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第1章 再会 第1話

 セルドナ星系標準時二十一時。惑星ガルーダの首都テオル。にぎやかな歓楽街にあっては、まだ宵の口といった時間帯だった。  その中の一角、いかにも場末といった風情のうらぶれた酒場の片隅で、ひとりの人物が卓に着いていた。数品の酒肴と地酒。晩酌も兼ねた遅めの夕食といったところか。  にぎやかに酒を酌み交わす客たちから離れた席には、雑然とした店内の雰囲気にそぐわない静謐(せいひつ)さが漂っていた。その卓のわきを、酔いどれ客のひとりが通りすぎる。ちょうど、奥の手洗い場から出て来たところだった。 「おっと、すまねえ」  一緒に呑んでいる仲間たちの許へ戻ろうとしたその足が、不意によろけた。仕事上がりに店に入ってかれこれ三時間。バカ騒ぎをしながら杯を重ねてきたアルコールが、いい加減体内にまわってきた頃合いだった。  卓に手をついて声をかけた酔漢は、席に着く相手を何気なく見やり、途端に目を瞠った。 「……おいおいおい、こいつぁたまげたな」  真っ赤に充血した目でしげしげとその顔を眺めた酔漢は、感歎の色を滲ませて呟いた。唐突に伸びた手が、無遠慮に眼前の人物の顎を摑む。そのまま、無理やり自分のほうへ向けさせた。 「なんとまあ、たいしたもんだ」  再度呟いた酔漢は、直後にニタリと笑った。  顎を摑まれた側は、だらしなく笑み崩れた醜悪な顔を無言で見返す。黄金の髪と透きとおるような白磁の肌、あざやかに輝くエメラルドの瞳。一見したところ、女性とも見まごう美貌の持ち主だったが、その額から右頬にかけて、大きな傷痕が斜めに走っていた。 「惜しいな、兄ちゃん。こんな上玉、そう滅多にいるもんじゃねえってのによ。その傷は、いったいどうした? ん?」  興味深げに訊かれても、青年の表情は動かない。エメラルドの双眸は、冷然と相手を見据えていた。 「なんだい、こんなところで独り寂しく呑んでないで一緒に呑まねえか? お近づきのしるしに一杯奢るぜ?」 「……せ」 「あん?」  酔いどれ客を見据えたまま、艶のある口唇(くちびる)が薄く開く。その声が聞き取れず、男はわずかに顔を傾けて青年のほうへ耳を寄せた。その耳に、低い声が届いた。 「薄汚い手をとっとと放せと言っている」  言われた意味が一瞬理解できず、男は呆気にとられてポカンとする。が、直後に表情を歪ませた。 「なっ、なっ、なんだとテメエ……ッ」  もともとの酒焼けした(あか)ら顔が、怒りのあまり、さらに赤黒く変色する。美貌の青年は、相手のその様子を傲然と見やった。 「テッ、テッ、テメエッ! 調子に乗ってんじゃねえぞっ! 粋がってやがるとイテェ目見――っ」  最後まで言い終わらぬうちに、男の躰は弾き飛ばされていた。  不躾(ぶしつけ)に顎を摑む男の手を邪険に払いのけた青年は、直後にスラリと伸びた足を高々と蹴り上げていた。椅子に座ったまま、立ち上がることさえしなかった。強烈な一撃を顎先にくらった男は、背後の椅子やテーブルを巻き添えにして見事にひっくり返る。騒ぎに驚いた客や店員らの視線が、いっせいに集まった。  場末の盛り場で、酔客同士のいざこざなど、さしてめずらしいことではない。だが、店の片隅で起こった騒ぎを目にした途端、ひとりの人物が立ち上がり、何気ない様子で店を出て行くのが()て取れた。目を(すが)め、低く舌打ちした青年もまた素早く立ち上がる。そして、店員が引き留めるまもなく店をあとにした。  店を出る際、出入り口に設置されたセンサーが自動で精算をする機械音が小さく響いた。 「おい、ロブッ! どうしたってんだ、いったい! なにがあったっ!?」  酔漢の仲間とおぼしき連中が背後で騒ぎ立てるのを最後に、扉が閉まった。そのさまを、おなじ店内の別の一角に座って眺めていた男がいた。その口許に、いかにも(たの)しげな笑みが唐突に浮かぶ。店内の喧噪をやり過ごした男は、やがてゆったりとした動きで席を立った。均整の取れた長身が人目を引く、どこか常人とは一線を画した鋭さを備えた人物だった。

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