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◇ 「脱獄は簡単だけど、追手に来られちゃまずいんじゃねえの?」  「俺はあんたを置いて逃げるけど」と意地悪く笑ってやる。レオナードーーリオナはふんと鼻を鳴らして、ゆっくりと起き上がった。 「おい」  ぞんざいに呼ばれ、顔を近づけるように指で合図をされる。なにかと思い近付けば、髪を数本抜かれた。「いてっ」と間の抜けた声が上がる。 「なにすんだよっ?」 「少しもらうぞ。魔法式の生成には多様なエレメントが要る」  そう言ったあとで、リオナは口の中でぼそりとなにかを呟いた。一瞬、リオナの指の先が赤黒く弾けたような気がする。リオナは解けた自分の髪を一束手に取ると、それを豪快に引き切った。  思わず声をあげそうになった。少し焦げたようなにおいが鼻をくすぐる。リオナの髪はまるで焼き切られたかのように縮れていた。 「いや……雑ぅ。曲がりなりにもライオンの鬣なんだから、もっと丁寧にさあ」  呆れたように言うアイレを無視して、リオナは自分の髪と、アイレの髪を軽く混ぜ、牢の石畳の上に無造作に投げた。指先で空中になにかを描く。  指先が空をなぞるたびに、見えない線がそこに残る。淡く、赤黒い燐光みたいなものが、遅れて浮かび上がった。 円でも、陣でもない。歪んだ何か。線は途切れ、重なり、噛み合わずに、それでも形を成していく。  アイレは眉をひそめた。 「……それ、まともな術式か?」 「まともである必要があるか?」  淡々と返されて、口をつぐむ。どうもこの王様の考えていることはわからない。髪を使って、なにをしようというのか。  リオナの指先が最後の一線を引く。 「ニルマーナ・ヴェーダ(存在を再定義する真理)」  リオナの低い声にはすでになんらかの魔力が宿っているかのように聞こえた。石畳に無造作に置かれた髪が淡く光を放ち、徐々に形作っていく。  アイレは目を見張った。数秒前までただの髪の毛だったものが、まるで本物のリオナが横たわっているように姿を変えたのだ。 「……すげ」  思わず漏れた声に、リオナは反応しない。ただ、じっとそれを見つめている。

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