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第12話 豪華な檻の中、落ち着く虎に明かされる高瀬の傷

 応接室にいた全員で移動したのは、地下室だった。  地下室と言っても、簡単なものでは無い。  階段も廊下も綺麗な装飾品で飾られていて、靴を脱いだ方が良いのではないかと思うほどの絨毯が敷かれていた。  その廊下の一番奥、至って普通の扉を開けると、鉄格子で区切られた部屋があった。  その鉄格子はまさに檻。  しかし、冷たく感じるものでは無い。  檻の前で、虎になった高瀬を観察するようにじっと見つめる男もいた。  檻の中は、成瀬の家のリビングよりも広い。手触りの良さそうな絨毯が続いていて、豪華な家具も揃えられていた。  フランス調のクラシカルなソファーやベッドは、コレットの趣味だろうか。  若干、低い高さで揃えられているのは、虎の体を考慮してのことだろう。  高瀬はその檻の中で、立派な虎の体を大きなソファーに横たわらせていた。  その様子をじっと見つめていた男が、振り返り、成瀬にも顔が見えた。 「龍樹さん?」 「成瀬くん。僕も招待されているって言ったのに、先に一人で来たんだね」 「あ……すいません」  成瀬は、門柱で不審にウロウロとしていたことを思い出す。一緒に連れてきて貰えば面倒をかけなかったなと今更ながらに思った。 「いや、そのおかげで、予定よりも早い、臣の獣化を助けることが出来たって聞いている」 「あ、いえ、助けたのかどうか……」 「助かっているわ」  コレットが後ろからそう言って笑う。 「あのままだったら、また、シンシアを撃つことになっていたもの」 「またってなんですか?」  龍樹がコレットの話を促すように聞いた。  コレットが言いにくそうに檻の中から目を逸らしつつ口を開き始める。 「フランスにいた頃の話よ。シンシアもレオニアも13の時から半獣化をするようになったわ。レオニアは抑制剤ですぐに安定したけれど、シンシアは効かなかった」  コレットの話は、全員が知っている前提なのだろう、だいぶざっくりと、だけれども成瀬に伝えるかのようにゆっくり語られた。 「朔夜が抑制剤なしで衝動を抑えられるようにと訓練をしてくれたけど、14の時に完全に獣化してしまったの。クリスマスの夜だったわ……その日は、朔夜が仕事でいなくて……獣化していることにも気付けなかった……街で騒ぎになっていて、シンシアはパニックになっていた…………」  朔夜とは、高瀬の父親であると、以前高瀬から聞いていた話を成瀬は思い出す。  同時に、言葉に詰まり始めたコレットの話の続きを、高瀬から聞いた事から推察できた。 「Maman……」  目を閉じて、唇をふるわすコレットの肩を、レオニアがそっと抱き寄せる。  成瀬は、言えないのだろうと言葉を繋げた。 「シンさんを、撃ったんですよね」 「え……」    龍樹の声が止まった。 「その時も、麻酔銃ですか?」 「もちろんよ」  コレットは成瀬の質問に、食い気味で答える。  成瀬は天井を仰ぎ、高瀬から聞いた話を思い出す。  高瀬の言葉を今、言って良いのか悩んでいた。  檻の中では、高瀬の耳がピクリと動き、寝ながらに音を拾っているようだ。  成瀬は、その寝顔に高瀬の人の顔を重ね、暗闇の中の背中を思い出した。  高瀬の部屋、ベッドの上で抱き合ってまどろんでいた時、ふと思って聞いてしまった。 「シンさんの実家は近いのに、なんで実家で一緒に暮らさないんですか?」 「………………」  高瀬の沈黙に、成瀬は話題を変えた方が良いかと急いで別のことを考えたが、思いつかなかった。 「一人の方が、困らせない」  高瀬はそう言って、体を起こし、片膝に腕を置いて、俯いた。  無駄のない背中の筋肉が格好良いが、暗闇に浮く肌色が儚くも見えた。 「あの……そう、ですよね……変なこと聞いてすいません」 「いや、知っていてくれ」 「え……」 「俺は、母親に銃で撃たれたことがある」 「こ……ココさんが?」 「あぁ。俺を守るためだってわかっている。暴走しかけた俺を、止めてくれた……」 「そんな……でも……」 「俺は、家族に負担をかける存在なんだ」  そんな…………  成瀬はたまらずに高瀬の背中に抱きついた。  胸が張り裂けそうな思いを言葉にはできず、ただただ抱きしめる。 「俺が、います。離れませんから」  鼻を啜る音が聞こえて、高瀬は膝を抱えた。  大きな背中が、小さく小さくなっていった。 「臣は、その時の獣化のことは覚えているんですか?」  顔を伏せているコレットに変わって、龍樹の質問にレオニアが首を振った。 「多分、何があったのかは覚えているかもしれないけど、完全に獣化をする事はPapaが亡くなってから、忘れてしまっている」  龍樹が顎に手を当てて考えている。 「完全獣化する話は、俺も高校の時に臣から直接聞いています。あの頃は確かに記憶があった」 「やっぱり、Papaのことで……」 「心理的なところが作用しているとなると、やっぱり薬でどうこうする問題じゃないのか……」  考え出す龍樹に、成瀬は疑問を持つ。  龍樹は、高瀬と高校からの友人で、ルルの恋人だ。  でも、それだけじゃない? 「あの、龍樹さん……」 「あぁ、僕のことはまだきちんと話して無かったね」  龍樹は成瀬の表情から察したのだろう、向き合って教えてくれた。 「僕は、フランスで獣人の新薬の研究をしている。クリスマスの臣を診るために一時帰国をしてきた。医者だよ」  成瀬は龍樹に掴み掛かる勢いで駆け寄った。 「シンさん、治るんですよね!?」  龍樹が驚きつつも柔らかく笑う。 「大丈夫、完全獣化はクリスマスだけだ。毎年、翌朝には戻っている」  綺麗に整った笑顔が成瀬を安心させる。  龍樹を掴む手の力が抜け、檻の中の高瀬にゆっくりと視線を向けた。  高瀬は、ソファーに寝転んだまま目は閉じられている。  ゆっくりと呼吸をしているところを見ると、檻の中で安心しているようだ。 「そばにいてあげたい。俺も、中に入れてください」 「ケンイチ!」  成瀬の言葉に、コレットが慌てた。  レオニアと神谷は少し迷っているようだ。 「大丈夫です、ココさん。シンさんは、俺の恋人ですよ。虎の姿だって、中身はシンさんです。あの寝方、いつも隣で寝ている顔そっくりです」 「あ……隣で……そう、なの……」  フフッとコレットは笑い、成瀬を見上げた。  強い視線に、成瀬もまっすぐに見つめ返す。 「わかったわ。でも……今まで誰も完全獣化したシンシアに、認識された事は無いの。危ないと思ったら、すぐに出てきてちょうだいね」 「はい。シンさんを困らせることはしません」  レオニアと、神谷がスンと鼻を鳴らして、二人同時に口角を上げた。  龍樹は、檻の鍵を外し、扉のかんぬきを抜く。  キイと鳴る扉の音に、高瀬の目が開く。  成瀬は扉をくぐり、笑いかけた。

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