル。
何か魔獣の甲高い鳴き声が聴こえ、蓮はビクッと動きを止めた。
「大丈夫?ソムリエくん」
ドキドキと心音を跳ねさせる蓮の肩に、クロップの手が乗せられ、優男がさわやかに笑った。
「どうした?」
前を歩くバルドは、道を切り開きながら、後ろの様子を伺ってくる。
クロップは信頼する友人に蓮が疲れてきているのではと伝えた。
「じゃあ、クロップ、この辺に休憩出来るところ無いか?」
「そうだね~」
クロップは地面に手を置くと、ふわっと光を纏って、何かを探っている。
「ほんと、魔法って便利だな」
「クロップの土魔法はジャングルには必須だからな」
「なぁ、バルド。海に行くんじゃなかったのか?」
「海に行くにはジャングルを抜けるのが早い。クロップの魔法があれば、更に早い。ついでに美味い果実も探し当ててくれる」
バルドは自慢の友人だとクロップの事を誇らしげに言う。
「海で二人きりだと思ってたんだけど……」
「なんだ?海の魔獣や魔魚が採れたらみんなで食べる方が美味いだろ」
ニカッと笑うバルドに、蓮はため息をつく。
(エロいことを想像してた俺が悪かったよ)
「バルド。もう、すぐそこが海岸だ。ここから直線で草を薙ぎ払ってくれ」
「よし、わかった」
「海岸にも人が居そうだから気をつけてくれよ」
クロップはそう言うと、蓮の腕を掴んでバルドの後ろへと連れていった。
蓮は何が起こるのかと疑問を持ちつつもクロップについて行く。
するとバルドの手に赤い炎の塊ができて来た。
ゴオッと音が鳴り、バルドが火球を放つ。
バキバキと木々が焼かれて道が出来た。
「マジかよ……」
豪快過ぎる獣人の魔法の力に、蓮は苦笑する。
ざっくりと焼かれた道の先に、きらりと光るものが見えた。
「お、蓮。海見えたぞ」
とんでもない力で道を切り開いた癖に、小さく見えた海を見て、子供のようにバルドは声を上げて報告してきた。
「さ、早く行こう。折角作った道だけど、植物はすぐに再生するからね」
クロップは蓮の背中を押して、バルドが作った道を進ませた。
「ははっ、海だ!広いな!蓮は泳ぐか?一緒に沖まで行くか?」
「やめなよ。バルドについて行ける人間はそうそういないって」
目の前に広がる水平線にテンションが上がったバルドは、早速服を脱ぎ始める。
このテンションで沖に連れて行かれたら、クロップの言う通り蓮は速攻溺れるだろう。
「バルド、パラソルだけ立てて行ってくれ。ここで待ってるよ」
「あぁ、そうだな。蓮の肌は日差しにも弱そうだ」
バルドは、小さく畳まれたパラソルをさっさと立ち上げて、地面に突き刺した。
勢いよく刺さったパラソルは、そうそう強い風でも飛んでいかなそうだ。
その下にクロップがシートを引いてくれて、蓮はちょこんとそこに座った。
(俺、来た意味あるか?)
ジャングルでも役に立っていなかったことを顧みながら、仕事の無い自分を申し訳なく思う。
「じゃあ、行ってくるな。昼は海の魔獣のフルコースだ!」
逞しい体にサンサンと太陽を浴びながら、ニカっと笑ってバルドは尻尾を振り海へ駆け出していった。
「あの体格で俊敏に泳ぐって何者なんだよ」
「ね~、バルドの泳ぎは親に徹底的に仕込まれてるからね。ソムリエくん一人くらいなら背中に乗せたまま狩りできるかもしれない」
「いや、絶対背中の上で溺れますよ」
「ははっ、じゃあ浜でバカンス気分を楽しんでよ」
そう言ってクロップは、ここに来るまでに採ったジャングルの果実を剥く。
皮を皿にして綺麗に盛り付けてくれた。
「すごっ……クロップさん、器用ですね」
「まあね。バルドと一緒に俺も修行してたから。料理はバルドほどではないけど、野菜は誰よりも美味いものを作れるよ。美味い果実を探す力もあるしね」
「昔からバルドの相棒って感じですね」
「あれ、ヤキモチ?」
「違いますよ。純粋にそういう関係良いなって思っただけです」
「ソムリエくん、友達少なそうだもんね」
「………………別に……」
クロップの言葉に、図星だと蓮はカットされた果実を一つ摘んだ。
昔から、蓮はその容姿で目立っていた。やっかみもかなり受けて、信頼できる友達と呼べる人はいたかと言われても思い出せない。
どことなく寂しそうな蓮の顔を見ながら、クロップは優しく笑うと、生搾りジュースを置いて立ち上がった。
「俺は美味い果実がありそうだからジャングルに取りに行ってくるよ。浜なら危険はないから、一人でも大丈夫?」
「子供じゃないですよ。ついて行っても邪魔になるでしょ」
上がる波の間にライオンの耳を見つけながら、蓮はクロップを見送った。
クロップの作ってくれた生搾りジュースはかなり美味しかった。
