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第9話 恋人に会いに来たのに言い含められ、チョコをもらった

 高瀬の家の門柱で、成瀬は佇んでいた。  インターホンとは、こんなに押しずらいものだっただろうか。チラチラと門の中を覗きながら、インターホンに指を寄せるを繰り返してまた、躊躇う。  こんなに豪華な門構えが悪いと思うんだ!帰ろうかな……でも、満月までルルさんに預けてきちゃったし……。  成瀬が考えていると、キィと金属音がして門が開いた。 「成瀬さま、いかがされましたか?」  執事の格好をした壮年の男性に声をかけられ、成瀬は背筋を伸ばす。成瀬が門柱にいたことはずっと分かっていたようだ。 「い、や、あの……シンさ……あ、いえ……高瀬主任に会いたいなと……」 「左様でございますか……では、どうぞ中へ……」  中へ案内されて、相変わらずの豪華さに、成瀬は身を縮める。  来たはいいけど、シンさん怒らないかな……こんな押しかけるような真似……。いや、シンさんが悪いんだった!問い詰めるんだ! 「こちらでお待ちください」 「あ、はい……」  以前も通された応接室で、成瀬は扉から現れるであろう金髪美人に、どう詰め寄るかをシミュレーションする。  まずは、胸ぐらを掴む。乱暴かな?いや、こっちが怒ってることを分かってもらわなきゃな。それから…………なんて言おうか……。  元来文系のくせに、言いたい事はうまく人に伝えられないのが成瀬だ。感情が昂ると余計に何を言えば良いかわからない。成瀬は怒ることが苦手だ。  言葉を考えても、うまく出てくるかもわからないからと、成瀬はソファーの背もたれにもたれて大きく伸びをした。  むしろ、何を怒ってたんだっけな……。  昨晩は酒の勢いと、その場の雰囲気で、すごく怒りがわいたのだが、今となっては何をそんなに怒ることがあるのだろうかと自分の気持ちを不思議に思う。  ちょっと顔を見れたら、キスだけしてもらって帰ろ。  そんな思想に行き着いた時、部屋の扉が開いた。  さっきしたシミュレーションで、掴みかかりに行くというアクションがあったせいか、成瀬はバッと立ち上がって身構えてしまった。 「どうしたの?成瀬くん」 「あ、レオニアさん……い、いえ……」  なんだかバタバタと身振り手振りをしている成瀬に、レオニアは不思議な顔を向けた。成瀬はなんとか誤魔化しながら、ソファーに座り直す。 「久しぶりね、ケンイチ」 「ココさん……あ、なんかすいません。大事な日なのに……」 「良いのよ。パーティーは人が多い方がいいわ」 「でも、法事って……」 「Papaへのお祈りはもう終わったよ。あとは親戚が集まってパーティーをする。でもね……」  レオニアが言い淀んで、下を向いた。  親戚と言うから、俺は呼べないと言うことだろうか。  成瀬は少し悲しく思いつつ、それでも、わきまえようと帰ろうとする。 「あ、俺、やっぱり帰りますよ。シンさんに、挨拶だけ……」 「あ、いや……それがね……」 「シンシアは、病気なの」 「え?」  コレットがごめんなさいねと微笑む。今日は遊べないのよとでも続きそうな雰囲気だ。 「大丈夫なんですか?」 「大丈夫だよ。軽い風邪だよ」  レオニアも続けるが、成瀬は不安になる。満月が近い。拗らせたら、いつも以上に苦しむのではないのか。 「あの、お見舞いに……」 「あぁーダメよ」 「ぁ……でも……」  コレットに即座に断られ、成瀬は余計に不安になった。 「成瀬くん、うつるかもしれない。君が風邪をひいたら、辛いのはシンシアだ」 「……そう……ですけど……」 「大丈夫だよ。お休みが終われば会えるから」  レオニアの笑顔に、高瀬の顔が重なり、成瀬は首を縦に振った。 「ケンイチ、せっかくだからご飯食べて行って。パーティーの準備はできているの。お菓子がいっぱいよ」 「そう……ですか……」  コレットは、やっぱり小学生でも相手にしているかのように話をしてくる。成瀬も、その口調に微笑みを向けながら、わがままを通してはいけないと思う。自分が来たことだけを伝えてくださいとだけ答えた。 「さ、こっちだよ。たくさん並べているから、好きなの食べてね」  レオニアに案内されて、広いダイニングに来ると、大きな長机にたくさんの料理が並べられていた。ほとんどがクッキーやケーキなどのお菓子だが、成瀬には馴染みのない形や香りだった。 「すご……結婚式……?」 「はははっ、mariage!?いいわね、誰か結婚してくれないかしら~」  コレットの笑いに、成瀬は苦笑する。視線に軽く圧を感じ、それでもなんとなく嬉しかった。 「Maman、まだそんな話早いよ」 「あなたもシンシアもゆっくりなのよね~。私おばあちゃんになっちゃうわ」  気にしなくていいよと言うレオニアは、テーブルからチョコを選んで成瀬に皿を渡した。 「僕の雑貨屋でも出してるんだ。フランスのチョコ美味しいよ」 「あ、ありがとうございます……」  成瀬は綺麗な見た目のチョコが乗った皿を受け取り、その綺麗さに、手をつけ難いと困る。  成瀬がチョコを見つめながら困っていると、部屋の入り口でフランス語が聞こえた。レオニアとコレットが呼ばれたことは成瀬にも分かったが、さっきの執事を含めて三人でフランス語で話されると、全く内容はわからなかった。  何か、重大なことが起こったのか、レオニアもコレットも焦った顔をしている。人の家のことには口を出せないし、何が起こったかもわからない成瀬は、説明があるまで待とうと皿のチョコに視線を戻した。  シンさんだったら、食べるか?って口に運んでくれそうだよな。俺の口に入れた後、フッて笑って嬉しそうな顔をする。美味しいって言ったら、きっと頭を撫でてくるんだろう。  目の前にいない高瀬を思い浮かべて、成瀬は口角を上げ、次に寂しくなった。  ため息を吐く瞬間に、レオニアの声がした。 「ごめんね、成瀬くん。ちょっと出てくるから、好きなの食べて待っててくれる?お酒も飲んでくれて構わないからね」 「え……俺、居ていいんですか?」 「うん。この部屋なら大丈夫だから」  そう言って、レオニアは部屋を出て行った。コレットもいつの間にか部屋にいない。何かがあったのだろうが、ここにいろと言われれば、成瀬はそれしかできないので、ちょこんと椅子に座った

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