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13.冒険者デビュー!?そうそう上手くはいきませんね。※R18描写なし

 昼時を少し過ぎた冒険者ギルドの一角、食事処の隅っこにセナは居た。一人がけのソファに凭れながら、歯ごたえの強いパンを齧る。テーブルの上にはパンとチーズ、卵、ソーセージのランチセット。冒険者が利用する食事処のため量が多く、値段も割と手ごろだった。  冒険者ギルドは、実は昼間は人が少ない。ほとんどの冒険者が前日の夜か、朝早くにクエストを受注して出かけるからだ。受付もクエストボードの側も閑散としていて、食事処の方にもちらほら職員が休憩している程度だ。  紅茶に似た茶でソーセージの油を流して一息つき、ランチセットの向こう側に置いた自身のノートを眺める。勿論中身を見られては困るので、表紙は閉じたままだ。 「ふー……」  魔力の高いロコのおかげか、回復したMPは5日を経過した今も問題なくセナの体を巡っていた。こまめにステータスを確認し、日常生活に必要な魔力というものを少しずつ理解している。最も、魔道具の魔力消費量はそれほどではない。異世界転移者が生きているだけで消費する日々の魔力量も、食事の量や魔力の含有が多い食べ物を増やして何とか対応している。とはいえ、減少するスピードを緩めるぐらいで、回復とまではいかないのが辛い所だ。 「やっぱり特定の誰かを作った方がいいのかな……」  ふと口をついて出た言葉は、これまでも何度か思い浮かんでは消していた考えだった。魔力の回復に効率がいいのが、誰かのザーメンを体内に取り込むことだと理解はしている。体感もして実感もした。幸い嫌悪感はないし、機会が少なかっただけでこれまでだって気持ちのいいことは好きだったしある意味では好都合でもある。 「うーん……、でもなぁ」  個人的な倫理観というか、モラルというか、そう言ったところが引っかかる。セナの価値観ではセックスするのは恋人とだけだった。男としてハーレムを夢見たことがないとは言わないが、それにしたって自分の魔力回復の為だけの道具にするのはいかがなものかと思ってしまうのだ。  ゼガイやウィルは、異世界転生者の能力を不当に使うために無理やり拘束し性奴隷のごとく扱うという状態を避けるためにセナを保護してくれている。勿論そんな状態はごめんだし恐ろしい。だが、数日この世界で過ごしたセナは、常時魔力を消費し続ける異世界転移者にとって、性的な接触を定期的に行う環境はある程度は必要なのでは、とも考えていた。  セナには魔力変換効率スキルがあるため、食事などで魔力の回復が可能な部分もある。そうでない異世界転移者はどうやって効率よく魔力を回復していたのだろうか。薬があるとは聞いているが、それを手に入れるにはやはり金が要る。薬というのはどこの世界も高価なものだし、現代日本のような技術がなければ希少なものの可能性もある。後見人が支給するにも限度があるだろうし、ならば身寄りのない異世界転移者は働かなければならない。働けば魔力は余計に消費する。補うための方法は限られている。 「割とハードモードだよな……」  ゆで卵を口の中に放り込みながら、セナはクエストボードの方を見る。ゼガイから職を紹介できると言われた。ギルドが懇意にしている各種商店から、ギルド自体の事務まで。一般的な賃金での雇用ではあるが、ギルドのお墨付きで悪徳な勤め先は一つもない。しかしながら誰かの元で働くという行為に日本での社畜時代を思い出してしまい、セナはどこに努めるかは保留にさせてもらっていた。  正直なところ、冒険者になるという手を考えなかったわけではない。いや今でも検討はしている。だがセナには戦う技術はないし、度胸もない。どちらかが手に入るか、もしくはどちらがなくても問題ないならば冒険者になることもやぶさかではないのだ。 「息するだけで魔素を取り込めるわけだから……」  何しろ、ダンジョンは空気中の魔素濃度が高いと聞いた。