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第13話 愛の巣で眠るのはしあわせ
「この子はこれから俺が親代わりになる。今後一切の関わりを禁じる」
僕の屋敷に入り、玄関の先で開口一口びーさんが拓海とその母親、そして僕の父親に言い放った。
厄介者の僕がいなくなるというのに、拓海はどこかひねくれていてびーさんに食ってかかろうとする。
「ざけんな。何勝手に決めてんだ。部外者が!」
「そうよ。うちにはうちのしきたりというものがありますの。他人に指図は受けません」
拓海と母親のうるさい言葉に、やはり僕の身体はかたかたと震え出す。二人の機嫌を損ねたらどうなるか、嫌というほど知っているから。
けれど、ただ一人、酒に呑まれていない父親は神妙な顔をして頷いた。
「わかった。では、この子を頼む」
「父さんっ。何言ってるんだ! こんな奴の言いなりになんかならなくていいだろ」
「そうよ! あなたの指示で今までこの子を居候させて食べさせてやってたのよ。それを簡単に手放すなんて……っ」
「すまなかった。拓海、梅子。俺の過ちに長く付き合いさせすぎた。そして、お前も。父親らしいことをしてやれなくてすまなかった。せめて、この家を出て幸せになれ」
「……お父さん」
父親の言葉に嘘はなかった。初めて、父親と子どもらしいやりとりができた。最低の父親だったけど、最後は引き際をよく弁えていた。変に執着してこないのは有難かった。
「しぃ。荷物を用意してこい。準備ができたら俺の家へ向かうぞ」
「うん。わかった」
僕は、父親の判断に呆気にとられている拓海とその母親の梅子のそばを駆け足で通り過ぎ、キャリーケースに自分の荷物を詰めた。けれど、ほとんど持っていくようなものはない。最後に、冷蔵庫の僕のスペースに残っていたキャベツの千切りの入った袋を持って家を出た。
20年繋がれた牢屋のような家だったが、終わりは呆気なくてしばらく呆然としたまま、びーさんの車にキャリーケースを詰め込み、助手席で窓の外を眺めていた。
その間、びーさんはただ黙っているだけ。その無言の時間は辛くなくて、むしろ落ち着いたから助かった。
びーさんの家は、タワマンの一室らしい。車を地下駐車場に停め、部屋に案内される。ベルベット調の絨毯が敷かれた廊下を歩き、大理石柄のドアを開けばその奥には洗練された空間が広がっていた。
「ここがお前の部屋だ。好きに使え。家具が足りなければ買い足す」
「ありがとう……本当に、何もかもありがとう」
キャリーケースを置いて、びーさんに向き直る。僕は見上げた姿勢のまま感謝を告げた。真っ直ぐその黒く透き通った瞳を見つめて。
「たいしたことはしていない。むしろ、お前と住めるなら好都合だ。おまけでえーも暮らすといのうは、至極不快だが」
「ふふっ」
「何笑ってる」
「なんか、そういう嫉妬深いところびーさんらしいなと思って」
「……ふん。好きに言え」
そんなふうに穏やかな引越し一日目を終えると、翌日さっそくえーさんがやってきた。ダンボールを8箱、引越し業者に運んでもらっている。
「すごい金持ちだとは思ってたけど、まさかこのタワマンとはね。すごいなー」
えーさんとは隣の部屋になった。今日、びーさんは朝から仕事で既に家を出てしまっているから、えーさんを出迎えたのは僕一人だ。
「ほんとに綺麗な家だよね。こんな広い一人の部屋、初めてで……」
「俺も! なんだかんだシェアハウス的な感じになったね。共同生活楽しめそう」
そして、昨日あった出来事をえーさんにも告げた。僕の家庭の事情や、その時の家の人の反応。えーさんは終始ゆっくり相槌を打ちながら話を聞いてくれた。
「そっか。ここならもう安全だから。俺とびーさんでしぃくんのこと守るよ」
えーさんに抱きしめられる。
いつからだろう。えーさんにも、びーさんにもこうやって抱きしめられてどきどきするのは。
僕、抱きしめられるの好きなのかな。ぎゅってされると落ち着くし安心する。ゆりかごみたいに眠くなる。こんな気持ち初めて。20歳になってから初めて知った。
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