4 / 10
第4話 独占欲からの美味い料理は反則だろ 〜フニャポンの葉の包み焼き〜
フニャポンと言われた果実を手渡され、蓮は顔を引き攣らせて固まっていた。
「これはね、中身が柔らかくて美味しいから、皮を剥くんだよ。中を潰さないように、優しく剥いてあげて」
すっかり暗くなった浜辺で、焚き火に照らされながらクロップはジャングルでしか採れない貴重なものなのだと、嬉々として教えてくれている。
しかし、フンポダケを思わせるフォルムの皮を剥けと言われても、蓮はやる気を出せるわけが無い。
「優しくがなかなか難しいんだよな。すぐに中が潰れちまう」
バルドは力加減に細心の注意を払いながら、フニャポンを剥いていく。
現れた白い実に舌舐めずりをする姿は、色々と刺激が強い。
「食べないの?ほんのり甘いからソムリエくんも好きだと思うよ」
何の抵抗もなく、口に卑猥な形を運んでいる優男の姿もセンシティブ判定だろう。
「蓮には焼いて切った方が食べやすいかもな。これは太いだろ?」
「お前のよりはマシだ」
蓮の回答に、クロップは果実を吹き出し笑う。
バルドは首を傾げながらフニャポンの葉を広げ始めた。
「フニャポンの葉は、天然の鍋になる。丈夫だし、大きくて使い勝手が良い。昼に残った海鮮も一緒に焼くか。直火とは違った柔らかさになるぞ」
バルドがシームタルやダイラグクを乗せていくのを見て、蓮も目の前にあったフォナムを貝殻から外して乗せようとする。
「あ、葉のふちは細かい棘があるから、手を切るぞ」
バルドに言われ、蓮は手を引っ込める。
森の葉といい、野生の植物は攻撃性が高いものが多い。
蓮はつくづくアウトドア向きじゃないと街が恋しくなった。
そんな蓮の様子を見て、クロップが焚き火を挟んだ向こうから声をかける。
「危険も多いけど、見てよ。綺麗な星でしょ?波の音も気持ちがいい」
「確かに……」
森の湖で見た星空とはまた違って、水平線から球体に広がる星空は非日常すぎて圧巻だった。
焚き火に照らされながら笑うクロップの顔は昼の明かりで見るよりも整っていて、こんな男に横から肩でも抱かれて星空綺麗なんて囁かれたら、女はコロリといくだろうと蓮はクロップから視線を外した。
しかし、視線を外した先に見えたバルドは、フニャポンの皮に苦戦していた。
「バルド…………」
「あー、だめだ。俺だと中身を潰しちまう」
皮を剥いて、葉に包むのだというが、原型の無くなったフニャポンがふにゃふにゃとバルドの周りを転がっている。
「もったいない。剥けばいいのか?」
蓮は食材が無駄になるのならと、卑猥な皮を剥き葉に並べていく。
「蓮、うまいな。どこかで練習したのか?」
「するかよっ。バルドこそ繊細な盛り付けも出来るのに何でこれが剥けないんだよ」
「何でだろうな。なんか、フニャポンに悪い気がして、なるべくそっとやってやろうとするんだけど緊張するんだよ」
「ふはっ、その理由、何度聞いても面白い!」
クロップが文字通り笑い転げるのを見て、蓮はツッコミそびれた。
食材を並べたフニャポンの葉を丸め、バルドは立ち上がると、海に向かって歩き出す。
蓮がついて行こうとすると、クロップに止められた。
「危ないよ。あと、綺麗だから見てて」
バルドは、両手に持った包みに火を纏わせてふわりと空中に浮かせた。
丸い火の玉がバルドの頭上でクルクルと回りだし、星空に火の粉を振り撒いていく。
「すご……綺麗……」
葉の隙間から蒸気が出ているのだろうか、白いモヤもかかり火の色が幻想的に変わった。波の音に、クツクツと鳴る火の玉の音が重なって、軽やかな音楽のようにも聞こえる。
「こんなの……本当にずるい……」
「だよね~」
フニャポンも剥けないポンコツライオンからのギャップに、多少悔しさも混じって、蓮はバルドを見る。
思わず出た言葉をクロップに肯定されて、隣の優男を見れば、バルドに憧れの眼差しを向けていた。
「これ出来るようになるまで、かなり練習したんだよ。初めて出来た時、今日みたいに満点の星空だった。思わず抱かれても良いって思ったね。バルド相手に……はははっ」
クロップは冗談で言っているが、蓮がさっき本気で思っていたことだ。
返す言葉が見つからなくて、バルドの背中に視線を戻す。
「はい、出来たぞ」
熱々の包みを持ってきて、バルドはニカッと笑う。
きっと上手く出来たのだろう。尻尾が楽しそうに揺れていた。
フニャポンの葉を開くと、ふわっと甘い香りがして磯の香りがそこに乗っかってきた。
三人の喉が同時に鳴る。
熱いぞと切り分けられたフニャポンと海鮮を、小さな葉に乗せてもらい蓮は少し迷ったが手掴みで口に入れた。
「あま……濃厚……それに柔らかいな、舌で潰せる」
「うまいだろ?」
「あぁ、シームタルもフォナムも直火よりふわふわに仕上がってる。葉の香りか?風味も変わってるな」
「ソムリエくん本当に舌が敏感だね~」
「蓮の修行の成果だよな」
さらりと褒められ、認められ、蓮は頬を染めながら多少居心地を悪くする。そ
んな蓮の頭をバルドは大きな手で撫で、嬉しそうに笑っていた。
