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第3章 ターミナルにて (2)
豊かに繁栄した一国を、かぎられた人員で短期間のうちに滅亡へと追いやった精鋭集団。そんな相手に、単身で挑んで敵うなどとはクリスも思わない。それでも、組織の存続を容認するわけにはいかなかった。
罪を犯した者らを断罪し、正統な裁きを与えること。あらたな跳躍航法に関する技術を、私慾に走った連中に独占させることをくい止め、まっとうな手順を踏んで公的に汎用化させる流れを作ること。
バートランド王、そして亡き父の遺志を受け継ぐことは自分にしかできない。母はそのためにこそ、自分に生きる道を強 いたのだろう。
復讐を遂げることとは別に、自分には果たさなければならない義務がある。このままアウジリアスを野放しにし、連中に莫大な富と権勢をもたらす事態を阻止しなければならなかった。
クリスはあらためて誓った。
「クリ、クリスッ」
傍らで、ティアが切迫した声を発した。
「限界なら、もう引っこんでていい。あとは私ひとりで充分だ」
「違うよ。――うううん、違わないんだけど、そうじゃなくて……っ」
無理はしなくていいと告げたクリスに、少年は必死でかぶりを振った。
「あのっ、あの、いまさらだとは思うんだけど、あの人追いかけるの、やめたほうがいい気がするんだ」
「……え?」
訴える顔色が、紙のように白い。可愛らしく整った貌 が、恐怖で引き攣 れて歪んでいた。
「クリスは関わっちゃいけない気がする。まだそういう時期じゃないんだよ。だから今日はやめよう? ね? 引き返そうよっ」
頑是 ない子供のように必死に翻意をうながす少年の手が、思いのほか強い力でクリスの服の袖口を摑んだ。そこから、抑えきれぬ様子のふるえが細かな振動となって服越しに伝わってきた。
いまさら、なにを言い出すのか。
思う反面で、男の居場所に確実に近づいていることをクリスは感じとった。
いまはまだ、そういう時期ではない――言葉選びがおかしいのは、それだけ動転している証左なのか。
なにをどう懇願されたところで、ここまで来て追跡を中断するわけにはいかなかった。ここで彼らを見失えば、いつまた巡り会えるかわからないのだ。この機を逃すことは決してできない。
「クリス、クリスッ――シャノンッ、ダメッ! もう無理……っ!」
悲鳴じみた声とともに、ティアの姿は目の前からかき消えた。
テオル宇宙港第十七ターミナル北ウィング。
タクシーの自動運転機能を停止したクリスは、その場で下車して正面の建物を見やった。
連中は、間違いなくここにいる。
確信をもって空港内に入った青年は、用心深く周囲を探った。
入り口の正面にひろがるロビーは、そのまま建物の高さに該当する十階ぶんがまるごと吹き抜けになっている。ロビー全体を見渡して上層階に目を向けたクリスは、まずは上の階を目指すことにした。
取り扱う跳躍ポイントが各フロアで異なるため、ゲート利用者はそれぞれの移動手段と目的地に応じた受付で手続きを行う。出港の場合、公共機関を利用する者は旅客宇宙船乗り場の窓口で搭乗手続きを行い、自前の宇宙船で航海する者は、やはり専用に設けられた窓口で希望する跳躍ポイントと出航予定時刻、船の種類と総トン数、船員数や積み荷の種類等を登録し、その内容に応じたチェックを受ける。跳躍に問題がないと判断された時点で出航許可が下り、順に跳躍ポイントまで誘導される仕組みとなっていた。
ひとつのゲートで一度に跳躍できるのは、一般的な宇宙船でおよそ二十隻まで。アウジリアスの場合、母艦となる船の大きさはそれなりの規模であると想定されるが、おそらく複数回に分けることなく一度の跳躍で総員が移動できるよう、まとめられていることが予想された。
アウジリアスがスターモールを狙った理由は、賞金目当てなどではあるまい。あらたな闇ルートの情報を入手するため、自分たちの組織に組みこむつもりで捕縛した。そう考えるのが妥当と思われた。
クリスは慎重に各階を周りながら、それとなく利用者の様子を探った。最上階から順にフロア全体を確認して、一階ずつ下りていく。そして六階まで下りてきたところで、その足を止めた。
あきらかに他の利用客と雰囲気の異なる男たちがいる。それも、あえて集団でまとまらず、それとなく分散して互いに距離を取りながら。
ボイドとクラウス・ヴェルデの姿は見当たらない。だが、男たちの発する気配は、昨夜スターモールを追跡するさなかに見かけた集団のそれと、見事に一致していた。
――みつけた。
高鳴る動悸を無表情の奥に隠し、クリスは出航手続きを行う窓口のいちばん端に並んだ。そこは、跳躍申請以外を担当する受付だった。
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