数種類の果実を素手で握り絞っていたのは豪快だったが、優しくほのかに甘く酸味もあってすっきりと飲める。
蓮はその味と潮風の雰囲気にだんだんとバカンスの気分になってきた。
(バルドが戻ってくるまで、ゆっくりさせてもらうか)
上着を脱ぎ捨て、水着になって肌を晒すと、開放的にな気分になる。
シートに寝転び日差し避けのサングラスをつけて、パラソルの端を見上げれば、透き通る空が綺麗だった。
目を瞑り、波音を聞きながらビーチの環境に浸っていると、カラカラと可愛らしく賑やかな声が近づいてくる。
数人、もう少しいるだろうか。薄目を開ければ、しなやかで豊満な肢体を小さな水着で隠した女たちが、波打ち際で遊んでいた。
(久々に女の身体見た気がする……)
蓮の視線に気付いたのか、女たちはヒソヒソと話を始めた。
蓮は特に気にもせずにまた目を瞑る。
遠くから聞こえる声は、少しづつ近くなってくる気配があった。
「ねぇ、カッコよくない?」
「一人なのかな」
「え、声かける?」
口々に話す内容は全部蓮の事を言っているようだ。
蓮はその声を聞き、ポーカーフェイスのまま、内心ニヤニヤが止まらなかった。
(俺、そういえばモテるんだった)
ゆっくりと体を起こし、女たちの視線の動きを読み取りながら、自分が一番格好良く見える仕草でサングラスを外した。
「きゃっ……」
女たちが一斉に息を呑んだ。
(格好良いか?綺麗か?声かけたくなっただろ?さぁ、来い)
「あ、あの……良かったら少しお話ししませんか?」
一人が口火を切ると、ワラワラと女たちは集まってきた。
皆、豊満な身体を見せつけるように腕や表情の使い方に気を遣っている。
(良いねぇ。この気を遣われてる感じ)
「良いですよ。皆さんはどちらから?ジャングルよく抜けてこられましたね」
丁寧に、営業スマイルよりもスカした顔を向ければ、女たちの頬は染まっていく。
「ジャングルなんて歩いてこられませんよ。私たちは船です」
「え」
「そこまで大きくはないんですけど、船をチャーターして来ました」
「へ、へぇ。素敵ですね」
(待て、ジャングル抜けなくても来られたのかよ。ふざけんなあのライオン!)
蓮は、安全な方法あるんじゃないかとバルドを心の中で罵った。
船をチャーターできるという事は、そこそこのお嬢様たちなのだろう。
相手の身分を予想すると、蓮は自分の育ちの良さもアピール出来るように仕草にも気を付ける。
「あの、ジャングルを抜けて来たんですか?格好良いですね」
「えぇ、付き人がフォローしてくれるので、少し危険ですけど、こんなに珍しくて美味しい果実も取れるんですよ」
バルドとクロップの功績を全て自分のものにして蓮は話す。
「付き人ということは、爵位のあるお方なのですか?とても優雅で美しいからきっと素敵なお家柄なんでしょうね」
女たちは蓮の一挙手、表情一つにいちいち顔を染めながらも、言葉の端々から蓮の情報を探って値踏みするような視線を向けてきた。
「あ、家のことは別に……あなた達こそ、素敵なレディじゃないですか」
はぐらかそうとする蓮の言葉に、一人の気の強そうな女がピクリと反応した。
見た目は良いのにと、女の口が動いた気がした。
(なるほど、家柄の方が重要か)
しかし、蓮は自分の家の事を話そうとは思わない。
次の言葉を考えていると、可愛らしい顔をした女が擦り寄るように距離を詰めてきた。
「今は、付き人もいないようですし、少し私たちと遊びましょうよ」
(来た。腹の探り合いをするより、こういう方が後腐れがなくて良い)
蓮は優しい笑顔を向け、どんな遊びですかと何も知らないような顔をした。
女のたおやかな手に腕を掴まれ、こっちですと引っ張られる。
腰を上げようとしたところで、後ろから柔らかい声がかかった。
「ソムリエくん、お友達ができたのかな?」
クロップの登場に、女たちはまた小さな悲鳴にも似た声をあげた。
クロップもイケメンと呼ばれる整った顔立ちだ。
幼い顔立ちの女の目がきらりと光ったように見えた。クロップも一緒に引き入れたいのだろう。
蓮がクロップの出方を伺っていると、とんでもないことを言い出した。
「ソムリエくんは、俺のツレなんだ。君たちの相手はできないよ」
(え、は?……断るにしてももう少し良い言い訳ないのかよ)
女たちの目も驚きで丸くなっている。数人は、別の意味で顔が赤くなっているようだ。
「やだ、お兄さんたちそういう関係なんて、嘘でしょ?」
「そうそう、イケメン二人にくっつかれたら私たち出る幕ないじゃないですか」
気の強そうな女と、童顔の女が冗談言わないでと軽く笑う。蓮も、その意見には心の中で賛同する。
