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第8話 我慢してじっくり煮たら、旨さも快感も増すんだな 〜魔棘鳥のじわじわコンフィ〜

(あれ、俺も、バルドの親に挨拶とかした方が良いのか?)  営業中、ワインをサーブしながら、ふと蓮は思う。  出生はともかく、あのビーバーの夫婦はバルドの恋人に会いたがっていた。  蓮と話はしたが、正式にバルドの恋人だとは言っていない。 (バルドも親に自慢したいとか言ってたし。え?挨拶?なんか緊張してきたな……)  そんなことを考えて、蓮は珍しくワインを注ぎ過ぎてしまった。  サービスですと言って誤魔化しながら、バックヤードへ戻っていく。  閉店後、試供品のワインを開けながら、また蓮は考え込む。 「挨拶か……」  もちろん、そんなことは今まで一度たりともしたことが無い。  しかし、バルドとは一緒に住んでもいる。この先のことは分からないが、住居を共にしてる事はちゃんと報告すべきだろう。 (バルドの貞操観念からして、結構箱入りっぽいからな) 「いや、でも挨拶って……」 「考えすぎじゃないですか?」  急に、隣でシルバーを磨いていた志岐が蓮の思考に入ってきた。 「声、出てたか?」 「はい。しっかりと」  志岐の返事に蓮は、若干の恥ずかしさをコルクにスクリューを入れ込むことで誤魔化した。 「蓮さん、考えすぎですよ。気軽に遊びに行けば良いじゃないですか」 「いや、そういうわけにもいかないだろ」 「そうですか?チェシュさんは俺の家に遊びに来て、ご飯食べて行きましたよ」 「は?え、お前らそういう関係になったの?」 「まぁ」 「はぁ?!え、で、両親公認なのか?」 「そうですね」  蓮は、まだまだ子供だと思っていた奴らが急に大人の階段を駆け上がってきたような、自分の足場を持っていかれたような感覚に、思わず手に力が入った。 「シェフのご両親なら、優しく蓮さんを迎えてくれますよ」  ニコリと笑って、志岐は親指を立てタイムカードを押していった。 (はぁっ!?) 「あっ!」  ポキリと、コルクが折れ、ボトルの口に半分残ってしまった。  そんな蓮の失態をクスリと笑いながら、チェシュは志岐の頬に尻尾を撫で付けて、一緒に帰っていく。  二人の急なマウントをどう処理すればいいか分からず、蓮はワインボトルから手を離した。 (いや、若者め……)  その夜、折れたコルクをワインに沈めたボトルで、蓮は風呂上がりのバルドにサーブした。 「珍しいな。蓮が抜栓をしくじるなんて」 「まぁ、色々な……」 「お、これ良いな。新しいワイナリーのか」 「あぁ、ベンネのワインだ」 「ベンネ?」 「俺も初めて飲む。真っ赤な果実で、滅多に採れないやつを栽培させたらしい」  そう言って、蓮も一口飲む。 「渋みが深くていいな。肉、いや油の多いものなら、濃厚な味わいになる。ベンネ自体も食べてみたい」  饒舌に話す蓮に、バルドはニコリと笑う。 「良いな。いつかワイナリーを蓮と巡ってみたい。きっと楽しいぞ」 「あー、それ有りだな。旅行か」 「し、新婚旅行?とか?」 「……………………」  黙った蓮に、バルドは慌てる。 「あ、悪い。重いよな。その、ただの旅行でいいんだ」 「いや……考えとくよ」 「え!?」  思わぬ返事に、バルドは立ち上がった。 「なんだよ。俺が前向きだとおかしいか?」 「い、いや。嬉しくて……」  じわっと込み上げる嬉しさを隠そうともしないバルドの表情に、蓮は立ち上がる。  しっかりと着られたパジャマのボタンに手をかけ、一つ外すと、バルドは一歩下がった。 「なんでだよ」 「いや、嬉しいんだ。だけど……」  壊したくないと、バルドは眉を下げる。 「いや、これ以上の禁欲は俺が持たねぇ」  蓮はそう言って、自ら服を脱ぎ捨て、裸になると、バルドのベッドに寝そべった。  バルドに手招きをしてやれば、ゆっくりと近づいてくる。 「はぁ、は……蓮……まだ、ダメか……?」 「まだだ……まだ……ぅっんんっ……」  蓮は、バルドの指を締め付けながら、快感に耐えている。  抱き潰さないために、蓮が提案したのは、一回だけ、とにかく濃厚にすること。  かれこれ、一時間はお互いの体を触り合っているだけだ。 (辛い……もう突っ込んで、ぐちゃぐちゃにされたい……)  ずっと燻っている熱の解放を求め、蓮は身を捩りながら、バルド自身を手で擦り上げる。 