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第21話

 サカキから聞いた話は、どれも信じがたいものだった。自分の命は幼い頃、サカキに助けられており、成人したあとは一緒に暮らさなければ授けられた魂の片割れが安定しないということらしい。  池に落ち、水の中へ沈んでいく感覚に覚えがあったのは、本当に過去に溺れたことがあったからだった。けれど、その記憶がないのはなぜだろう。 「私も魂を半分にしたからな、前ほどひとりで自由にはできないんだ」  自分のために、サカキへ大きな負担を与えてしまったことが、申し訳なくてたまらない。  祖母の支えになりたくて、今も祖母の家で暮らしているというのに、人の命を削らせてまでして存在していると知り、役に立てているのかわからなくなった。 「かっ……返します。長い間、借りててすみませんでした」  するとサカキは首を横にふる。 「それは無理だ。もうお前の中で定着している。それなら、私の分を全て葉太にやる」 「え……?」 「この池はもうすぐなくなるから、私が存在する理由はない」  池を埋める工事が始まることは、先ほど鳥居の前で聞いた。社がなくなっても、サカキは今ここにいる穏やかな世界で、存在し続けられるものと葉太は思っていた。 「守る場所がなくなると、存在もなくなるんだ。だからその前に、葉太へ残り半分の魂も渡してしまいたい」 「そんな、他の池とか、移れるところないんですか?」 「その水場にはその龍神がいる。奪うことなどできない。それにお前は具合が悪いだろう。大人になった体に、半分の魂では見合っていないからだ」  向かい合って座っていたサカキが、突然前に迫り、あごを軽く持ちキスをしてきた。 「んっ! んん!」  離れようとすると、後頭部へ手を回され、唇を開かれ舌が差し込まれた。ぬるりと舌を絡め取られながらのキスは、舌や口内の粘膜を通して、じわじわと熱が沁みてくる。 「っ……は……、ん……」  サカキにされるがままに口づけを続けるうちに、口内から喉、さらに腹へと熱が沁みていき、下腹部へたまっていく。 「少しは具合がよくなったか」  突然のキスによる恥ずかしさとサカキに与えられた熱により、顔も体も全てが熱い。けれど、サカキの言うとおり、体は軽くなったような気がする。 「葉太が18になった日から、口づけをくり返してきたのは足りない力を補うためだ」 「け、けどそれじゃあ、俺がもらってばかりじゃないですか。サカキさんには何のメリットも……」 「成人したお前と、今まで過ごせて嬉しかった。それで十分だ」  サカキに正面から迫られ、肩を掴んで後ろ側へ倒される。 「ちょ! え、え!?」  畳の上へ仰向けに寝かされ、顔の隣に手をつかれると、サカキの白く長い髪がひと束、するりと流れ落ちてきた。 「残りを口から全て渡す。元気に暮らせよ」  優しくほほ笑んだサカキの顔が迫ってくる。  この口づけを受けたら、本当にサカキは消えてなくなるかもしれない。  本人はそれでいいと言っているけれど、葉太は納得がいかなかった。 「ちょっと! 待って、ください!」  とっさに両手を前へ伸ばし、サカキの胸をどんと突く。 「なんだ、お前の体は十分順応している。もう半分を渡しても問題はない」 「サカキさんと一緒にいればいいんなら、俺の家に来ませんか!」  間近に顔の迫ったサカキは、紫の瞳を丸くしている。 (この瞳の色、俺と同じだ。半分もらったせいなのかも) 「水場は……庭に小さな水甕くらいしかないけど、神棚ならありますよ。いつもここと行き来してましたよね?」  池と比べればごく小さいけれど、消えてなくなるよりはいいかと無茶な提案をしてみる。 「お前は私に消えて欲しくないのか?」 「命の恩人なんですよ、当たり前じゃないですか」  急にサカキは満面の笑顔を浮かべると、覆いかぶさってきて思い切り抱きしめられた。 「ぅぐっ……」 「そうか、わかった。なら私も無理をしよう」  すぐに腕をほどいて起き上がり、葉太も助け起こされた。 「だが、私と一生離れることはできないぞ。本当に番になることになるが、いいんだな」 「……はい」  自分のために誰かに犠牲になって欲しくない。  番というところが気にはなったけれど、断ればまた魂の半分を託して消えられそうなので、葉太は素直にうなずいた。 「必ず行く」  本当はサカキ自身も消えたくはなかったのだろう。安心したように穏やかに笑っていた。

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