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レオナードの声が徐々に覇気を取り戻していくのが分かった。アイレは肩を揺らして、ずいとレオナードに顔を近づけた。
「こうしましょ、”王様”」
悪い笑みを深め、目を細めて言う。
「あんたの脱獄計画には乗ってやる。だから俺を巧く使えよ。
で、あんたの首を獲るかどうかの判断は、アカサの視察が終わってからだ」
レオナードが楽しそうに笑みを深めると同時に、ゆらゆらと尾が揺れるのが見えた。
「あんたの首を獲るか、或いはあんたがいう“王の首”を獲るか、それは俺が決める」
言いながらわざとらしく両手を広げて、立ち上がる。レオナードの上から下りて手を出しだすと、レオナードはその手を軽く尾で弾いた。
「調子に乗るなよ、フェネックごときが」
くくっとレオナードが笑うのを見て、アイレは鼻を鳴らした。行き場を失った手を、わざとらしくホールドアップの態勢にしてみせる。
「はいはい、俺が悪うござんした。
じゃ、二週間後の満月の夜に会いましょ、王様。ちなみに俺のことは暗殺者じゃなくて、アイレって呼んでくださいね」
冗談めかして言ってやると、レオナードは上半身を起こした状態で、上目遣いに見てきた。月の光に照らされたレオナードの銀色の薄布が幾重にも織られたような民族衣装が、褐色の肌を際立たせるようだ。あまりの美しさに、目を逸らせなかった。
「リオナ」
ぼそりと、レオナードが言った。アイレの頭上の耳が動く。
「……え?」
「リオナ・サルサビュール。王ではない俺の名だ」
リオナと、口の中で呟く。なら、レオナード・クロトスという名前は、なんなのだろう。
なんのためにその名を与えられ、リオナの名を隠されていたのだろう。
アイレはリオナの中にあるエレメント(※1)の変化に気付いた。
静かだったそれが、一段と不遜なまでに沸き上がった。立ち込める不穏のにおいと、そしてリオナの余裕さが相まって、リオナがいままでの王とは一線を画しているのではないかと思った。
直談判に行った者は、帰ってこなかった。記憶にないが、アイレの両親もそうだ。
だからアイレは、王族が嫌いだった。アカサの飢饉も、自分の両親がいないのも、この国の不条理も、すべてが王族のせいだと思っていた。
王とは、奪うものだと思っていた。
けれどレオナードーーいや、リオナは、名前も、そして矜持も、そのプライドすらも、奪われる側に立たされていたのだろうか。
リオナの名を明かされただけだというのに、アイレの中からリオナに対する明確な殺意は消え去っていた。
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※1
エレメント→魔法を使うために必要なエネルギー元素。
この世界には5つのエレメントが存在しているが、火、風は存在しておらず、異端のエレメントと呼ばれている
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