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第4章 囚われの身 第1話(2)

「少しも重くなどございませんでしたよ。げんにいまも、殿下は仔猫のようにお軽くていらっしゃる」  その言葉を聞いて、少年は不服そうに口唇(くちびる)を尖らせた。 「クラウスが怪我しなかったのはよかったけど、僕、男なのに……」 「お可愛らしいお姿では、ご不満ですか?」  問われて、躊躇いを見せつつも少年はこっくりと頷いた。 「母上譲りの見た目を褒められることも多いけど、でもやっぱり僕は、クラウスみたいに背が高くて力も強い、立派な男の人になりたい」  男は少年に笑いかけると、なれますよ、力強く請け合った。 「殿下はいずれ、私などより遙かに立派な大人に成長あそばされますよ。私が保証しますから、ご安心ください」 「ほんと?」 「間違いありません。私が殿下の年のころには、殿下ほど賢くもありませんでしたし、武術の腕もずっと未熟でしたから」 「じゃあ、もっと頑張ったら、クラウスより強くなれる?」 「なれますとも。私など、すぐに殿下に追い抜かれて敵わなくなるでしょう」  近衛連隊の中でも、一、二を争う武勇の持ち主に明言され、少年は気をよくして口許を綻ばせた。その少年を、男は要望どおりに会衆席のひとつに下ろして座らせ、みずからも片膝をついて目線を合わせた。 「先程は突然驚かせてしまい、申し訳ありませんでした」  穏やかな表情そのままに落ち着いた声で謝罪され、少年はかぶりを振った。 「大丈夫、クラウスが護ってくれたから。でも、どうしてクラウスは僕があそこにいるってわかったの?」 「マルグリット妃殿下が、シャノン殿下のお姿がご寝所に見当たらないと心配しておいでだったので、お捜ししていたのです」 「母上が?」  理由を告げられて、少年は目を瞠った。それから、困ったように視線を伏せた。 「どうしよう。ほんのちょっとだけ、抜け出したつもりだったのに……」  いつのまにか騒ぎになっていたことを知って、少年は途方に暮れた様子で身を縮めた。そんな少年を見つめて、男は問いかけた。 「妃殿下にも内緒で、なにをなさるおつもりだったのです?」  最初の質問に戻ったところで、少年は手にしていたものを握りなおした。それからゆっくりと開いて、おずおずと男に見せた。そこには、薄闇の中にあっても独特の輝きを放つ、クリスタルのような石があった。 「それは?」 「あの、これ、は……、レヴァントの…秘宝……」  消え入りそうな声で答えて、あわてて付け加えた。 「あのでもっ、でもねっ、宝物殿(ほうもつでん)から黙って持ってきたんじゃないよ? 父上からお預かりしたの」 「皇帝陛下が殿下に?」  重ねて問われ、少年は頷いた。 「父上はいま、カリスト星系の辺境で起きてる海賊の横行を鎮めるために、グレンたちと一緒に遠征に出向いておられるでしょう? それで、お出掛けになる直前に、僕にこれを一時的に託していかれたの。この石には不思議な力があって、特別な人間にだけその力を引き出すことができるはずなんだって言われて」 「殿下ならば、その力を引き出せるのではないか。陛下は、そう期待しておられたということですね?」 「わからない」  少年は心許(こころもと)なげに呟いた。 「でも、そうなったらいいのにっておっしゃってた。そうすれば、遠方で苦しんでいる人たちをすぐに助けることもできるようになるはずだからって」  シャノン、おまえは選ばれた特別な子供なのだ。きっと、おまえにならできると余は信じている――  父皇帝は、そう言って少年に、日頃は宝物殿の中でも、とりわけ皇帝以外の者が立ち入ることを禁じられている場所で厳重に保管された秘宝を内密で託したという。 「あの……、あのね、このことはだれにも内緒なの。アウレリア皇国を背負うべき者のみに課された使命だからって。だから母上にも内緒で、父上と男同士の約束って誓って……」 「なるほど、それでこんな時刻にこっそり寝所を抜け出してこられたのですね」 「うん」  少年は素直に頷いた。ほんのちょっとならバレないと思ったから、と。

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