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第7話 AさんとBさんといると落ち着くの、なんでかな。
「えっと、ここ、かな」
えーさんとは、仕事を終えて最寄駅の近くで待ち合わせになっていた。△○ビルの下で待ってて、と言われたからそうしている。けれど、ここを待ち合わせの場所にしている人は多いのか、あたりは人ばかり。果たしてこの人集りの中からえーさんを見つけられるだろうか。
「お待たせ」
「あ、こんばんは」
そう思ったのは僕の杞憂だったらしい。えーさんの通る場所には自然と周りの人と距離ができる。皆、少し離れて見惚れているんだ。女の子なんかはきゃーきゃー叫んでる。男の人もちらちらえーさんを見てる。やっぱり、華がある人なんだな。
「じゃあ行こっか」
「はい」
僕はえーさんの後ろをついていく。人集りから抜けた後で、えーさんの歩くスピードが落ちた。僕の隣で、目線を合わせてくる。
「急に誘ったから、来ないと思った」
「暇だったので……」
「敬語。やめよ。俺たちの前では敬語禁止ね」
「あ、うん……」
仕事では堅苦しい敬語ばかりだから、タメ口で話すのは久しぶりだった。家でも話すとしたら敬語だし、僕には高校卒業してからも繋がってる友達なんていないし。
そういうことを考えていたからだろうか。えーさんが立ち止まり、僕の肩を掴む。そっと、大丈夫だよと言うように。
「泣きそうな顔してる」
「え?」
そう言ったえーさんの顔は真剣で、ちょっと怒ってるようにも見えた。嫌な思い、させちゃったかな。せっかくえーさんに会えて少し気分が晴れたのに。
ますます俯く僕の顔をえーさんが両手で包み込む。大きくて、あったかい手のひら。
「俺の前で、そんな顔しないで」
えーさんは真っ直ぐ、射抜くように僕を見てくる。
そして、無言で僕の手を掴んだ。大股で歩くから僕はついていくので精一杯だ。だんだんと景色が変わってくる。ここ、ホテル街っていうのかな。お城みたいな建物とか、縦に長いお洒落な外観の建物が見える。その一つにえーさんは入っていった。
部屋の中に入ると、えーさんは上着を脱ぎだす。このままするってこと? 僕はあたふたとして部屋の隅に立った。僕が良いって思うまでは、そういうことはしなくてよかったんじゃないの? びーさんの言葉が頭の中でぐるぐる回る。
「しぃくん。おいで」
えーさんはベッドの端に腰掛けて僕を呼んだ。手を広げて、おいでおいでと手招いている。僕はびくびくしながらえーさんの側に寄った。
「っ」
力強く抱きしめられる。柑橘系の匂いが、えーさんの服からした。柔軟剤? 香水かな。どっちだっていいや。リラックスする、いい匂い。えーさんの行動には驚いたけど、えーさんの腕の中にいるのは嫌じゃなかった。
男子の平均身長より背が低い僕は、180センチ近くあるえーさんの体にすっぽりとおさまってしまう。
「どう。落ち着いた?」
「……うん」
ようやく離してくれたのは、たっぷり十分ほど経ってからだった。
「しぃくんって、こういうの慣れてない?」
きゅ、とえーさんが僕の手を繋ぐ。恋人繋ぎ? 昔、ドラマとかで見たことあるけどするのは初めてだ。
だから僕はえーさんの質問にこくり、と頷いた。そっか、と嬉しそうにえーさんが呟く。
「こうするの、俺好きなんだ」
耳元でそう囁かれる。えーさんって、距離近いんだよな。背筋がふわっとする。でも、僕も好きかもしれない。こうやって手を繋いで、抱っこしてもらうのは嫌いじゃない。
不意に、がちゃとドアが開く音がした。スーツ姿で現れたのは、びーさんだった。
部屋に入ってきて早々、不機嫌そうに眉をひそめる。
「待ち合わせしただろうが。先に行きやがって」
ベッドのサイドテーブルの下に鞄を置く。黒い革の高級そうなバッグ。デパートでもよく見るタイプだ。
「ごめーん。しぃくんが待ちきれなさそうだったから、つい」
そんな顔してたかな? 僕はえーさんの顔を見上げる。ふふ、と意味深な顔をしてえーさんが見下ろしてきた。
びーさんはワイシャツの袖をまくり、ネクタイを緩める。今日もサイドに流された黒髪は綺麗だった。
「独り占めするな」
「わっ」
えーさんの腕の中から僕の体が浮く。そのままびーさんの膝の上に引き寄せられた。
膝の上に抱き上げられて、なんだか恥ずかしい。お子様扱いされてるみたいで、手足をもじもじとさせる。
「飯はちゃんと食ってるか」
僕の肩に顎を乗せてびーさんが聞いてくる。僕は「少食なんだ」と答えた。そうすると、お腹のあたりを撫でてくる。ごつごつとした骨張った手は男らしくて羨ましかった。
「びーさんだって独り占めしてるじゃん」
ぶうぶう文句を言うえーさんを、びーさんは無視している。
「じゃあこうすりゃいいだろ」
「へ?」
僕の体が一瞬だけ宙に舞う。とさ、とベッドに落とされた。そして、僕の頭を膝枕してくれるびーさんに驚いていると、えーさんが僕のお腹のあたりに抱きついてきた。
うわ。なにこれ。僕、抱き枕みたいにされてる。
びーさんは無表情だけど、僕の顔を撫でる手つきは優しい。えーさんはすりすりと頬を擦り付けてくるから、少しくすぐったい。二人のされるがままにされていると、えーさんが口を開いた。
「しぃくんってね、こうやって触れ合うの初めてなんだって」
「……そうか」
びーさんに僕の秘密……をもらしたえーさんをちょっと睨む。すると、にこにこと笑うのだ。
「童貞なんでしょ。しぃくん」
「ど、どうてい?」
僕は口を開いたまま固まってしまった。かあぁと全身の血が顔に集まる。そんな恥ずかしい顔を見せたくなくて両腕で隠した。そうしたら、びーさんが僕の腕をものすごい力で振り解く。そのままベッドに腕を縫いつけられた。獣みたいにぎらぎらした目と見つめ合う。
「しぃくん怖がってるから、やめなよ」
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