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第10章:油断ならない弟子(1)

 王室御用達――その肩書きは、アルダスたちにとって誇らしいものだった。一方で忙しさは倍増し、店には貴族からの注文やら、王室の視察やらが絶え間なく押し寄せてくる。湊も朝から晩まで対応に追われ、右往左往していた。  結局、家に帰ってからも調合して溜まった注文書を片付けなければいけない。寝不足の中、張りつめる神経。追い打ちをかけるような納期の連続に、湊の体は悲鳴を上げつつあった。おそらく、アルダスもミレイユも同じだろう。  あれからダブラーには会えていない。忙しさのせいもあるし、ダブラーも会いに来なかった。おそらく本当に愛想をつかされたのだろうと湊は思った。  ずっと言えなかったことを口にすると、こんなにも自己嫌悪に陥るのはなぜだろう。心が晴れるのは、ほんの一瞬なのに。湊は伊堂寺で懲りていなかった自分に苦笑した。  ダブラーは笑い飛ばさずに、ひどく傷ついたような顔をした。それが湊の脳裏に焼きついて離れない。湊はダブラーから貰った金貨を握りしめる。 「僕はアルダス様が好きで、ダブラーなんて……」  口にしてみても、思い浮かぶのはダブラーの顔。眉を八の字にして、慈しむような眼差しで見つめてくれた優しい顔。これ以上、自分に言い聞かせても空しいだけだった。  そんなある日のこと。用事で外出していたアルダスは帰ってくるなり 「ギルドを通して、見習いを紹介してもらったよ。明日には面接に来るだろう」 と言った。 「まぁ、これで私たちも少しは楽になりますわね」  ミレイユは無邪気に喜ぶ。いつも華やかな彼女も、最近は疲れを隠せなくなっていた。  嫌な予感がする……と湊は思った。物語のとおりならば、面接に来るのはエリックのはずだ。彼こそ、調合で手抜きをしたばかりに、アルダスの評判を下げる元凶だった。  浮かない顔をする湊を見て、ミレイユがのたまう。 「あら、あまり嬉しくなさそうね」 「自分の立場が奪われるのを危うんでいるんじゃないか?」  アルダスとミレイユは顔を見合わせて笑う。冗談なのか皮肉なのか、考える余地もないほど湊はエリックのことが気になっていた。

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