そう聞いてセナが思いついたのが、それだった。空気中の魔素を取り込めば、後はセナのスキルで効率良く魔力は回復する。どれほど高濃度の魔素であっても、セナに魔素酔いの心配はない。ただし魔素濃度が高い場所は高レベルのダンジョンであるため、到達できる人間は少ない。 「あの宝物庫でステータス見てればなあ……」  途中魔物に2回襲われはしたが、ダンジョンの最深部でどれほど魔力の回復に影響があったのかは知りたい所だ。例えば魔素濃度が高い場所で安全に暮らせるのであれば、それは他の異世界転移者にとっても命の危機を遠ざけることができるのでは。 「いや……無理か」  少なくともセナは、魔素濃度が高い場所で身を守る術がない。詳細はまだ分からないにしろ、ギルドの保護体制を考えても異世界転移者は身を守る術や戦う技術を持たない人間たちであることが多そうだ。 「うーん……」  パリッ、としたソーセージの皮を嚙み切りながら、セナがあれこれ考えを巡らせているとギルドの入り口が騒がしくなった。どこかしらのパーティーが戻ってきたのかと思っていればそれはクロエネダだったらしく、カウンターに報告へ行くウィルと別れた他のメンバーが近寄ってくる。 「セナ、お疲れ」 「お疲れ様です。皆さん今日は何のクエストに?」  ルーシャが隣のソファに座り、足を組む。よく見れば服が埃っぽく、草の切れ端がところどころについていた。ルーシャの正面に座ってセナのノートを手に取っているロコも、同じような感じだ。二人とも、服の裾が裂けている所もある。大きなな怪我はないようだが、擦り傷や切り傷はあるようだった。 「今日は街の東に出たツノウサギの群れの討伐よ。大型個体が混じってたの」 「へええ」  ツノウサギとは、中~大型犬ほどの大きさのウサギの眉間に鋭いツノの生えた魔物である。群れで生息し、敵を集団で突き殺して貪り食らうという。一匹ではそれほど強くはない魔物だが、集団で連携をとって狩りをするため初心者冒険者は手を焼く魔物らしい。最近、一際大きなツノウサギが群れを率いていると報告が上がったため、クロエネダが討伐に繰り出したのだと。 「あとはギルドの判断だけど、ツノウサギから進化してる可能性があるって」 「進化……」 「魔物は他の魔物を食らったりその他の色んな条件で上位の魔物に進化することがあるの」 「おーっすセナ」  クエストの報告が終わったウィルがテーブルにやってきて、入れ替わりにルーシャが立ち上がった。どこへ行くのかと目で追っていると、食事処のカウンターで料理を注文している。そこで、ゴルシュがいない事に気づいた。 「あれ、ゴルシュくんは?」 「あぁ、ゴルシュは今治療院だ」 「治療院?」 「そう。ツノが太ももに刺さってな。念のために治療してもらってる」  あんなに強そうなゴルシュでも、専門の治療を受けなければいけないような怪我をするという。やはりクエストは危険があるのだ。自分なんかではあっさり死んでしまうのではなかろうか。クロエネダのメンバーにはいつもの事なのか、特にゴルシュの心配をしているという事もなさそうなのがまたセナの恐怖を助長させる。 「あの、俺にも冒険者って、できますかね」  それでも恐る恐る問いかけた言葉に、ロコとウィルの視線が突き刺さる。ジロジロと上から下までじっくり見つめられて、分不相応なことを言ってしまったかと恥ずかしくなってきた。もしかしたら笑われるのではと不安になったが、ウィルからの返事はあっさりしたものだった。 「まあ、できないこともないんじゃねえの」 「え……」 「冒険者って言っても色々あるからさ。魔法適正もあるし、頑張ればCぐらいまではいけんじゃねえのかな」 「なになに、何の話?」  酒を持って戻ってきたルーシャがウィルの隣に座り、セナが冒険者にやりたいと言い出していることを知ると、さっきの二人と同じくじっくり見分される。 「まあそうねぇ。Eなら街の男は大抵登録してるし、それほど危険もないでしょ」 「そうなんですか」 「まあ一回、試してみたらいいんじゃないかしら」  メンバーに酒を配り、ついでのようにセナの前にも置かれる。