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第8話 初めて三人で食べるピザは優しい味がした

 えーさんの言葉にハッとしたのか、びーさんが手を離してくれた。バツが悪そうに頭をかいている。    なんだったんだろ。今の。  手首のあたりをさすっていると、えーさんがよしよしとその手を撫でてくれる。この二人の間にいると、気分が落ち着く。そこに冴えないデパート販売員はいなくて。ただ、Cと呼ばれる僕だけがいる。二人は僕だけを見てくれる。それが嬉しい。 「出前でも頼むか」 「いいねえ。俺、ピザがいい」 「お前の希望は聞いてない。しぃ、何が食いたい?」  えーさんとびーさんのやりとりを聞いて、くすっと笑いそうになる。びーさんに、初めて名前呼ばれた。たとえ偽りの名前だとしても、心の中があったかくなる。  ベッドの上で三人で夜ご飯を選ぶ。出前なんてとったことない。家の人たちでは頼んでることも見たことあるけど、当然僕の分はないから。家のことは思い出しちゃダメだと頭を振る。こんなに楽しい時間を、嫌な思い出が邪魔するのは許せなかった。 「じゃあ、マルゲリータピザとポテト一つ」  えーさんがピザ店に電話をしてくれるのを待つ間、僕はびーさんの隣にちょこんと座っていた。  えーさんは気さくなおにいさんって感じだけど、びーさんは大人の男性っていうのかな。オーラがあるから、気軽には話しかけにくい。バリバリ仕事してる感もあるし、社会的地位を気にする僕は気が引けてしまうのだ。僕の予想だが一流の社会人のびーさんと、デパート販売員の僕とでは価値観も何もかも違うはずだ。  黙ったまま電話をかけるえーさんの後ろ姿を見ていると、不意にびーさんが僕の方に向き直る。 「あいつのほうが気になるのか」  ちょっと悲しそうな声。だから僕はぶんぶんと勢いよく首を振る。 「っそんなことない……けど、何話したらいいかわかんなくて」 「なんでもいい。お前の話ならいくらでも聞いていられる」  僕の耳たぶを掴み、柔らかく揉んでくる。これは一体なんのメッセージなんだろう。まなじりを落として笑うびーさんを見て、少しだけ胸を撫で下ろした。 「すごい……」  これが、ピザ。真っ赤なトマトソースの食欲をそそる甘酸っぱい匂い。チーズも焦げてるとことか美味しいんだろうな。バジルの鼻をつんとつく匂いも嫌いじゃない。  紙のボックスに入ったポテトも出来たてみたいだ。ベッドの上に広げて、皆であぐらをかいて座る。 「いただきます……」  二人に見守られながらポテトをかじる。うわ。外側はカリカリで、中はほくほくだ。ポテトなんていつぶりに食べただろう。外食なんてしないから、数年ぶりくらいかな。  えーさんが「熱っ」といいながらポテトを口に入れる。二本も三本も口に入れているからリスみたいに頬が膨らんでいる。見た目に反して大食いなのかな?     びーさんはというと、品のいい食べ方でポテトを口に運んでいた。ポテトを行儀正しく食べているのを見るのは少し滑稽に思えてしまって、思わず笑ってしまう。  すると、「なんだ?」と言いたげにびーさんが見つめてくる。 「ごめんなさい……なんだか行儀正しい食べ方だったから。おもしろいなって思っちゃって」 そう言うと、びーさんは伏し目がちで口元を緩めた。笑ってる? のかな。だとしたら、嬉しいな。  えーさんは、そんなに? と言うほどピザを頬張っていた。飲み込んでいると言ってもいいかもしれない。お腹、空いてたのかな? お仕事忙しいんだろうな。それなのに、僕のために時間を作ってくれる……二人ともほんとに優しいんだな。  僕がピザとポテトを食べ終わったところで、びーさんが口を開いた。 「今日は泊まれるか?」  へ? と頭の中がはてなでいっぱいになる。泊まるって、このホテルに? 「家に帰らなくてもいいのかと聞いている」  びーさんが真剣な瞳で言うものだから、僕は緊張しながら「大丈夫」と答えた。実際、僕が外泊しようと家の人達は気にもとめないだろうから。冷たい思いをする家で寂しく眠るよりは、この二人といたほうが気分がいいはずだ。 「よかったぁ」  えーさんが僕の身体を後ろから抱きしめて言う。平熱が高いのかえーさんの身体はぽかぽかしている。 「じゃあいっぱい話せるね」  えーさんの、ふわ、と綿毛が舞うような優しい笑顔。あっけにとられていると、びーさんからの強い視線を感じた。俺を見ろ、と言われているような。びーさんは眼力が強いから、少し怖さもあるのだけれど。ゆっくりと、僕はびーさんの顔を見上げた。  目を合わせたら、胸がとくとくと早く動き出した。これ、何? 心臓、病気になっちゃったのかな。息が、苦しくなる。身体も火照ってきて、目線が揺らぐ。  僕の異変にきづいたのか、えーさんがくすくす笑う。 「なに笑ってる」  びーさんは仏頂面だ。 「だって。しぃくんがびーさんのこと見た途端、どきどきしてるんだもん」  ここが、とえーさんは僕の胸を指で示した。僕は自分の胸のあたりを、きゅと掴む。

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