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第6話

 葉太はスマホのアラームが鳴る前に目が覚めた。昨日はいろいろあったせいで寝つきが悪かったにもかかわらず。 (狭い)  壁へ背を向けた横寝の姿勢から、仰向けになるため寝返りを打とうとしたけれど、何かが邪魔をしている。目が覚めてしまったのはこのせいか。  もぞもぞと少しずつ体を動かして後ろを振り向くと、声を掛けられた。 「おはよう。よく寝ていたな」 「っ!?」  葉太と壁の間に横になって、こちらをにこやかに見ている。 サカキだ。いつもどおりの一日が始まってほしいという、葉太の願いは叶わなかった。 「なんで、こんなとこ……」 「昨日正式に契ったからな。ツユ子さんも見ていた」 「何のことですか、てかベッドから出てください」 「酒、飲み交わしただろう。おかげで番になれた」  たったあれだけのことで、それも自分は了承していないのに。納得がいかない。 「だから、葉太の寝顔をずっと見ていた」  恥ずかしさと気味の悪さですっかり目が覚めた。 そろそろとベッドから葉太が逃げようとすると、サカキに引き留められる。 「どこへ行く、起きたならここで話そう」  腕を回したサカキは葉太をベッドの上で抱きしめる。 「離してくださいっ!」 「体の方が覚えているかもな」  言うと、サカキは葉太をさらに強く抱きしめた。細身に見えたけれど、葉太が逃げられないほどの力がある。  頭を振って抵抗しようとすると、サカキがささやく。 「おとなしくしていろ」  ぞくりと背中がしびれる。動きが止まるとサカキの顔が間近に迫り、唇に柔らかな感触が降りた。 「ん、んぅ!」  抱きしめた片手を離し、逃げようとする葉太の後頭部を支え、サカキは葉太へもう一度キスを与える。  唇の隙間を割り、舌がぬるりと入ってくる。気持ちが悪い、そう思ったのは一瞬で、なぜか心がほどけた。 (こんなキス、前もした?)  懐かしいような、不思議な感覚がある。 「そんなにかわいらしい顔をして」  キスはすぐに終わり、サカキが間近でほほ笑んでいる。葉太が抵抗をやめたので、サカキも腕の力を抜いていた。  絡んだ舌を通して、サカキから受けた熱のようなものが、体に沁みてめぐっていく。  いつ、この感じを受けたのか葉太は思い出せない。 「記憶があいまいだから仕方がない」  カーテンの隙間から、明るい朝日が差し込んでくる。部屋の中が少しずつ明るくなっていくと、目の前にあるサカキの瞳の色が気になった。  差す太陽の光を受けて、透き通った紫色に輝いている。 (宝石みたいってこういう感じか)  キスの余韻でぼんやりとしながら、そう思って眺めていると、サカキが額に口づけた。 「またっ」 「ちゃんとこちらを見てくれて嬉しい」 「ったく……。紫の瞳って珍しいと思っただけですよ」 「そうか?お前と同じだろう」  確かに葉太の瞳も紫色だ。しかし、サカキほど美しくはない。しかし両親も祖母も、亡くなった祖父も紫ではなかった。 「これのおかげで、私のものだと周りに示せる」  目を細めて葉太を見るサカキは、大切なものを愛でるように指先で頬をなぞった。 「何言ってるんです……」  思わず透き通る紫の瞳を見つめていると、セットしておいたスマホのアラームが鳴った。サカキがおとなしくベッドから降りる。 「早く支度をしろ。学校なんだろう」  葉太を置いて部屋からサカキは出ていった。 (俺は物じゃないんだけど)  眉をひそめるも、不意に先ほどのキスを思い出し、体がぞくりと痺れてしまう。  サカキとのキスがいやではなかった。受け入れている自分に驚いた。

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