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第11章:金色の指輪(2)
次の日の夜。湊は宝飾職人の工房にいた。金の指輪がどれくらいの値段で売られているのか見に来たのだ。けれども、湊が持っている銀貨と銅貨、たった一枚の金貨を合わせても到底足りない。
湊は職人に謝って店を出た。途端に暗闇の中から誰かが抱きついてくる。酒とタバコと、バニラのような甘い匂い。
「クォーク、こんなところで何をしているんだ?」
ずっと会いたかった人。ぬくもりが体中に広がる。顔を上げると、ダブラーが真剣な眼差しで見下ろしていた。いつもとは違う、気安くない態度に湊は戸惑う。
「指輪を見に来たのです」
「ふーん。結婚するのか」
冗談のつもりで言ったのだろうが、ダブラーの声は震えているようだった。湊は心配を打ち消すように首を横に振る。
「アルダス様が結婚されるのです。ミレイユ様と」
「……なんで、おまえが指輪を買わなきゃいけないんだよ」
「それは……」
湊は、アルダスから指輪を頼まれた経緯を説明した。ダブラーはしばらく腕を組んだまま黙り込んでいたが、やがて重たげに口を開いた。
「クォーク。本当にそれでいいのか?」
良いわけがなかった。アルダスは自分の気持ちを知っているのに。それでも、湊の中でケリはついていた。
「僕は自分の実力を試したいのです」
と嘯く。
「実力?」
「銅や銀の指輪を金に変えて見せます」
「そんなことできるのかよ……。いや、おまえなら出来るかもしれねぇな」
ダブラーは面白がっているようだった。いつもの笑顔を見られて、湊はホッとする。
「分かった。俺も手を貸すよ。何でも言ってくれ」
湊が頷くよりも早く、ダブラーは強く腕を引っ張っていた。
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