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第11話 この家に僕の居場所はない
ぱしん、と頬に当たる手のひら。乾いた音と鋭い痛みに頬がじんじんと熱を持つ。
「母さん。こいつ朝帰りしてきた」
この家の一人息子の拓海 が、僕の頬をぶったのだ。拓海に「母さん」と呼ばれた女の人は玄関で立ち尽くす僕を一瞥して一言。
「拓海。穢れた子に構うなとあれほど言いつけているでしょう。その手をすぐに清めてきなさい。本当にこれだから妾の子は」
拓海はふてぶてしい様子で僕を睨むと洗面所に向かって歩いていった。この家の人は蛇みたいに睨むのが得意なようだ。
「申しわけありません」
「許可を出すまで声を出すなと言っていますでしょう。何度も同じことを言わせないで。お父様が連れてきたのだから、話をするならお父様としなさい。わたしと拓海は貴方と何の繋がりもない他人なのだから。それなのに同じ家に住まわせてやっているの。その有り難さをよくよく噛み締めておくことね」
「……はい」
お辞儀をした姿勢のまま、数秒耐える。怒りは既に頭から切り離されて流れている。僕の胸に残るのは虚しさだけだ。
自室にとぼとぼと戻り、布団に横になる。今朝までの幸せいっぱいな気持ちが急に冷水をかけられたように冷めきっていた。
僕は拓海の父親が外で作った女との間に産まれた妾の子だ。本当のお母さんは見たことがない。僕を産んですぐに病気で亡くなってしまったと聞いている。
酒を飲むと人が変わる父親の、一夜の過ちでできた子どもなのだと幼い頃から父親に告げられていた。仕方なく、父親が僕を引き取り正妻である拓海の母親と住むようになった。
20年。この家で過ごしてきた20年は、暗く悲しい記憶ばかりだった。
成人したから、いつ家を追い出されるかと内心びくびくしている。外面のいい家族だから、近所の人に目立たないよう外傷を作るような虐待などはされていない。けれど、精神的な虐待は度々されていた。この地域の地主である母親の父が亡くなったあと、この屋敷は母親のものになった。
周りから羨望の目で見られる恵まれた上流家庭。世間からの見方はそうだった。
「はやく、こんな家から出たい……」
何度、同じことを願っただろう。この家にいると僕は幽霊になる。声をかけても無視をされ、いないもの扱いされるのだ。それは実の父親も同じ。何でもやらせる雑用係のように扱われていた。
「僕がシンデレラなら、王子様が迎えに来てくれるのかな」
そんな幼い頃に読んだ夢物語を20歳になっても、まだ信じている自分が滑稽に見えた。
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