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第7話 親に自慢したい。良い雰囲気を作ったのに、料理で味わいたいだってよ 〜幸せ全部のせ、当店おすす
「いらっしゃいませ」
今日も女性客を惑わすような完璧な営業スマイルで、蓮はフロアを歩いていた。
優しい物腰と一見クールな仕草。でも、しっかりと客の要望を捉えている。蓮は完璧な接客をする。
しかし、その内面では……
(バルドが抱こうとしてこないんだが???)
卑猥なことを考えながらも、蓮は、次々とワインを勧めて売っていく。
(この前抱き潰したから、もう無理だとか言っていたな。そんなの俺が無理だ!)
カランと店の入り口が開いて、志岐がいらっしゃいませと声を出し、チェシュも反応する。
見れば、随分と小柄な獣人の夫婦が入ってきた。
蓮はおしぼりと水を用意する。
それを取りに来たチェシュを捕まえて、蓮は尋ねた。
「あれは、成人の獣人で良いんだよな?」
「何言ってるにゃん。小さいけれど、もう立派なおじさんとおばさんにゃん」
自分の若さを見せつけるように笑って、チェシュはサービスをしに行った。
子供くらいの身長しかない夫婦を見ながら、蓮は何のワインが勧められるかを考えていた。
『燻製ピッグルとゴボロのなめらか寄せ』
『カラランのグラッセ』
『バロメッツ腸のソーセージ』
『プンランの実入り茶碗蒸し』
小さなご夫婦は、ビーバーの獣人だという。
次々と食事を頼み、美味しいと楽しそうに食べていた。
蓮は、ゼクムのワインを注ぎながら、ありがとうございますと笑顔を向ける。
「あの、この茶碗蒸し?どうやったらこんなプルプルになるんですか?多分、魔鳥卵でしょ?」
「はい。器ごと湯気で火を通すんです。うちのシェフは火魔法が使えるので、細かい火入れは得意なんですよ」
蓮は茶碗蒸しができた時のことを思い出しながら、バルドの自慢をするように奥様に答えた。
(俺の尻の柔らかさとは言えないけどな)
「あら、やっぱり火魔法じゃないと無理なのね」
「バルドの火魔法も随分上手くなったんだな。初めは家を燃やしちゃったもんな!はははっ」
「そうね、そんなことあった。ふふふっ」
ご夫婦は楽しそうに明るく笑い合っている。
「でもそのおかげで、建て直した僕の部屋は広くなったからね。むしろ嬉しいよ!」
「まぁ!」
悲劇なのか喜劇なのかわからない会話から、バルドの知り合いのようだと蓮は推察する。
バルドを呼ぼうかとご夫婦に提案した。
「いいのよ、忙しいでしょ?久しぶりにあの子の変わった料理を食べられたから。それに、あなたの選ぶワインも、お料理にぴったりで、すごく美味しいわ。バルドを手伝ってくれてありがとうございます」
「いえ。私の力を引き出してくれているのは、シェフのおかげです」
「ま、お上手ね~」
蓮はバルドを上げつつ、自分も下げない話し方で、笑いを誘う。
そんな話をしていると、厨房の方からバルドがフロアを見に来た。
普段フロアは全て任せているからと料理提供が滞らない限り出てこないのだが。
「あ、やっぱり。親父、お袋。来るなら連絡くれよ!」
(えっ、バルドの両親?!)
