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第3章 ターミナルにて (1)
ホテルを飛び出したクリスは、その場で自動運転のタクシーを捕まえると、惑星ガルーダの主要交通機関の発着場であるテオル宇宙港へ向かった。
テオル宇宙港は、一日に数万隻の船が行き交う巨大ターミナルである。管制室が管理する跳躍ゲート数も、近隣の施設の中では随一を誇る。当然ながら、敷地面積も利用者数も相当な数に上り、その中から特定の利用者を単独で割り出すことは困難に思われた。
だが、クリスにいっさいの迷いはなかった。
連中――否、あの男の行き先なら、人ならざる相棒が正確に感知している。その方角を目指すだけのことだった。
「シャノ――クリス、無理だよ、僕……」
顔色を蒼白にして、表情も口調も硬くしたまま少年は必死に訴えた。そんな相棒に、限界が来たら無理をしなくていいとクリスは応じた。
なんとしてでも捕まえてみせる。前方を見据えたまま、よりいっそう決意を固くした。仮に連中の出航に間に合わなかったとしても、即座に手続きをして、そのあとを追いかけるつもりだった。
生理的嫌悪感か、もしくは恐怖か。判然としないながらも、確実にティアが拒否反応を示す方角をクリスはひたすら目指した。
「ほんとに、なんでなんだろう。あの人、全然イヤな感じじゃないのにね」
不安を打ち消すためか、ティアはクリスがほとんど反応を見せないにもかかわらず、ひとりでしゃべりつづけた。
「こんなこと言ったらクリスは怒るかもしれないけど、でも僕、あの人の印象、そんなに悪くないんだ。なんていうんだろう、クリスに対する悪意がまったく感じられないっていうのかな。それよりむしろ、すごく気にかけてる感じがするんだ。それに、人柄自体にも邪悪なものは全然混じってないし」
尋常でない怯えを見せておきながら、なにを言う、とクリスは無言で顔を蹙めた。
「あの、あのね、自分でもおかしなこと言ってるっていうのはわかってるんだよ?」
クリスの表情の変化を読み取って、ティアはあわてて弁解した。
「だけど、ほんとなんだ。クリスが感じてるほど、悪い人じゃない気がする……」
「本当に悪い人間じゃないなら、逆賊の一味に加わったりなどしない」
クリスの言葉に、少年はハッとしたように息を呑んだ。
「だいいち、それならなぜ、おまえは奴を怖がる。まともに近づけないような奴が、まっとうな人間のはずがないだろう?」
「そうなんだけど、でも――」
「ティア、おまえの言ってることは矛盾してる。行動がまるで伴ってない」
クリスはなおも厳しい視線を前方に据えたまま言い放った。
「いままでおまえが、あそこまで恐怖を感じて近づけなかった人間がいたか? 相手の存在を認識してなくても、一定距離内に近づいただけで実体すら保てなくなったんだぞ? 昨夜ホテルの部屋で目覚めたとき、まっさきにおまえを呼んだが反応すら返ってこなかった。あの男が隣室に控えていたからだ。おまえがそこまで極端な反応を見せたことが、これまで一度でもあったか?」
「ないよ。あんなのはじめてだった。だけど――」
「あいつは祖国を滅ぼし、罪なき善良な人々の生命や安穏な生活を容赦なく奪った。それのどこが善人だというんだ」
相手の言葉尻を奪い取って、クリスは断言した。そこに、異論を挟ませる余地は微塵もなかった。
しばしクリスの横顔を見つめた少年が、やがて俯く。それからポツリと呟いた。
「うん、ごめん……」
クリスは答えなかった。
嫌な人間だと自分でも思う。こんなのは八つ当たりでしかない。怖がるティアを無理やり自分の都合に付き合わせておいて、いざとなるとその心情を酌んでやることもせずに撥ね除ける。せめてティアの感じている恐怖と不安がどこから来ているのか、原因を探る手伝いくらいはしてもいいではないか。そう思いはするものの、どうしてもそこまでの余裕を持つことができなかった。
――なにはともあれ、連中を見つけてからだ。
クリスは自分にそう言い聞かせた。
男の向かう先をつきとめて、アウジリアスのメンバーが集まる現場をとらえる。おそらく各地を転々とする連中に、さだまった拠点は存在しない。移動手段として日々利用している宇宙船こそが、活動拠点の中心となっているに違いない。
アウジリアス所有の船の数は全部でどのくらいあるのか。構成人員とそのメンバーの役割分担はどのように配されているか。組織の明確な目的と今後の動向について、彼らはどの程度の予定を立てているのか。
少しでも多く、可能なかぎりの情報を得ておきたかった。
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