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エピグラフ(10)

――イストリバの王宮では、選ばれし二人の錬金術師、アルダスとダブラーが「祝福の香」を納める日を迎えていました。  まず焚かれたのは、ダブラーの香。  蜜を溶かしたような甘さと、熟成された樽の深みが混ざり合った匂い──まるで古の誓いを思い起こさせるような、温かくも神聖な匂いでした。 「……これは素晴らしい」  王も従者たちも、静かに目を閉じ、うっとりと香に身を委ねます。その香の礎にクォークの工夫があったことを、知る者はいませんでした。  続いて焚かれたのは、アルダスの香です。けれども、材料の一部を再現できず、煙はどこか尖り、香りも淡く、王女の記憶とは遠いものでした。 「……ダブラーよ。そなたを我が国の御用達としよう」  国王の言葉に、静まり返っていた空気が揺れました。ダブラーは隣のクォークに目をやり、がしっと肩を抱き寄せます。 「やったな、俺たち!」  歓喜の中、アルダスはただひとり、香から立ちのぼる白煙を見つめていました。 『アルダスとダブラー:二人の錬金術師』第9章より

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