以前の果実酒と違って、手ごろな大きさの瓶が人数分だ。各々瓶の底を軽く打ち付けて乾杯をし口を付けている。 「素材の採取なんかだったら平気でしょ。受付に聞けば簡単なものを紹介してくれるわ」 「相談してみます」 「無理はしないことね。死んだら終わりよ」 「は、はい……」  しっかりと釘を刺すことも忘れないルーシャに頷いて、セナはもらった酒の瓶に口を付ける。喉を通り抜ける苦みのある酒はビールに似ているが、炭酸は薄い。 「ま、最初は薬草集めがいんじゃないか」 「そうね。大体みんなそうだしね。懐かしいわね、アタシも最初はそうだったわ」 「俺も俺も」  ウィルとルーシャの初心者時代の話を聞きながら、午後の時間が過ぎていった。  クロエネダのメンバーがセナの冒険者デビューに反対しなかったのには理由があった。冒険者ギルドの紹介するクエストは、難易度によっては街の職業斡旋と似たような種類のクエストがある。薬草やキノコ、虫など街の外で行う素材採取は駆け出しの冒険者が最初のクエストによく選ぶものだが、それ以外にも犬の散歩や店番なんかも持ち込まれる。  そのため冒険者と言ってもクロエネダのようにパーティーを組んでダンジョン攻略を主に行う者の他に、護衛を中心に仕事をしていたり、モンスターの討伐ばかりをこなしていたりと様々だ。素材採取も侮る事なかれ、希少な素材ばかりを集めてくる高ランクのパーティーがいるらしい。 「冒険者ギルドはどこの国にも属さない完全中立の独立機関です。クエストの受発注からダンジョンの管理、研究、そして冒険者の管理を行っております。冒険者ランクはEからA、S、SSまでの7段階。登録時はEランクから。クエストをこなしてランクを上げていただければ更に多くのクエストが受注できます」  いつの間にか顔見知りになっていた受付嬢に冒険者の登録をしたいと言えば、嬉々としてカウンターでの説明が始まった。 「ではこちらの魔法契約書をよく読んでサインを」 「はい」  魔法契約書に書かれたシンプルな条文に繰り返し目を通す。ざっくり言えば、冒険者はギルドの不利益になることをしない、ギルドはクエストの斡旋はするが達成においての保証はしない、クエスト中の怪我や死亡に責任は持たない、ギルドからの緊急クエストはよほどの事情がない限り断ることはできない、不満があるならギルドと話し合いの上、登録解除も在り得る、とのことだ。  内容を把握してから一番下に自分の名前を書く。相変わらず署名は日本語だが、魔法契約書はそれでも問題なく効果を発揮してくれた。薄く光って契約が終結したのを確認した受付嬢が、Eランクと記されたカードを差し出した。 「こちらがランクカードになります。町を出る時や他のギルドで身分証明に使います。なくすと再登録になるのでお気を付けください。」 「はい。で、最初のクエストなんですけど……」 「そうですね。一番いいのが薬草の採取です。傷薬の主な材料になる薬草で、街の外の草原に 群生しています。常時出ているクエストなので、お小遣い稼ぎにぴったりですね。他にはこれも傷薬の主な材料になるキノコです。草原を越えた先の森の中に入るので少し危険が伴いますが、深い場所へ行く必要はありません。真夜中にだけ咲く花の採取もあります。夜に行うクエストなので危険度は上がりますが、その分報酬も高いです」  差し出された三枚の紙には、クエストの詳細が書かれていた。薬草・ヒルミソウの採取、キノコ・ソラタケの採取、花・ルナフラワーの採取。どれもこれも初級で、多少の危険は伴うが死んだ人間はいない。それぞれ一般に流通している薬の基本的な材料になるとのことで需要が高いのだとか。 「じゃあまずはこの薬草で」  ヒルミソウという見た目はタンポポのような花の咲く薬草のクエストを受注し、薬草の姿絵をもらってカウンターを後にする。 「街の周りに群生してるってことだし、散歩がてらでも問題なさそうだな」  MPもまだまだ残りがあるし、街の周り、特に日中はさほど魔物も出ないと聞いている。