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第10話 庭に現れた縞模様。コレットの決意に成瀬は……

 今更ながら、部屋の豪華さと、クリスマスの飾り付けの豪華さに、自分の格好が場違いではないかと成瀬は居た堪れなくなった。  せめてスーツでくれば良かったかな。でも休みだったし……。  ポツリと残された広い部屋には、いつ親戚の人が集まるのだろう。成瀬が一人で座っていて、誰だと思われないだろうか。  いや、それよりも全員フランス語だったら成瀬は説明のしようがない。拙い英語の自己紹介でもするしかないなと成瀬はチョコを摘んだ。 「うまい…………」  広い部屋に反響した声が、静かに消えた。チョコの味はその一言に集約されていた。色々な香りだったり、舌触りだったり味だったり何がどういいのか言葉が見つからないが、成瀬の人生で、一番美味しいチョコだった。  甘さに感動しながら、成瀬は窓の外を眺めた。綺麗な庭に、サンタやトナカイの置物が並んでいる。  クリスマスなんだよなと、街の賑やかさを思い出した。  一方、玄関では、レオニアとコレットが話をしていた。  レオニアは興奮した様子で、ライオンの耳と尻尾を出している。 「Maman、僕に行かせて。シンシアは弟だ。僕が抑えるよ」 「ダメよ、絶対にダメ。朔夜のように怪我をするわ。あなたがあんな怪我したら……」 「………………」  レオニアは、母の辛そうな表情を見て黙った。 「シンシアも、それを知ったら、今度こそ……二人とも失うことになるなんて嫌……」 「分かった……」 「ありがとう」  コレットはレオニアを抱きしめ、背伸びをして額に口付けた。耳と尻尾がおさまるように、そっと撫でてやる。 「あの子もこれでおさまればいいんだけどね」 「それは、シンシアが一番望んでたよ」 「今はケンイチがいるわ。無事にケンイチのところに返さなくちゃ」 「そうだね」  コレットは、カチャリと銃を構える。 「子供を撃つ母親になんて、なりたくなかったのよ……」 「Maman……」 「大丈夫、ちゃんと守るわ。家族全員ね。朔夜と約束したんだから」  レオニアの頭を撫でて、コレットは玄関から出ていった。  イルミネーションとか、見に行きたかったな。シンさんの写真撮ったら、どんな背景でも綺麗に写るんだろうな。逆光とか暗闇とか関係なさそう。  成瀬の妄想の中の高瀬が撮るなと言いながら照れている姿に、成瀬は一人でニヤニヤと笑う。その楽しい世界の隅に、チラリと虎の縞模様が映った。 「え?」  妄想と現実が交差したのかと、成瀬は窓の外を凝視する。庭の茂みの中、何かが動いて、トナカイの置物が倒れた。  虎……だ……  動物園でも無いのに、虎が庭を歩いている。逃げ出してきたのか、そんな近くに動物園は無いはずだと成瀬は考えを巡らす。 「Bouge pas !(動かないで!)」  成瀬の考えがゴールに辿り着く前に、コレットの声がした。その声の方向を見ると、銃を構えている。  打つの?大人しくしているのに?  そう思った瞬間、成瀬は窓から飛び出していた。 「待ってください!かわいそうです!」  成瀬は考えも無しにコレットの前に立ちはだかった。 「ケンイチ!危ないから、離れなさい!」 「だって、あの虎は何もしてません!」 「でも、危険なの。お願い、どいて!」  コレットは、いつもの様子とだいぶ違い、揺れる瞳は恐怖ではなく悲しみと不安が混じっているようだった。成瀬は、ゆっくりと微笑みながらコレットに話す。 「大丈夫ですよ。こんな所に居るって事は、野生じゃ無いでしょ。人が怖がらせるようなことをしなければ良いんです」  コレットの青い瞳に迷いが揺らいだ。 「大丈夫ですココさん。警察に言って、大きな檻を持ってきてもらいましょう。俺があいつを誘導しますよ」 「ダメよ……そう言うことじゃないの、ケンイチ……」  コレットは銃の構えがおろそかになりながら、成瀬の言葉に期待を向ける。  しかし、そんなことと、首を振り、もう一度銃を構え直した時、成瀬のすぐ後ろに虎が来ていた。 「逃げて!ケンイチ!」  振り向いた成瀬の視界が、大きな虎の手で塞がれた。

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