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第5話 女を抱きまくっていたソムリエは、執着ライオンの純愛を知る 〜カバラカスとフォナムのテリーヌ〜

 バルドの朝は、洗顔から始まる。  顔を洗えば、たてがみや髪も濡れるが、ざっとタオルで拭いてあとは自然乾燥。  今日も目覚めはいい。  余程の疲れがない限り、起きるのが辛いことは無い。  コック服に着替えて仕込みを始めようと歩き出す。    何となく、以前は物置にしていた部屋の前で止まる。  ドアノブを回したら、まだまだ殺風景な中に本だけが積み上げられていた。  蓮の部屋にすると宣言してから、少し荷物は増えたものの、部屋の主は留まってくれていない。 「俺は重いのか……?」  先日の海で着せたフニャポンの葉も、すぐに脱ぎ捨てられ、朝には浜辺を風に飛ばされて転がっていた。 「蓮と一緒に居たいだけなんだけどな……」  バルドは独りごちるが、ガランとした部屋の空気に吸収されて、声は無くなっていった。 『本能が好きって言ってるなら、突き進めばいい。ただし、ソムリエ君の気持ちもちゃんと確認してから次に進むんだよ?』  クロップの言葉が脳裏に浮かび、着替えながら蓮の気持ちを考える。 『嫌じゃないけど……嫌だな……』 『自由に恋愛がしたい』 『そのうちで良いだろ』 「全部……拒否……?」  辿り着いた言葉にバルドは愕然とした。  階段を降りて厨房に向かいながら、冷や汗が湧き出てくるのを感じる。 「いや、噛まれた!噛んでいいって言ってくれるし!」  バルドは首筋に残っている蓮の歯の感触にニヤニヤと顔の筋肉を緩ませた。  しかし、二階の蓮の部屋には住む気はないと言う。 「もう、直接聞いてみるか。蓮の気持ち……」 『重い……』 「いや、聞けない……。俺……やっぱり重いのか……?」  ゴボロを洗いながら、バルドは深く深くため息を吐いた。  蓮が出勤してくるのは昼前くらい。  ワイン蔵の管理、食材の発注や消耗品の在庫管理、志岐とチェシュのタイムカードの管理もしてくれる。  元宮廷勤めなだけあって、蓮は結構有能だ。 「バルド、今日予約の人数変更だとよ。料理大丈夫か?」  電話対応後の蓮に声をかけられ、バルドは肩を跳ねさせた。 「あ、あ、お、おう……」 「どうした?」 「いや?別に……」  蓮は何気なくバルドに手を伸ばす。  ちょうど、作業が一段落したところだ。  チェシュと志岐が来るにも時間がある。  少しだけ触れ合いたい下心で、後ろから抱きつこうとしたが、それに気付いたバルドは、逃げるようにトイレに向かった。 「なんだよ……腹でも壊したか?」  しかし、そこから明らかにバルドの様子がおかしい。仕事はしっかりとするが、蓮の声にだけ異常にビクついているようだ。  閉店後、明日の予約のワインを確かめに厨房を通ると、丸椅子に座って項垂れているライオンの背中があった。  耳も尻尾もだらんと下がっていて、なんだか疲れ果てている。 (これ、声掛けたら、またビビんのか?)  蓮はそばにあったゴンの実を持つと、バルドの背中に向かって投げた。  ゴンの実はバルドに当たってから床に落ち、コロコロと蓮の足元に転がってくる。 (無反応……?これは痛いって言ってなかったか?)  バルドに何かあったかと蓮は考える。  海でも相変わらず天真爛漫に楽しんで独占欲を向けてきて、蓮も絆されてきている。  二人の関係については何も悩むことは無いはずだが。  蓮はそっとバルドの背中に触れる。コツンと額を付ければバルドの体温と心音が伝わってきた。 (心臓早すぎねぇ?……つまり、期待してるのか。仕方ねぇな)  クスリと笑い、ワインの在庫表を置いて、後ろからバルドに抱きついた。  広いバルドの背中は、蓮の頭を優しく支えてくれる。 「バルド……」 「まっ……待て、何も言うな」 「はぁ?」 「い、今はまだ、聞きたくない……」 (何を?)  バルドの発言はよく分からなかったが、何も言わなくて良いならと、蓮はバルドの身体を弄り始めた。 「んっ……蓮……」  コック服のボタンを外して素肌に触れれば、ピクピクと耳が反応して、グルグルと喉が鳴り始める。  バキバキに割れている腹筋に指を這わせ、首筋に唇を這わせる。  バルドにしながら、蓮もして欲しくて疼き始めた身体をバルドの背中に擦り付け、甘えた吐息を耳に吹きかけた。 「れ、蓮、蓮!」 「なんだよ」  急に立ち上がって、慌てるバルドに蓮は不満そうな顔を向ける。 「あ、その……嫌じゃ、無いのか?」 「あ?嫌なわけないだろ」 「え?そうなのか?」 「はぁ?なんだよ今更。俺はエッチは好きだ」 「好き……」 「なぁ、続き、片付けは後でいいだろ?二階行こうぜ」  蓮は、ボウタイを外しながら二階の階段へ向かっていく。バルドを振り返り、妖艶に笑ってついて来いと誘った。  二階の蓮の部屋に入ると、バルドは緊張した様子で蓮に向く。 「なぁ、この部屋……」 「ん?好きに使っていいんだろ?あ、引っ越すかって話か?」 「う、いや。やっぱり……」  バルドにしては珍しく言い淀んでいる。  蓮にはバルドの言いたいことがわかるが、今はそれよりもベッドへ行きたい。  熱い吐息を吐きながら、シャツを脱ぎ、バルドをベッドに座らせる。  そのままのしかかって押し倒そうとするが、バルドはびくともしない。  