出たとしても好戦的でないスライムやミニワーム程度で、蹴とばしたぐらいで倒せるぐらい弱い魔物だという。夜になるともう少し好戦的な魔物も出るらしいが、それでも見通しのいい草原だから近づかなければ戦闘はほぼ発生しないとは受付嬢の話だ。  離れていれば体液に含まれた匂いも魅了のスキルも効果が出ないだろうと考え、ギルドにほど近い街の北側の門から外に出る。ギルドカードを見せればすぐに通してもらう事が出来たし、そこまでは何も問題はなかった。 「さて……」  外に出たセナは砂利道がまっすぐ草原を突っ切って少し離れた先の森へ続いているのを眺める。この道はユレネの洞窟に続いているはずだ。左右を見れば街の周りはぐるっと草原になっているのが分かる。この場合は、草原のど真ん中に街ができたと考えた方がいいだろう。  草原には時々高い木や低木が生えているが全体的には高低差もなく見晴らしがいい。小さな影は人か魔物か分からないが、動く生物もぽつぽつと確認できる。  まずは街の壁沿いに歩いて行こうと考えた。壁自体は3メートルほどの石造りで、上を人が歩けるようになっている。門番の人間が警備を兼ねているらしく常時壁の上に人はいないようだが、何者かが街に攻め入ってくることはそれなりに考えられているようだった。 「あ、あった!」  砂利道からそれて数メートルも行かない内に、ヒルミソウの花が数本咲いているのを見つけた。駆け寄って雑草を掻き分けると、土から出ている部分を掴んで引き抜く。ブチ、と根がちぎれる音がして土から出ている部分だけがセナの手の中に残った。 「あら……」  以来の紙には根も必要だと書かれてあった。花弁と太い根に養分が特に集まっているらしく、花だけでもクエストは達成できるがより完璧な納品を目指すのであれば根がいる。 「何か道具持ってきた方がよかったかな」  手で土を掘ることもできるが、数をこなすなら道具が必要だろう。最低納品数は10本からとなっているので達成は難しくないが、報酬の額が変わるのでセナとしてはこだわりたい所だ。 「そうだな。じゃあ……」  辺りを見渡して、手ごろな木の棒を見つける。ヒルミソウの周りを掘り返してそれなりの太い根ごと採取することに成功した。 「よっし、これで5本」  一つは根が無いが、とりあえず5本手に入れたので良しとする。次はどこにあるかと見渡せば、少し離れたところにも固まって生えているのを見つけた。簡単なクエストとはいえ、こんなにたくさん生えているものをわざわざクエストにする必要があるのかと疑問に思う。 「幸先良いなあ」  そうやって採取したところから辺りを見渡して次を見つけ、移動して採取する、を繰り返しているうちにセナは街の壁から離れていることに気づいていなかった。夢中で採取を行っているうちに、日が陰り夕暮れになっていた事にも。 「ふ~~っ……結構取れたなぁ」  ようやく顔を上げた時には目の前に森が迫っていて、辺りはすでに黄昏を過ぎて薄暗くなり始めていた。セナの目の前に広がる森も、随分と早く暗くなっている。 「おお……、結構暗いな……」  森の暗さを眺めてゴクリと息を呑んだ。現代日本にいた時は基本的にはどこにでも街灯があったし、なかったとしても自分が持っているスマートフォンである程度灯を確保できた。だが今はそのどちらもない。振り返った先の街の壁の上にはかがり火が焚かれているが、その光だってここまでは届かない。 「……早く帰ろ」  途端に恐ろしくなって立ち上がったセナは、森の方へ背を向けて歩き出そうとした。瞬間、足元に何かが巻き付いて動きを阻まれる。 「えっ!?……っぐぇ!」  ビタンっ!と勢いよく地面に倒れ込み、情けない声を上げたが状況は待ってくれない。倒れ込んだセナの足首に巻き付いた何かは、そのままセナを引きずり始める。 「えぇ!?いや、ちょ、うっそだろ!?」

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