「んっ……蓮……もう……」 「まだ、手だけで我慢しろ……」 「う……でも、もう……出そうだ……」 「情けないこと言うな……あぅっ……」  バルドは蓮の中の一番反応する部分をコリコリと刺激してやる。 「あっ……バカ、待て……それ、出る……」 「蓮も限界だろ、もう……」 「わかった、わかったから……んあぁっ……」  バルドの指が引き抜かれ、限界に張り詰めたバルド自身があてがわれる。 「ゆっくりだぞ……」 「ん……ぅん……」  ズブズブと入ってくる感覚に、蓮は背をのけ反らせる。  奥までバルドを感じると、ジワリと暖かくなった。 「気持ち良い、蓮……今日は、この一回だけ」 「あぁ、堪能しろ」  ズチュッとバルドが動き出し、擦れるところから、またジワリと熱が湧き起こる。 (さっきからずっと熱いな……ジリジリと焼かれるみたいな) 「熱いな、蓮……気持ちいけど……激しくするのが勿体無い……」 「あぁ……んんっ……熱い……バルド……気持ち、良い……」  激しく揺さぶられるのとは違う、ねっとりとした快感が、じわじわと体を巡っていく。 「あぁ……ぅん……クセになりそ……これ……」 「あ……良い……な……蓮、可愛い……」  とろけた表情の蓮を抱きしめ、バルドはまたゆっくりと奥に入り込む。 「あ……んふっ……」  中でバルドの形を感じながら、蓮は限界も感じた。 「バルド……も……」 「蓮……これ……良い……そうだ、これだな!」 「は?ま……待て!」  閃いた顔をしたバルドに、蓮は焦ってバルドを締め付ける。  今離れられたら、イキそびれた体が持たない。 「イかせてから行け」 「ん?あぁ、そうだな」  ズンと急に強くなった腰の動きに、蓮はあっけなく達して、脱力した。  しっかりと欲を吐き出したバルドは、満足気に蓮を撫で、頬を舐めてからコック服に袖を通した。  ジブジブと浅めの鍋に入った油が音を立てている。  |魔棘鳥《マキョクチョウ》の骨付き肉とツップナーが入った油は、フリットの時とは違って、低い温度で煮られている。  蓮はまだじんわりと感じる体の熱に、温泉に浸かっているような心地よさを感じていた。 (温泉、行きてぇな……新婚旅行か……いや、その前に……)  バルドの育ての親を思い出し、蓮は姿勢を正した。 「なぁ、俺、お前の両親に挨拶した方がいいか?」  火を見ているバルドの背中に真剣に問い掛ければ、バルドは軽く笑った。 「いや、俺の実家、多分入れないぞ」 「は?」  そういえばそんなことを言っていたなと蓮が思うと、バルドが補足し始めた。 「川の真ん中だしな。まず、泳いで行く」 「…………」 「子供の頃はよく家の修復させられてたな。ははっ」  バルドの泳ぎが上手いのは、そのおかげかと、蓮は妙に納得した。 「お前、家に入れなくなってからどうしてたんだよ」 「ん?そこからは、家を出て修行だ。13の時だったかな。師匠はゾウの獣人だったから、とにかくデカいところで困らなかったぞ」 「そうか」  そこでクロップと一緒だったのかと、蓮はバルドの半生が繋がった。 「よし、良いかな」  バルドは火を止めて、油の中から、|魔棘鳥《マキョクチョウ》の肉を取り出す。  まだまだ色の薄い肉を今度は、フライパンで焼き始めた。  香ばしい香りが広がるが、蓮は魔棘鳥も苦手だ。そもそも、固くて人間には合わない肉なのだ。 「焼きたてだ。付け合わせはないけど、食べてみてくれ」 「んー」  フォークとナイフを渡され、骨に沿ってナイフを入れれば、スルッと肉に刺さった。  長く煮込んだ訳でもないのに柔らかい。  一口入れると、蓮でも噛め、歯応えとツップナーの香りが最高だった。 「美味いな。煮込んでいた油じゃなくて、魔棘鳥の油がじわじわ出てくる。これ、さっきのベンネのワインに合うな」 「だろ?ワインの味もだけど、蓮の中がじわじわ熱くて、最高に気持ち良かったからな」  ニカっと笑うバルドに、一瞬だけフォークの手が止まった蓮だが、顔を上げてニコリと微笑む。 「俺、温泉行きたい」 「いいな、行こう。新婚旅行だ」 (あ、そうだ。挨拶……)  蓮はまた同じ問題を思い出し、ふぅとため息をついた。

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