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第3章 ターミナルにて (3)

 専用の機械で個人認証データの照合を行い、希望する手続きを選択する。クリスは、格納されている所有船のドック移動を申請した。  惑星ガルーダに到着した際、クリスはテオル宇宙港の北東に位置する第八ターミナルに入港した。船はそのまま、ターミナルが管理するドックに預け入れたため、現在地である宇宙港南東部に位置する第十七ターミナルからは、だいぶ離れた場所に留め置かれていた。その船を、第十七ターミナルまで牽引する手続きを行ったのだ。  クリスの所有船である『アルテミス号』が到着するまでに、およそ三十分。その間に出航手続きと跳躍申請をすることも可能だったが、青年はまず、アウジリアスの動向を探ることにした。  特有の雰囲気を持つ男たちは、ラウンジや待合室を中心に思い思いの過ごしかたをしていた。コーヒーを飲んで一服する者。自前の端末を使って映画や音楽を鑑賞したり読書をする者。だれかと待ち合わせをしているふうを装う者。出発までの待ち時間、仕事の書類を作成したり、あるいは居眠りをして過ごすふりをする者。売店をひやかす者や、友人同士の旅行を満喫中であるかのように振る舞う者。  ざっと見たかぎりで、その数は二十名ほどになるだろうか。いずれも一般客にまぎれこんで、ごく自然なカモフラージュをしていた。だが、クリスの目は誤魔化されなかった。  穏やかな日常に融けこんでいるふりで、連中の目つきにはいずれも隙がない。一見したところ、リラックスしているようでありながら、その目は絶えず周辺の様子を窺い、警戒のアンテナを張り巡らせていた。  同フロアには依然、ボイドの姿も、あの男の姿も見当たらない。スターモールの姿も見受けられなかった。その点を鑑みても、アウジリアスのメンバーはこれで全員ということはあるまい。他の場所にも、待機している者たちがいる。だとすれば、それはどこなのか。そして、どの程度の人数になるのか。  レストラン街。娯楽施設。ターミナルの外。すでに出航の許可待ち状態だろう自船の中等々。  クリスは何気なしに、フロアの端からガラスの手摺り越しに階下の正面ロビーを見下ろした。そのとき。 【――見つけた……!】  耳の奥で突如響いた、不気味な音声。  ゾワリとした戦慄が背筋を駆け抜け、全身の肌が粟立った。  両目を見開いたクリスは、弾かれたように振り返る。その眼前に、不意に立ちはだかる人影があった。 「ティアッ!?」  目の前に忽然と現れたのは、つい先程、これ以上は実体を保つことができないと姿を消したはずの相棒だった。その相棒が、クリスを庇うように両手をひろげて立ちふさがっていた。  実際には頭ひとつぶんほど身長差のあるふたりだが、いまはティアが床から三〇センチほど浮いているため、クリスの姿は完全に少年の背後に隠されていた。その向こうに、だれかがいる。指呼(しこ)(かん)ではない。二、三〇メートル先か、さらにその向こう。  視界を遮られているクリスの位置からは、それがどんな相手なのか確認することができなかった。だが、目の前の緊張しきった華奢な背中が、味方ではないと語っている。なによりクリスの直感が、悪しき気配を感じとっていた。  見つけた……!  いましがた脳裡に響いた不可解な声は、自分に向けられたもので間違いないようだ。だが、それはどういう意味を持つのか。  ――だれだ……?  相手をたしかめるため、クリスは身を乗り出そうとした。そこへ、右手方向からエスカレーターを駆け上がってきた者がいた。  クラウス・ヴェルデ。  遅れて、さらに何人かの男たちも到着する。  血相を変えて飛びこんできた男は、瞬時に状況を看て取るや右腰に手をやった。居合わせた一般客のあいだから、かすかな悲鳴があがる。下ろした腕を上げたとき、男の手には銃が握られていた。  男の向ける銃口が、こちらに照準を据えていた。否、正確には自分ではなく、その手前――  見開かれたクリスの碧眼が、さらに限界まで見開かれた。 「や…めろ……っ」  呟いたクリスは、反射的にティアの背中を突き飛ばそうとした。だが、それより早く銃口が火を噴いた。  ――クリス、あの人きっと、そんなに悪い人じゃないと思うんだ。

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