(無理あるって)
「信じられない?」
「じゃあ、ソムリエくんの体をどれだけ知り尽くしているか証明してあげるよ」
そう言って、クロップは蓮を後ろから抱きしめ、首筋に舌を這わす。
「ちょっと、クロップさん?!」
蓮は慌てて離れようとするが、バルドほどではないにしても力強いクロップの腕から抜け出すことが出来ない。
「んー、やっぱり良い香りだね。噛みたくなるのわかるな」
「だ……ダメですよ……絶対に……んんっ……」
「ダメって言いながら、ちょっと気持ちいいんでしょ?みんな見てるよ?」
女たちを見れば、みんな呆けていて、何人かは期待をするような目を向けていた。
蓮も羞恥に頬が染まっていくが、クロップはやめるどころか蓮の肌を弄り始めた。
「んふっ……やっ……ちょっ……と……」
(こんなの、バルドに見られたら……)
蓮は海の方を見て、バルドを探すがライオンの耳は見つけられなかった。
「すべすべ……これはクセになるねぇ……」
「クロップさん、本当に……ぁふっ……」
どんどんとろけた顔になっていく蓮に、女たちはモジモジとし始める。
そんな空気の中で、クロップが厳しい目を女たちに向けると、気の強そうな一人が行きましょうと号令をかけ、皆したがって離れていった。
「も……やめてください……」
軽く息切れをする蓮に、クロップはサッと手を離してクスリと笑う。
「ごめんごめん、でも気持ち良かったでしょ?」
「…………俺、一応バルドと……付き合って……るんですけど……」
「ん?うん。あ、本気にした?ごめんね、挨拶だよ挨拶。バルドからとろうなんて思ってないから」
クロップの言葉に蓮は愕然とする。
(そうだった……挨拶なんだよな……)
「それに、俺、妻も子供もいるからね~」
続く言葉には耳を疑った。いつも軽くどこか遊び人ぽいクロップに家庭があったとは信じられない。
「信じてないね……」
失礼だなとクロップはじっとりとした目線を向けてくるが、こればかりは蓮のせいではない。
「いや、それより、ジャングルを通らなくてもここに来られるんじゃないですか!」
「え?知らなかったの?でも、珍しい果実が採れるって女の子たちに自慢してたじゃない」
「い、いつから聞いてたんですか……」
自分の行いを全て見られていたのかと、蓮は羞恥に顔を染めていく。
クロップは爽やかに笑いながら、浜に上がってきたバルドに手を振っていた。
バルドが狩ってきた食材はとにかく大漁だった。
殻の硬いヤブカラブ、二枚貝のフォナム、何かぐにゃぐにゃしてるダイラグク、魔魚のシームタル……他にも蓮には馴染みの無い食材が浜に並べられた。
「いや、楽しかった~」
バルドは濡れた髪を、額から後ろに撫で付けるようにして、プルプルと首を振り水気を飛ばす。
しっとりと纏まった濡れ髪がバルドの雰囲気を変えて、蓮はうるさく聞こえる自分の心音に驚いた。
「蓮、好きな食材はあるか?浜焼きしよう」
バルドはそう言って、あっという間に焚き火を起こす。串刺しにされた食材たちが火を囲むように地面に刺され、たちまち浜にはいい香りが漂った。
「ほら、ダイラグク。歯応えが最高に美味いぞ」
「……あのぐにゃぐにゃのやつだろ?」
「あぁ、生でも美味いけどな。蓮は抵抗あるだろ?焼いた方が食べやすい」
「………………っ……」
(……俺に合わせて?ほんとに……)
蓮はバルドのさりげない優しさに、また心音が高鳴った。
ダイラグクは柔らかい中に独特の歯応えがあった。歯ごたえとともに、鼻に抜ける磯の香りが堪らない。
思わず綻ぶ蓮の顔に、バルドはニコニコとフォナムを渡してくる。
クロップは、ヤブカラブの殻を丁寧に向き、シームタルと一緒に大きな葉に包むと、浜に漂う香りが気になっている女たちに配り始めた。
遠くから、バルドバールとコヨーテガーデンの店名が聞こえるから、営業だろう。
抜け目のない人だ。
対して、火を操りながら次々と食材を焼いていく職人を見れば、美味いだろとご機嫌に笑われた。
(バルドには打算なんて無いんだよな。優しさも欲も全部まっすぐだ。だから……安心……するのか……)
「ははっ、だいぶ絆されてんな……」
「ん?なんか言ったか?」
「いや、フォナムもっとくれ」
火加減を調節してフォナムを火の中から取り出すバルドの背中に、蓮は背中をくっつけて体重をかけた。
ジワリと感じた背中の温かさは、火のそばだからではないだろう。
潮風が気持ちよく、蓮の火照った頬を撫でていった。
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