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第10話
「そういうのはやめてください」
「気持ちよくないか?」
「……」
気持ち悪かったらよかったのにと葉太は思ってしまう。見知らぬ男にキスをされれば、気持ちが悪いし殴りたいと思うはずだ。
けれど、初めてされた日もそうは思わなかった。体を何かがめぐり、正直気持ちがよかった。
「ばっか…」
素直に感想を言えず、ただ悪態をついた。
「葉太をよくしたいんだ」
慈しむような視線を向けられて、葉太は心が揺らぐ。肩にかけたスクールバッグから、どうにか菓子の大袋を取り出してサカキへ突きつけた。
「これ、ばあちゃんから!今日のおやつです」
「ありがとう、うまそうだ」
祖母が作る料理も喜んで食べていたが、サカキはお菓子のときは特に目を輝かす。子供みたいな神様だ。
「どちらにしようか。葉太はどう思う」
「サカキさんの好きにすればいいでしょう」
だだっぴろい畳敷きの和室中央で、腰を下ろしつつ、目の前に立つ葉太の手を引いてくる。そしてそのままあぐらをかいた膝の上へ乗せられた。
「ちょっとっ」
「葉太と食べるといっそううまい」
背後から抱きかかえるようにされ、肩にはサカキがあごを置く。背中から衣服越しに感じる体温は、人のそれと変わらない。
先日、無断でベッドへ入り寝顔を眺められていたことを思い出す。そしてそのあと、深いキスをされた。勝手に感触がよみがえって、鼓動が大きく聞こえ出す。
「葉太」
名前を呼ばれ、我に返る。顔が熱い。
「頬の血色がいい。何を考えている」
「何でもないですよ」
そうかと言いつつ、サカキは葉太の耳たぶへ軽くキスをする。びくんと体が反応してしまった葉太へ、無邪気に問いかけてくる。
「葉太ならどちらを選ぶ」
「ど、どっちでも」
「選んで欲しい。どちらだ」
「えっ……あー、学校でクッキーは食べたし、今はチョコですかね」
「クッキーは食べたのか。なら食べなくては」
どうでもいいことを、サカキは真剣に悩んでいる。
「だが葉太は、今はチョコレートといった。ならそうしたい」
「どっちも食べたらどうですか、たくさんあるし?」
「葉太のくれたものが、すぐになくなってしまうだろう」
サカキの手から大袋をふたつとも奪うと、勝手に開封する。クッキーの個包装を破って開け、つまんで一枚を、肩口のサカキの前に突き出した。
「はいどうぞ」
「……いい匂いだ」
サカキはお徳用バタークッキーの香りを楽しみ、そのままひと口かじる。表情を輝かせたあと、クッキーをもつ葉太の手首を掴んで食べ進めた。
「そんなにおいしかったで……、っ!?」
全てクッキーを口へ入れ終え、葉太の指先を吸い始めている。
「そういうの、やめてくださいって」
「クッキーの粉がついていたから」
きょとんとして葉太の顔を見てくる。いつものようなからかいではなく、本心らしい。
持たれていた手を振り払い、今度はウエハースチョコレートを出してやる。個包装の中で縦半分に割り、開封してひとかけらつまむと、口元へ差し出した。
遠慮なくかじり、また最後に指を舐めてきた。
「だからそういうのはやめ……」
「チョコレートで汚れただろう。きれいにしただけだ」
二度目は驚きよりも、恥ずかしさの方が大きかった。すると、残ったチョコレートの半分をサカキは手に取り、葉太の口元へつける。
おとなしく口を開けて食べていると、突然唇の端を舐められた。
「いっそう甘い気がする」
自室のベッドでされた、深いキスをまた思い出す。同じことを今、されるのかと思ったけれど、離れたサカキはクッキーの袋へ手を伸ばした。
少しだけ期待してしまった自分が恥ずかしいし、おかしい。
「葉太」
低く静かな声が耳元で聞こえたかと思うと、後頭部に手が添えられ、サカキの方を向かされた。片手に持つ残りのウエハースチョコが取られる。
葉太へ端をくわえさせるともう片方をサカキがかじる。急に始まったポッキーゲームもどきにしどろもどろしていると、食べ進められたあげく、口内のウエハースチョコまで奪うようにキスされた。
「やはり、とても甘い」
「も……っん」
身じろぎしたけれど、抵抗を止めるように再び口を塞がれる。
サカキが人間だったとしても、体格は葉太よりも大きく力も強い。どのみち勝ち目はない気がする。
さらにキスが深くなった。
チョコレートの甘みが、サカキの言うとおり、いつもより強い気がした。
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