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第9話
供米葉太(くまいようた)は、放課後にひとり、自転車にまたがって自宅へ向かう。
葉太の通う高校は小高い丘の上に建つ。丘は全て高校の敷地なので、校門から続く長い下り坂は生徒以外が通ることはほぼない。
帰宅部の葉太と違い、多くの生徒は部活があるので授業後のこの時間はなおさら人がいなかった。
「神社、寄ってくか」
自転車のブレーキを、解放したりゆるくかけたりしながら、つぶやく。カゴにのせたスクールバッグは、振動を受けてごとごと揺れ、弾んでいる。
下り坂に立つ桜の木々たちは、花のころをすぎて新緑を見せ始めていた。
(衣替え、早まってくれよ)
気温も次第にあがり、校門を出るとすぐ、はおっていたブレザーを脱いでかごへつっこんだ。
(今日はこのT字路を、右、と)
龍神をまつる神社のある方向だ。
葉太が暮らす祖母の家は、郊外の新興住宅地にある。あたりには緑が多く、すぐそこには低い山が見えた。緑に囲まれた環境を葉太は気に入っていた。
古い鳥居の脇に自転車をとめ、スクールバッグを開けて中をチェックする。
「やば、クッキー割れたか?」
祖母から預かった、クッキーとウエハースチョコレートの大袋がひとつずつ入っていた。この品を神社へ届ける、それが今日の目的だ。
『サカキさんね、葉太と一緒にお社でおやつ食べたいんやって』
いつものように家へ来て、一緒に食べればいいのに。きっと自分の社へ来させるためのこじつけだろう。
鳥居をくぐってすぐのところに、低い柵で囲まれた小さな池がある。周りは細い道が作られていて、桜の木が立ち並ぶ。
葉太は池のまわりを半周進み、その奥にある古い社の前に立った。祖母など地元の人が定期的に掃除するおかげで、荒れてはいない。
「こんにちは、葉太です」
誕生日の午前0時に龍神サカキが現れてから、神社へ寄る習慣ができた。あくまでも祖母から頼まれてだけれど。
(俺を番だっていう変な……人、神か? だけど、悪意は感じないんだよな)
先日一緒にラーメン屋へ行ったが、人間の服装に変化したサカキは、人間離れした見た目というだけで、明らかな違和感はなかった。
社の前の階段を上がり、格子扉に向かって声をかけるとゆっくりと内側へ開いた。
「ぅわっ」
まるで、こちらへおいでと招かれているようだ。
葉太は境内の階段手前に脱いだ靴を置き、薄暗い社へ入る。初めは恐ろしかった社の中の雰囲気にも、もう慣れてしまった。
すると中の景色が一変する。
ぐにゃりと視界が歪んだ次の瞬間、明るく広い畳敷きの和室が現れた。
「よく来た」
何度か来て経験してはいるけれど、どんなマジックかといまだに不思議に思う。これも龍神の力のひとつらしい。
襖も障子も開け放った明るい和室で、見える庭先には緑の輝く木々に囲まれた池がある。
龍神・サカキは両手を広げ、葉太の方へゆったりと歩いてくる。
(こうやって見るだけなら、きれいな人なんだけど)
サカキは人間でいうと二十代くらいの男性の姿をしており、葉太よりもしっかりした体つきだ。それでいて長い髪は白く、瞳は透き通った紫色。葉太の周りに似た風貌の人間はいなかった。
(瞳の色なら、俺も一緒だけど)
社からつながる異空間で、サカキの姿を初めてきちんと見たとき、浮世離れしていて美しいと思った。特にこの空間で見るサカキの姿は、輝きを増し、オーラのようなものを感じさせる。
サカキはさっそく葉太を胸に抱き、額へキスをすると、さらに唇を奪おうとする。
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