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第11章:金色の指輪(1)
最近、ミレイユは体調が悪いと言って、頻繁に休むようになっていた。彼女のいない店の中は、いつもより静かである。彼女目当てで来る客やエリックはがっかりしていたが、湊はなんとなく休む理由が分かるような気がしていた。
そんな生活が二週間続いた頃、閉店して片付けをしていた湊は、背後からアルダスに呼び止められた。大事な話があると言う。湊は一瞬ためらった。一人では聞きたくない。せめてエリックも一緒にいてくれたらと願うが、既に帰った後だった。
「話とは何でしょうか」
湊は緊張した面持ちで尋ねる。
「私とミレイユの間に子どもが出来たのだ」
アルダスは嬉しさを隠しきれない表情をする。
やっぱりか……と湊は目を伏せた。遅かれ早かれそうなるとは思っていたが、いざ現実になると胸が痛む。これで引き返せないところまで物語が進んでしまった。
「喜んでくれるだろ?」
アルダスの不安そうな声が聞こえて、湊は慌てて笑顔を作る。
「もちろん。おめでとうございます」
言葉とは裏腹に内心は穏やかではなかった。
「それで折り入って頼みがあるのだ」
「頼み……ですか?」
「ミレイユに贈る結婚指輪を作ってほしい」
アルダスの声に悪気はこもっていなかった。湊にとってはそれが何より辛い。なんて残酷な命令をするのだろう。
「あいにく、店を大きくしたばかりだから金が無くてね。おまえなら銀や銅から金を作れると思ったのだ」
確かにメッキの技術を応用すれば作れないことはない。もちろん、湊の腕を見込んでのことだろう。
「分かりました」
どこから出てきたのか、穏やかな声。結局、湊は引き受けてしまった。
「おまえなら引き受けてくれると思ったよ」
アルダスは無邪気に喜ぶ。その様子に湊は苦笑するしかなかった。
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