なにかを真剣な顔で考えていた。 「なぁ、後で考えろよ。俺、もう我慢できないんだけど……」  コック服を脱がし、首から鎖骨にかけて唇を振らせていけば、ピクピクとバルドの体が揺れ、尻尾が振られる。  そのまま押し倒そうとするが、やっぱりびくともしない。 「おい、バルド。やる気ねぇのか?」 「………………俺は、蓮が好きだ」 「お、おう」  急に真っ直ぐな告白に、蓮はたじろぐ。 「蓮は?」  じっと見つめられる濃い金色の目を、蓮はそっと逸らしてしまった。 「言わせんなよ。いいから、舐めろ」  蓮はバルドを押し倒すことを諦め、自分がベッドに寝そべる。  誘うような顔をして、尻尾を触ってやれば、フンと鼻息を荒くしたバルドが覆い被さってくる。 「その気になったか?」 「………………」  バルドは何も言わずに、蓮の首筋を舐める。  息が上がり、興奮しているのが分かるが、どことなく寂しそうな目をしていた。  蓮は、悪いと思いつつも何も言わずにバルドの頭を撫でてやった。 『相手への誠意は見せないとね』 (浮気すんなってことだけじゃねぇよな)  クロップの言葉が浮かんで、蓮も行為に集中出来なくなっていたら、急に乳首を舐められた。 「んぁっ……ぉっ……ちょっ……あぁっ……」  舌で転がされ、もう一つは摘まれる。  時折歯が当たるたびに、ビクビクと身体が跳ね呼吸が乱れた。 「蓮……可愛い……舌触り……すごく良い……」 「んはぁっ……ぁふん……はぁ……バルド……気持ちい……」  薄い腹の皮にバルドの舌が乗り、丹念に舐めながら、柔らかさを堪能している。  歯は当てないように、唇だけで喰まれればゾクリと蓮の腰が痺れた。 「あぁぅ……も……それ……勃つ……」 「胸も……可愛い……腹も……柔らかい……これ、食べたい……」  物騒な言葉が聞こえたが、蓮は軽く笑いながら、バルドの頭を自分の腹に押し付けた。 「いいぜ、食えよ……んっ……」 「食べ………………」  バルドはそのまま、固まって動かなくなった。 「バルド?」 「蓮、良いことを……」 「マジかよ……」  バルドは意気揚々と、カバラカスとフォナムをすり身にしている。 (さっきまで何かを深刻に考えてなかったか?)  蓮は上半身裸のまま、厨房の椅子に座り、いつものように多少イライラしながらバルドの調理を見守っている。  先ほど昂った下半身は、蓮のイライラと共に萎み、欲求不満はさらに蓄積された。 (今まで付き合ってればいつでも出来たんだけどな。バルドはすぐに何か作りたがる。俺の身体を何だと思ってんだ)  冷たい調理台にもたれかかって睨むようにバルドを見れば、すり身に魔鳥卵や魔乳を加えている。  オーブンに火を入れて温め、天板にはお湯を入れている。 「また湯気で火を入れんのか?」 「そうだな、どっちかって言えばしっとりふわふわにしたい為だ」  オーブンの火を調節して、バルドは裸のままの蓮の肌に触れる。 「ん……」 「こんな感じに……ここと、ここで舌触りも違うから、二層にしたい」  ツンツンと胸と腹を突かれ、ピクピクと蓮は反応してしまう。 「な、オーブン入れたら、ちょっとだけ続き……」  ねだるようにバルドを見たら、軽く笑われた。 「オーブンに入れたら、火加減を見ないとダメだろ。ちょっと待っててくれ」 「~~~~」  バルドの無自覚な焦らしプレイを甘んじて受け入れ、蓮は丸椅子の上で器用に膝を抱えて小さくなった。  型に白とピンクの生地を流し込み、オーブンに入れ、バルドは手をかざして中の温度を調節する。  火魔法を使い、料理をしている時のバルドの顔は格好良い。  真剣な職人の顔をしていて、蓮は胸の奥がギュッと締め付けられるような息苦しさを感じる。  ゆっくりと息を吐けば息苦しさは薄れた。 「よし、いいな」  型から外すと、オーブンに入れる前よりも鮮やかな色になっていた。  綺麗に白とピンクの二層になっていて、薄く切ったそれを皿に盛り付け、ムルッチの葉を飾りに散らす。 「よく冷やしてからの方が美味いだろうけど、まぁ味見だ」  フォークに刺されたテリーヌをバルドに差し向けられ、蓮は口を開けた。 「わっ……うま……柔らか……滑らか……」  驚いたような蓮の顔に、バルドは嬉しそうに笑った。 「蓮……」  丸椅子に座る蓮を後ろから抱きしめ、バルドは耳元で低く蓮の名前を呼ぶ。 「蓮の気持ちを考えたんだけどな……俺は、やっぱり蓮と一緒にいたい。ずっと、どんな時も。重くてもこれが俺の気持ちだ。嫌だったら、それも受け入れる。だから、一緒に住まないか?」  飾らないバルドの言葉に、蓮はまた膝を抱えた。  胸が締め付けられて、息苦しくて、ジワッと何かが込み上げてくる。 「蓮?……大丈夫か?」 「バルド……」  息を切らし、瞳を潤ませる蓮にバルドは慌てる。  蓮はバルドに正面から向いて、コツンと胸に頭を預けた。 「わかったよ。一緒に住もう。一緒に住んで、俺の気が済むまで抱いてくれ」 「……………………」 「…………バルド?」 「……ふ……ぁ……蓮!」  一瞬、信じられないと言った顔をした後、バルドは力強く蓮を抱きしめた。  何度も何度も掻き抱いてくる力に、息を詰めながら、蓮は笑ってバルドの背中に手を回した。

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