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第5章 襲撃 第2話(1)

 左わきからぬっと突き出た手に、クリスは一瞬ギョッとした。  顔を上げると、目の前の皿にササミのフライが置かれる。サンダーという名前の船員が、クリスを見てニッと笑った。 「最近、だいぶ筋力がついてきたんじゃないですか? だとしたら、もっとタンパク質も摂らないと」  そういうサンダーのトレイには、おかずだけでなく主食のパン、スープなども大盛りになっていた。いましがたのフライも、自分のトレイからのお裾分けだったようである。 「……こんなに食べられない」  むっつりと応じたクリスに、サンダーは大丈夫大丈夫と軽く請け合った。 「殿下も日々鍛錬されてるんですから、そのぐらいいけますよ。大体、殿下は細すぎです。もう少しウェイトを増やさないと」  増やせるものならとっくに増やしている、とクリスは内心で反論した。  摂取したカロリーが筋肉どころか脂肪にもなりにくいのは、生来の体質である。本当なら、これだけトレーニングを積んでいるのだから、もう少し全体に厚みが出てもいいはずである。それなのに、クリスが期待するほどの変化にはほとんど繋がらなかった。  アウジリアスの船員たちに比べて貧相な身体付きは、ある意味、いまのクリスにとってコンプレックスであるともいえた。 「おいおい、サンダー、そいつは余計なお世話ってもんだ」 「そうだそうだ。余計なこと言うな。殿下はいまのお姿でも充分魅力的よ。オレらみてえなむさ苦しいのと一緒にするなってんだ」  すぐ横合いから別の声が複数割って入って、クリスはさらにげんなりとした。  食事をするクリスの傍らにはサンダーが同席しており、その向こうでは三人の男たちがカードゲームに興じている。そしてその場所はといえば、囚われて以来、クリスを抑留するためにあてがわれているプライベートスペースだった。  いったい、なんの冗談かと思う。だが、クリスがトレーニングルームを利用するようになって以降、食事を運んでくる役割はクラウス・ヴェルデに限定されず、そこで顔馴染みになった船員たちが、そのときどきで現れるようになっていた。それは別段かまわないのだが、彼らはなぜか、クリスのぶんだけでなく自分の食事まで一緒に運んでくる。そしてちゃっかり部屋に入りこんで、食事をともにしていくのだ。  連中と馴れ合うつもりは微塵もない。クリスがそう思っているにもかかわらず、さらに最近では、こうしてゾロゾロとオマケまでついてくる。独りで食べても美味しくないだろうというのがその言い分なのだが、それにしても節度がなさすぎなのではないかと、クリスのほうが呆れる始末だった。  囚われた当初の悲壮感は、とうの昔に消え去っていた。うじうじと思い悩む暇がなくなってしまったと言ったほうが正しいかもしれない。それでも時折、ハッと我に返る。日増しに薄れていく、船員たちへの嫌悪と怒り。そんな自分に対して押し寄せる自己嫌悪。その繰り返しだった。  彼らは祖国を滅ぼし、クリスの父母、そして多くの忠臣らを死へと追いやった裏切り者なのだ。ただひとりの味方であり、心の支えであったティアの生命すら、容赦なく奪い去った。  思ったところで耐えがたい感情が湧き上がり、クリスは手にしていたフォークをきつく握りしめた。 「さぁて、オメエら。そろそろ休憩時間はシメェにすんぞ」  サンダーが突如パン!と手を叩いてトレイを手に立ち上がった。 「はあ? なんだおまえ、いきなり。まだ食ってる途中じゃねえか。オレらだって、いま今晩の酒代賭けて勝負してて――」 「うるせー、シメェっつったらシメェなんだよ。時間見てみろ。オレらがいつまでも油売ってたら、副長が休憩取れねえだろうが」 「いや、だからなに言ってんだっつうの。それこそ、まだ交替の時間じゃねえじゃねえか」 「三十分まえ行動だよ。社会に出たら当然の常識だろが。そんなことも知らねえから、オメエらはいつまでたってもポンコツなんだよ」 「ああっ? なんだとテメエ! 一時間休憩で実質半分しか休めねえって、そんなムチャクチャな道理があるかよ。労基違反どころじゃねえだろが。喧嘩売ってんのか、この野郎っ」

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