蓮は急に緊張が走り、一瞬だけ顔がこわばった。
「あら、気付かれちゃった~」
「美味しかったぞ、バルド」
「それはありがとう」
ストレートに褒められて、バルドは頬を掻きながら照れる。
「ほとんど帰って来ないから、お店を燃やしてないか確認に来たんだ」
ご主人のジョークは少しきつい。
「やだ、あなた不吉ね。ふふふっ」
「まぁ、顔を見れたらとも思っていたよ。たまには帰ってきなさい」
「そうね。そろそろいい相手も出来たんじゃない?」
「えぇっ!?ま、まぁ」
チラリとバルドに視線を向けられ、蓮はまた顔をこわばらせた。楽しそうな夫婦の顔がさらに明るくなった。
「あら、やっぱり。それならお家お掃除しておかないとね」
「いや、俺もうあの家入れないから」
物理的に難しいと笑うバルドに、蓮はどんな家だと顔を引き攣らせる。
「それもそうね。もしかしたらお相手も無理かもしれないわね」
「だったら、母さん、家を増築すればいいさ」
ビーバーの獣人夫婦は、じゃあ早速と席を立ち、会計を頼んできた。
「あ、親父、お袋、俺の相手なんだけど……」
バルドの言葉は、二人に届くことはなくさっさと帰っていってしまった。
蓮は、嵐が去ったかのような空気に緊張が解け息を吐く。
二人を追えなかったバルドの肩に手を置いて、ぽんぽんと叩いてやった。
「なぁ、お前は隔世遺伝か何かなのか?あのご夫婦からライオンが生まれるもんなのか?」
「ん?あぁ。育ての親だ。母親は別にいる。父親は知らん」
「え…………」
衝撃の事実をサラリと言われ、蓮は何を言えばいいのか迷った。
バルドは、何も気にする事なく、蓮を自慢したかったのにと呟きながら厨房に戻っていく。
蓮はしばらくバルドの出生に感情が追いつかなかったが、テーブルから呼ばれる声で、仕事へと戻った。
自室のテーブルに、キャルカのワインと、ワイングラスを並べ、蓮はゆっくりと椅子に座った。
ワイングラスは二つ。
ペアグラスだ。
このグラスは、蓮の成功の証だったのだが、今は少し違う意味を持ち始めている。
「親父の言う通りになってるのは癪だな」
自分の父親を思い浮かべながら、バルドの話を思い出す。
バルドは随分と複雑な環境で育っていた。
バルドに対して、可哀想というよりか、むしろ幸せそうで少し羨ましくも思った。
「俺は本当の家族なのに、会いにも来ないもんな」
ポツリとこぼして、自虐的に蓮は笑う。
ドアがノックされ、バルドが顔を出した。
相変わらず、綺麗にパジャマが着られていて、きっと今日も一緒には寝るつもりがないのだろう。
「シャワー、良いぞ?」
バルドの言葉にガッカリするが、それよりも、少しだけバルドと一緒にいたかった。
「なぁ、一杯飲まないか?」
「良いのか?」
バルドを部屋に誘い、蓮はワインを開ける。
「これ、この前も飲ませてくれたな」
「あぁ、俺が実家でもよく飲んでたものだ」
「実家か……」
(そういえば。この前バルドが、実家に挨拶とか言ってたな)
「蓮は、どんな子供だった?」
バルドから続いた言葉は意外なものだった。
「お兄さんがいるんだろ?よく遊んだか?」
「は?なんで兄貴のこと知ってんだよ」
当たり前のように知っているとバルドは言葉を続けたが、蓮には教えた記憶はない。
「出会った日に、家のこと教えてくれただろ」
「はぁっ!?」
抜栓したコルクを叩きつけるように、テーブルに置いて蓮はバルドに詰め寄る。
珍しく焦った様子の蓮に、バルドは笑う。
「覚えてないのか」
「い、いや、あの時は随分飲んでて……」
「あぁ、面白かったな」
「なぁ、俺家族のことなんて言ってた?」
少し前のバルドとの関係なら、知ってほしくないことは山ほどあるが、今となっては多少知られても良い。
いや、知っていて欲しいと思っている。
「んー、やたらと優秀なお兄さんがいる事と、お父さんとお母さんは、お兄さんを溺愛してる事。あと、伯爵家なんだろ?宮廷ソムリエになって、お兄さんに張り合えると思ったのに、追放されたって」
「全部知ってたのかよ……」
兄に対しての劣等感まで知られていたのは少し恥ずかしかった。
「蓮は、両親に会いにいかなくて良いのか?宮廷を出てから全く帰ってないんだろ?」
「良いんだよ。追放されたことは家に伝わってるだろうし、こんな息子は戻ってきて欲しくないだろ」
「そんなことあるか。大事な息子だろ」
「お前の育った家とは違うんだよ。実力がなければ評価はされない。兄さんが家を継ぐから、俺は用無し。それも追放された次男だ」
蓮は薄く笑いながら、ワインを注いでいく。
ワイングラスには、薄く黄色がかった色のワインが綺麗にグラスの丸みに収まった。
『宮廷ソムリエとして、励みなさい。このグラスは、いつか母さんのような人が現れたら、一緒に使うといい』
