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三章:一人ぼっちでも勇者と名乗れば勇者01
「――はぁこれからどうしたもんかなぁ。俺、ぼっちじゃん」
魔王が紙飛行機に書かれた内容を読み終えた頃、カインは宿屋から離れ往来へと出ていた。
特に目的があるわけでもなく、ただぶらぶらとそこら辺を歩く。
「うーんとりあえず紙ヒコーキはまだ来ねーだろうし」
その時だった。
「おっと言ってるそばから! 何度も刺さってたまるか!」
ヒューンと音をたて物凄い勢いでぐさりと地面に突き刺さる。
すんでのところで避けたものの、僅かにかすった膝から血が滲み、カインはその犯人を引っこ抜く。
「いってー、なんだよあいつ。忙しいんじゃなかったのかよぉ」
ぶつぶつ文句を言いながらも魔王からの紙飛行機を手にとり広げた。
「あー何々? いったい今度は何をしでかしたんだ。……なんだよそれ、まるで俺が悪いみたいじゃん。……無理してくるな。お前一人じゃ荷が重い、だあぁ!?」
手紙の両端を今にも破らんかの如く震えながら持ち、ふはははと気味の悪い笑い声をあげ静かに「決めた」と呟いた。
「仲間なんかいるか!」
手に持つ紙を真っ二つに破る。同時に往来のど真ん中で北の空へと向かって怒りに任せて叫んだ。
「必ず俺一人でもやってやる!!」
かと思うと今度は上機嫌に紙とペンを取り出す。
すっかり忘れていたのだが北の山は年中雪が降り積もるそれはそれは有名な雪山なのだ。
何を準備したらいいか全く分からないカインは魔王に教えて貰う為例の物を作り空へと振りかぶる。
「魔王まで飛んでけー!」
紙飛行機は綺麗な弧を描き、青空に向かって飛んでいった。
その姿を眺め「よし」と満足したカインは急に鳴った腹の音 に、そういえば朝ごはんもまだだったと露店を冷やかしに海へと向かう。
実はここ、小さいながらもそこそこ有名な港町なのだ。
港に開かれた露店では、獲れたばかりの新鮮な魚介類は勿論、美味しそうなファーストフードが並ぶ。
「おーやってるやってる」
賑やかな港に入り、カインは早速露店を見て回った。
「腹減ってるし何にしよっかな~まぁとりあえずサイダーと海鮮焼きとたこ焼きと氷菓と~あ、そうだった。無駄遣いするなって言われたんだった、えーとじゃあ喉乾いてるからサイダーはOKだろ? でもお腹空いてるからー、あ! サイダーとか諦めてあっちにある食堂に入ろっと! そしたら水がただで飲めっしな!」
カインは見つけた食堂の中に入ると空いていた席に座り、どれにしようかとメニューを眺める。
「よっしこの魚定食にしよっと、おばちゃんこれよろしくー!」
ほどなくして
「う、うま! なんだこの魚の旨さ! なんか水もすっげー美味しいぞ!」
頬っぺたが落ちるんじゃないかと思うほど旨い料理が運ばれてきた。それを全て平らげカインは食った食ったと店を後にする。
すると、丁度よく北の空がきらりと光り、気付いたカインは構えた。そして次の瞬間には紙飛行機をナイスキャッチ。
「へっへ~視界に入れば取れるんだよな~えーと何々~?」
ぺらりと紙飛行機を広げると……
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とりあえず防寒具をしっかり揃えろ。
間違っても腹を出した袖無しの服で
雪山を越えようなどと思うなよ。
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読んだ瞬間ギクリとカインの顔がひきつる。何故なら……。
「ヤベー、俺書いてるまんまの服装なんだけど、だって暑いしさー丈短いほうがさ……えーとあとは店の者に聞いてみろ、か。そっか! 確かにお店の人に聞いた方が早いよな~よし!」
そうと決まればカインは早かった。
直ぐに店を見つけ出し入った瞬間に大声で叫ぶ。
「すいませーん! あーおじちゃーん! 俺あそこの山越えようと思うんだけどー! あ、うんそう年中雪降ってるそこの! それでー……」