それすらも気恥ずかしくて、蓮は避けるようにバルドと距離をとって座る。
(顔が熱いのは、焚き火のせいだろう)
モジモジと距離をとる蓮を見て、クロップは目を細める。
「昼間にさ、女の子たち居たじゃん?」
「ん?あぁ、いたな」
「ソムリエくん、ナンパされてた」
「ちょっと!クロップさん!」
何を言う気だと、蓮は慌てて話を遮る。
フサフサと揺れるクロップの尻尾と表情が、意地悪い。
バルドを見れば、目を丸くして蓮を見ていた。
「蓮……」
「あ、いや、何も無いからな」
「すごいな。やっぱりモテるんだな、蓮は」
「え?」
バルドは真っ直ぐに蓮を見て笑う。その反応に、蓮の方が驚いた。
「モテるよね~。ねぇ、バルド。ソムリエくんがモテたら、どうなるか想像できる?」
「ん?蓮は店でも女性客にキャーキャー言われてるからな……店の客増えるか?」
(いや、違うだろ。それに最近の女性客は俺に惚れてるんじゃなくて、バルドとの関係を妄想されてるんだが)
恋愛ごとには、どこか思考が斜め上にいくバルドの答えに、蓮は呆れ、クロップは苦笑しながらも話の筋を整えようとする。
「そうだな~、ソムリエくんの肌、気持ちいいよね。もし、ソムリエくんがモテたら、この肌……だけじゃ無い、身体や心も欲しがる人が増えるんだよ」
「……なっ……だめだ!俺の蓮だ!」
バルドは蓮を抱き寄せ、しっかりと足の間に座らせた。
「わかってるよ。俺は取りはしない。でも、今日の女の子たちは少し違ったみたいだったから、ちゃんとバルドが守ってあげなきゃダメだよ」
「守るって……女じゃあるまい」
蓮はクロップの言葉に、自分にも少し邪な気持ちがあったことを反省する。
真っ直ぐに自分のものだと言われて、全く心が動かない間柄ではもう無い。
しかし、自衛くらいは自分で出来るとクロップにため息を返せば、グレーの目を細めてクロップが蓮の表情を読んできた。
「自由な恋愛は否定しないけど、相手への誠意は見せないとね」
「…………っ……」
有無を言わせない視線の圧に、年上からの忠告なのだと蓮は小さく頷いた。
「そう……だな……守らないとな……」
蓮とクロップの静かな攻防の後ろで、バルドは思考が終わったのだろう。
蓮を後ろから抱きしめ、うなじを舐めてきた。
ビクッと反応する蓮をしっかりと抑え込み、うなじに歯を当てて息が荒くなっていく。
「ちょ……バルド……クロップさんいる……」
「いい、じっとしてろ……」
そう言いながら、水着のままの蓮の上半身に手を這わせ、背中の肩甲骨まで舌を這わしていった。
「あんっ……や……いきなり、なんだ……あぁっ……」
チラリと焚き火の先のクロップを見れば、ニヤニヤとなぜか嬉しそうに大きなフニャポンの葉を持ち出した。
「バルド、これいる?」
「ん?あぁ、ちょうどいいな」
何をする気だと小さな抵抗をする蓮を簡単に抑え込み、バルドは蓮に葉を巻きつけ始めた。
「動くな蓮。怪我するぞ」
何をされているかはわからないが、葉の棘に刺さるのは嫌なので、蓮は大人しく動きを止めた。
すると、バルドはおもむろに片手に火球を作り出し、蓮に巻きつけた葉を炙り始めた。
「はぁ?待て、バルド!何のつもりだ」
「大丈夫だ上手くやる」
「いやっ、美味くするなっ!ちょ……クロップさん」
「ははっ、バルドは結構独占欲が強いんだよ。そうなったらもう止められない。ソムリエくんもこれは自覚した方がいい」
クロップは笑いながら、親友がすることを見守っている。
「いやいや、調理されてんだけど!」
怪我を覚悟で逃げ出そうと蓮は身を捩った。
しかし、体に痛みはない。
それと、じんわりと温かくもなってきた。
(鍋の中の食材って最初は気持ち良いのか……バルドの手の中で事切れるなら……)
「いや、よくない!離せバルド!」
「あぁ、出来たぞ」
「え?」
バルドに離され立ち上がった蓮は、裸だった上半身に、フニャポンの葉の鎧を着せられていた。
葉のふちの棘は綺麗に焼き切られもう怪我はしない。
火で温められた葉は、優しい温もりで蓮を包んでくれていた。
「何?これ?」
「蓮の肌を晒さないための鎧だ」
「…………マジかよ、ダサ……」
バルドはニコニコと笑い、蓮を抱きしめた。
絶妙にダサい自分の格好に、蓮の頬は引き攣ったが、命の危機は脱したとバルドの胸に体重を預けた。
「食われんのかと思った……」
「……喰いたいけどな……ここだと……あ、あ、あおか……」
「あーあー、意味違うから!盛んなよ?」
ふぅんと鼻を鳴らして、バルドは蓮の首筋に顔を埋める。
必死に首筋の匂いだけで満足しようとしているようだ。
(一瞬、食われても良いとか思ったな……バルドになら……何されても……)
もう、バルドの気持ちが重いと言えなくなってきているかもしれないと、蓮は大きな背中に手を回した。
「言葉にしないソムリエくんの気持ちが見えちゃったら、バルドはパニックだろうね~。でも、これは教えないでおこ~」
クロップは蔦を編んでフニャポンの葉で簡易的なテントを作りながら、焚き火に揺れる二人を遠目に見ていた。
ともだちにシェアしよう!

