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第4章 囚われの身 第1話(4)

「ですから、あまり長時間でなければ問題ありません。せっかくここまで抜け出してこられたのに、中途半端なままでは殿下もお心残りでしょう?」 「そうだけど……」 「私がいては、お邪魔ですか?」 「え?」 「でしたら私は、殿下のお邪魔にならないように外で待機して――」 「大丈夫!」  男の言葉を遮って、少年はそばにいてくれてかまわないと断言した。 「わかった。ちょっとだけ僕に時間をちょうだい。もう一度できるかどうか、試してみるから」  言って、少年はふたたび手の内にある秘宝を両手で包みなおすと静かに目を閉じた。  ゆっくりと呼吸を整え、意識を掌の内部に集中させていく。真摯な思いをこめ、こちらからの働きかけに石が応えてくれるように。石の持つエネルギーの示す先へ、自分を導いてもらえるように。  祈りに近い気持ちで、先程以上に真剣に意識を集中させた。身近で自分を見守る男の存在は、少しも気にならなかった。  先程たしかに感じた、掌の中で石が発するあたたかな熱。そして額を中心に、どこか別の空間へと繋がっていくような不可思議な感覚。だが。  今回はどれほど懸命に秘宝に呼びかけても、なんの変化も起こらなかった。  どこまでもひろがる静寂の中、ただ無為(むい)に時間だけが過ぎていく。  やがて少年は、顔を上げると小さく息をついた。それと同時に両肩が大きく落ちた。 「やっぱりダメみたい」  さっきのあの感覚は、気のせいだったのだということがこれで判明した。  そうなってくれたらいい、という願望が呼び起こした幻の感覚――思いこみによる錯覚だったのだろう。  げんに石を握りしめていれば、なんとなくそこにあたたかみを感じるような気がするし、意識を集中すれば、額のあたりに力がこもった感じもする。その感覚を、『石と繋がりかけた』、『自分の呼びかけに石が反応を示してくれた』と勘違いしたに違いない。  父に期待されたことが嬉しくて、ついやれる気になってしまったのだ。 「やはり、私がいると気が散ってしまうのではありませんか? でしたら少し、外に出ておりますので、もう一度――」 「うううん、そんなことない」  男の言葉を、少年はきっぱりと否定した。 「さっきとおんなじぐらい、うううん、もっと、それ以上に集中できた。だからクラウスは関係ない。最初から、できてなかったんだよ」 「そう、なのでしょうか?」 「うん」  頷いて、少年は笑った。 「父上がおまえにならやれるって言ってくださって、僕もそのご期待に応えたいって思ったからなんとなくできる気になってたけど、そんなに簡単にいくわけないよね。考えたら僕、普通にただの子供だし」 「そのようなことはないでしょう」 「うううん、そんなことあるよ。皇帝である父上の子供に生まれたっていうこと以外で特別なことなんて、なにもないもの」  カリスト星系随一を誇る大国の第一皇位継承者である少年は、こともなげにそう言って笑った。 「でも、もっと違うかたちで父上のご期待に添えるように、勉強も武術も、もっともっと頑張って磨いていくように努力する」 「ご立派です。殿下のいまのお言葉をお聞きになったら、陛下もさぞ頼もしく、誇りに思われることでしょう。殿下はこの国にとって、かけがえのない御方なのですから」 「あのね、クラウス、僕が父上の跡を継いで立派な皇帝になれたら、クラウスはこれからもずっと、僕を護りつづけてくれる?」 「無論です。私は近衛連隊の一員として、この先もずっと、シャノン殿下をお護りしていくとお約束いたします」  それは、遠い日の約束。  彼を、兄のように慕っていた。  彼に、強い憧れと、ほのかな想いを抱いていた。おそらくは、恋心にもっとも近いであろうあどけない想い……。  アウレリア皇国が滅び去る、あの瞬間まで、ずっと――――――

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