そして、出てくるのも早かった。
「…………足りない……三万コイン、足りない」
すっかり項垂れて何度も指を数える。
「登山デビューおめでとキャンペーンの防寒服が上下セットで八千コインでしょ? カイロと手袋とかピッケル? とか細かいもんにやっぱり一万五千コインぐらいで、テントが一万五千、そんで食べもんに五千、全部で四万三千コイン。で、俺の所持金が一万三千コイン…………うん、やっぱり三万足りない」
何度計算してもこの現実は変わらない。
「こ、こうなったら!」
カインは物凄い気迫で走り出す。
「バイトだああああああ!!!!」
かくして、自称勇者のバイト大作戦が始まったのである。
そして何度も言うが、そうと決まったらカインは本当に早かった。
その日のうちに次々とバイト先を決めて歩き、驚く事にもうその場から働き出す。
ある時は市場の売り子。
「いらっしゃいませー! あ、お兄さんこれいかがっすか! そこの奥さん! これ今朝獲れたばかりの新鮮な魚なんですよ! 今日の食卓にぴったりですよ!」
またある時は居酒屋の店員。
「お待たせしました! オムライス一つと生ビール二杯です! すみません! オムライスもう一つ追加だそうです。あと二番と五番テーブルに海鮮サラダと肉の丸焼き、コーヒーと生ビール二人分お願いします!」
またある時は船の水揚げの手伝い。
「あ、おやっさん! その箱おれ運びます! あっちすよね任して下さい! これはこっちすね分かりました! あ、すいやせん先輩! それ倉庫にお願いしやっす!」
またある時は野獣の討伐。
「うおりゃああああ! 死に晒せええええ!」
「ギャシャー!」
ドスッドバッザン!
身の丈よりもなん十倍もある大蛇は八つ裂きになり、四方に散った。
「はぁはぁ、よっし倒した! 依頼完了っと!」
全身から流れ出る汗を拭い、そのまま他の野獣の討伐へと大剣を片手にひた走る。
ちなみにさっきの大蛇は焼いて食べると旨い。
「まっだまだあー!」
その日森のあちこちから少年と野獣の叫び声が木霊し、翌朝、怪奇現象として新聞の一面を飾る事になるなど当事者である彼らは知る由もない。
「はぁはぁ、なんかひっさびさに勇者っぽい事してる気がする」
そしてまた走り出す。
「うおりゃああ! 金じゃ金ー!!」
ズザンッ!
「金が必要なんじゃあああああ!!」
ドスッドスッ!
……果たして勇者っぽいとはなんなのか、これはもう尋ねたら多分負けである。
――すっかり日が暮れて、全ての依頼を片付け終わったカインはボロボロ或いは土草や汗やらでどろどろになりながら宿屋へと戻った。宿屋の主人はぎょっとして、慌てて風呂を勧める。
素直に言うことを聞いて汗も疲れも全て洗い流し、ようやく寝台へと身を預けた。
勿論いつものように素っ裸で。
これを魔王が知ったならきちんと服を着て寝ろと怒るところだ。
「はぁ~疲れた、っイテテ」
野獣との死闘で出来た傷がひりひりと痛む。
「う、うう。い、忙しすぎて、手紙書くのも一日一通が限界なんだけど……魔王までの道のりが遠いぜ」
寧ろそれで全く問題ないのだが、と言うかこの状態で毎日必ず一通は出しているというのが驚きの執念である。
カインはもの凄く残念そうにしながらも、ほどなくして眠りにつくのだった――。
◇◇◇
その夜、魔王の元に一通の手紙が届いた。
「なんだ? 紙飛行機か」
ふらふらと頼りなく揺れながら魔王の手の平へと着地する。
それを開いてみれば――
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おやすみ
by勇者
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「…………最近こんなのばっかりだが、何をしているんだあれは」
やれやれと肩をすくめる魔王の心中は、残念だがカインへ届く事はない。
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