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第2章 因縁 第1話(2)

 胸の裡で、激しい怒りと憎悪が噴き上がる。この五年、彼らに復讐するためだけにクリスは生きてきた。豊かな繁栄を誇った帝都シュベールは、クーデター勃発からわずか数日で灰燼(かいじん)に帰し、それからほどなく父母も非業(ひごう)の死を遂げた。  四百年以上つづいたアウレリア王朝は、あまりに呆気なく終焉(しゅうえん)を迎え、名だたる王侯貴族も皆、失脚して捕らえられるか逆賊を迎え撃って戦死、もしくは早々に降伏して傘下にくだるなどの選択を強いられた。  皇太子であったクリスもまた、当然のことながら滅びゆく国、父母と命運をともにするものと思っていた。けれども母は、クリスにただ独り、生き延びる修羅の道を課した。クリスの中に流れる最後の稀少な血統を、決して絶やすことなく未来へと繋げていくように、と。それが、母マルグリットの最後の願いだった。  どのような取り引きが()されたのかは不明である。だが、己の生命と引き換えに、母がクリスの身の安全を掛け合ったことは疑いない。結果、クリスの身柄は賊軍に託され、彼らの拠点に移送されることとなった。  そこまでして、なぜ……。  深い失意の中でクリスは敵の手に陥ちた。しかし、そこから半年間の記憶がクリスにはない。投降した他の王侯貴族らとともに、アウジリアスの拠点に向かう移送船に乗せられたことまでは記憶している。だが、気づけばまるで見知らぬ場所に単独で監禁され、果ては、非合法な取り引きが行われるオークション会場に商品として引き出されていた。 『五億』  下心もありありとした、どこぞの王族風の男に落札されかかった瞬間に耳にしたあの声を、クリスはいまもなお忘れることができない。あれほどの屈辱を味わったのは、生き恥をさらして敵中に囚われの身となって以来のことだった。  落札したのは、眼前にいるこの男。  大型宇宙船一隻分にも匹敵する落札価格となったその金は、彼らが蹂躙したアウレリア皇国からせしめたものであることは疑いなかった。  しかし、それほどの巨富を()ぎこんで落札しておきながら、男は戦利品であるクリスの身柄をその場で解放した。条件ひとつ、つけることさえせずに。  その意図が、まるで理解できなかった。組織に無理やり連行し、隷属を強いるほうがまだ納得がいった。アウレリア皇国元皇太子という肩書を持つクリスの存在は、クーデターを引き起こしたアウジリアスにとって充分利用価値があるはずだったからだ。  自分たちが滅ぼした国の皇太子を担ぎ上げることで、公に大儀を知らしめることができる。なにより、亡国の生き残りとなった血筋は、数多(あまた)の権力者らにとって政略的利用価値が高い。その存在を抱えこむことで、いざというときの交渉材料にできることは言うまでもなかった。  にもかかわらず、男は大度なふりでクリスを放免した。そしてそれ以降、アウジリアスは組織ごと公の場から姿を消す。  裏切りという卑劣な手法を用いてひとつの大国を焼土と帰せしめ、多くの人民から平穏な日常を奪い去った逆賊集団。そんな連中を野放しにし、安逸たる生を許しておくわけにはいかない。必ずや見つけ出し、組織ごと殲滅してみせる。  その思いだけを胸に、クリスは絶望の淵にあった己を奮い立たせ、生き抜く覚悟を決めた。賞金稼ぎの道を選んだのも、そのためである。  闇ルートを扱うディーラーに特化した賞金首にターゲットを絞ったバウンティーハンター。  アウジリアスは、宙域航行における特殊な跳躍技術を確立することを目的として()ち上げられた。そんな噂を耳にしたことがある。仮にその内容が事実であるとするならば、現在制定されている国際宇宙空間跳躍航法が根底から覆されることとなる。各船体は、航行管制局の管理下からはずれ、公認のゲートを利用することなく自由に跳躍飛行ができるようになるからである。しかもその技術を、公的機関ではなく、私的に起ち上げられた一組織が開発・独占するともなれば、もたらされるであろう莫大な利益も含め、人類社会全体に有用ならざる事態と混乱が巻き起こることは想像に難くない。  たんなる風聞であり、現実味に欠けるという見かたが大半であるものの、クリスはその風聞が、希望的観測の範囲内に留まらないことを関知していた。連中は、まさにその計画を実現させるためにこそアウレリア皇国皇帝に叛旗を翻し、惑星イリアを死の星へと追いやったのだ。

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