棒読みのような父の言葉を思い出して、それでも、宮廷のソムリエバッジに笑ってくれた父が嬉しかった。
「このグラスも、もう10年経つのか」
「え?」
「いや、10年前にもらって、今、初めて使う」
「大事な物なんじゃないのか?」
「良いんだ。こうやって使うように言われてた」
バルドに一つ渡して、蓮はグラスを傾ける。
キンとグラスが触れ合って、一口飲むと、かつては酸味を強く感じていたけれど、今はやわらかいコクを強く感じるように思う。
「バルド、俺を拾ってくれてありがとな」
「っ……」
まっすぐな蓮の言葉と柔らかい表情に、バルドは言葉を失くした。
何も言えないで固まるバルドに、蓮はイタズラっぽく笑って立ち上がる。
座ったままのバルドを後ろから抱きしめて、耳元で囁いた。
「俺、お前を親に会わせたいと思ってる」
「ご、ご挨拶かっ?」
急に姿勢が良くなるバルドが面白い。
「いや、挨拶なんて良いんだよ。ただ、俺も自慢したい。俺の幸せは、肩書きじゃないってあいつらに見せつけるんだ」
「蓮…………」
バルドは、たまらずに蓮に振り返って、強く抱きしめた。
「俺も、俺も蓮を自慢したい!」
バルドの興奮は止まらず、言葉が続く。
「蓮は、美人で、賢くて、仕事ができて、良い匂いで、可愛くて、舌触りもいいし、噛みたくなる。それに、あったかくて、色々と止まらなくなって……」
「わかったわかった。親に言うのは良い匂いくらいまでだ。な、ベッドこいよ」
必死に話すバルドを宥め、蓮はベッドに腰掛ける。しかし、バルドは動かない。
「止まらなくなるんだった。だから、だめだ」
「あー」
余計なことまで思い出させたと、良い雰囲気で押し切りたかった蓮は頭を抱えた。
「じゃあ、触るだけだ。それなら良いだろ?」
「……触るだけなら……」
(よし、ベッドで触り合えばこっちのもんだ)
蓮は、上半身を脱ぐと、バルトのパジャマのボタンを外していく。
全部は脱がせず、隙間から手を入れた。
相変わらず、逞しすぎる筋肉に指をそわせれば、身を捩る姿が少し可愛い。
「な、俺も触ってくれよ」
バルドは、そっと蓮の胸の突起に指を置いて、潰すように転がした。
「んふっ……急だな……んあぁっ……」
「あ、痛いか?いつも舐めてたから」
「あぁそうか。じゃあ、舐めてくれ」
悩んでいるのか、バルドはゆっくりと顔を近づけてきて、舌を這わしてきた。
「あっ……あぅっ……んふぅ……」
指よりも快感の強い刺激に、蓮は、息を切らしながらベッドへ身体を倒した。
それを追って、バルドは蓮に覆い被さり、胸から腹へと舌を乗せていく。
「蓮……この舌触り……最高だ……」
「んふぅ……もっと……バルド……もっと欲しい……」
「あぁ、蓮の体で思いついた料理、親父もお袋も美味しいって言ってくれたな」
「ん?……んっ……あ、あぁっ……そ、だな……」
「この料理も、自慢だ……」
「んっ……バルド……下、脱がせてくれよ……」
蓮は、切羽詰まった声でバルドに懇願するが、バルドは動きを止めていた。
「蓮を、一気に味わう方法があるな」
ニヤリと笑ったバルドは、ベッドを降りた。蓮は、バルドを捕まえ損ね、ため息を吐く。
大きく広げたピザ生地に、タムタムのソースを塗り広げ、バロメッツ腸のソーセージを輪切りにして散りばめる。
燻製ピッグルの薄切り、ゴボロとカラランは一口大にして並べていく。
魔乳のチーズを乗せたら、オーブンでしっかりと焼く。
「茶碗蒸しとブラックカウのスジ肉は?」
蓮は、オーブンの前で火を見るバルドの背中に覆い被さって腰を振る。
「今日は、上半身しか舐めてない」
「………………じゃあ、マフマフの香りが足りないんじゃないのか?」
「蓮の香りは、俺だけのものだ」
ニカっと笑ったバルドは、蓮を抱きしめる。
蓮はむず痒さを感じながらも、バルドの背中に手を回し、腰を擦り付けた。
「な、ピザが焼けるまで時間あるだろ?」
「いや、ピザはすぐに焼けるんだ」
スッと離れたバルドに、蓮は舌打ちをした。
オーブンから出てきたピザに、バルドはゴンの実を砕いて散りばめた。
「さ、食ってくれ」
蓮は、一切れ掴むと熱々の生地を口に入れる。
香ばしい生地が、さっくりともっちりとしていて、どの食材も主張しつつお互いに邪魔しない。
「うま……ジャンキーな感じだけど、ランチに食べたいな」
「ランチか。営業時間変えるのは難しいな」
「じゃあ、テイクアウトだ」
「そうだな。それもありか」
蓮は二階から持ってきていたキャルカのワインを飲み、そのマリアージュを堪能した。
(やっぱり、バルドの事はいつか自慢しに行く)
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