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第15話
龍神・サカキの守る池の周りに新たな家が増えていき、子供の数も多くなっていった。だが、外から新しい人間がやってくるたび、この社と池のことは忘れられ、存在が薄らいでいくのをサカキは感じていた。
(池で遊ぶ子供もいなくなったか)
龍神として長らく守り続けた、この土地の池は水がにごり始めている。それでも古くから近くで暮らす、高齢になった者たちが手入れをしてくれるので、社や周りが伸び放題の雑草で荒れることだけはない。
(ここももう終わりだろうか)
龍神たちは、池など水場ごとに存在して、その土地の水域を守っている。近くの都会の水場を守った龍神は、このあいだ人間の手による開発で、消滅してしまった。
ずっと昔、この池と社ができたばかりの頃は参る人も多く、祭りも開かれることがあり、人でにぎわっていた。当時と今を比べても戻るわけではないけれど、縁のあった龍神が消えたことでよけいに明日は我が身と感じ、寂しくなってしまう。
池のほとりの社は、サカキたち龍神の暮らす世界とのつなぐ場所だ。龍神は人と水場のつながりで生きているから、水場と社のどちらもなくなれば存在できなくなってしまう。
「あの子供なら寄り添ってくれるだろうと思ったが」
サカキは待っていられず、社の格子戸の外へ出て座り、池の向こうにある鳥居を眺める。
朝会った、この辺りの子供ではない少年。移り住んできた子供らの多くは、サカキの姿をちらと見るだけで怖がり逃げ去ってしまった。
16時をすぎても、少年は姿を現さなかった。この子ならと期待した分だけ、残念な気持ちは膨らんでしまう。
「あー、ほんとにいたー!」
格子戸の前から続く短い階段で立ち上がると、池の向こうから朝会った少年の声がした。声を聞いただけで、自然と口角があがる。
サカキは待っていられず、駆けてくる少年の方へ向かうと、少年もこちらへ懸命に駆けてきた。
「ラムネ、どうぞって。おばあちゃんから」
青く透明の瓶に入った飲み物をひとつ渡され、ふたりで社の前の階段に座る。
「これ、難しくって。お兄さんは上手にできる?」
「やったことはない」
葉太の説明を受けて挑戦してみるも、ふたりして失敗し、階段に中身をまき散らしてしまった。
「やっぱ難しいや~、半分に減っちゃったね」
笑いながら残りの飲み物を口にしている。サカキは着物まで濡らしてしまったが、少し操作をしてすぐに乾かした。
ついでに葉太の手元や服の汚れも飛ばしてやると、不思議そうにサカキを見る。
「暑いから、もう乾いちゃったのかな?」
不思議そうに首を傾げながらラムネを口にし、瓶の中でガラス玉がコロンと鳴る。
夕方になり日中よりも多少涼しくなってくると、ヒグラシの声が響き始める。池の周りには背の高い木々が囲んでいるので、夏になるととてもにぎやかだ。
「名前は?」
「供米葉太です。お兄さんは?」
「サカキという」
「サカキ……って名字?」
「そういう名だ」
「ふぅん」
飲み干したラムネの瓶を軽く振ってガラス玉をころころと鳴らしながら、サカキの顔をじっと見てくる。
「サカキさんの目、紫色できれいだね」
「葉太の瞳も、陽がさすと明るい茶色をしていてきれいだが」
きょとんとした葉太は、話を続ける。
「さっきね、おばあちゃんの家で調べたんだ。アメジストって宝石みたいだよね」
「そうか」
「僕もそんな色だったらかっこいいなぁって」
照れながら笑う葉太を眺め、このあとまさかそれが叶うとは、サカキも思ってはいなかった。
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