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第14話 おにぎりは日本人の心
レオニアと神谷がダイニングへ戻ると、コレットが神妙な顔をしていた。
コレットの目の前には、大量に積み上げられたコンビニのおにぎり。
「Maman?」
「あ、これね、シンシアが食べたいって言っていたらしいの」
きっと、使用人は困った顔をしながら買いに行ったのだろう。こんな大量に。
クスリと神谷が吹き出した。
営業所の休憩室で笑い合う成瀬と高瀬を思い出す。
「クリスマスのご馳走よりおにぎりが良かったんだ」
「何?コウイチ」
「いえ、成瀬くんが好きなんですよ。おにぎり」
「なんだ、そう言うこと」
コレットは一つ取ると、みんなで食べてきたらとおにぎりを指し示した。
レオニアは、ニコニコと笑う。
「地下室でピクニックだね」
「じゃあ、水筒とレジャーシートも持って行こうか」
「いいね。成瀬くん喜びそう」
神谷の冗談に、レオニアはのる。本気でピクニックの準備をしそうなレオニアに、神谷は苦笑して謝った。
「ごめんね。僕はそろそろ帰るよ。多分、もう大丈夫だと思うから」
「そっか。サンタさんしなくちゃいけないんだよね」
「そう、お父さんは大変なんだよ」
軽い会話に、三人の顔が綻んだ。
ガサガサという袋の音に、高瀬の耳が動いた。
レオニアが大きく膨らんだコンビニ袋を持って地下の部屋に入ってきたのだ。
「なんだそれは?」
「ピクニックだよ。まだ上にあるんだけど、持ちきれなくって」
レオニアはご機嫌に笑いながら、檻の前にあるテーブルに袋を置いた。
ふぅと一息ついたレオニアに、龍樹が椅子を差し出す。
「ありがと。成瀬くん、お腹空いてない?シンシアも、みんなで食べようよ」
「僕は?」
「ふふっ、龍樹は壁でしょ?」
レオニアは子供っぽく笑いながら、おにぎりを差し出した。
それを受け取りつつ、龍樹は目を細め、口元を緩める。
「成瀬くん、中のテーブルと椅子をこっちに運んできてもらえる?」
「あ、はい」
成瀬は、寄りかかる高瀬の頭をそっとソファーに下ろして、檻の中のテーブルを移動させた。
檻を挟んで、四人でテーブルを囲む。
高瀬は椅子ではなく、成瀬の足元に座り、当たり前のように顎は成瀬の太ももに乗せている。
成瀬も、自然に高瀬を撫でる手を止めない。
「すごい量ですね。どうしたんですか」
「シンシアが食べたいって言ったんだって。何件もコンビニを回ってくれたみたいだよ。人使い荒いね~」
レオニアの言葉に、龍樹も同意した。
高瀬は声が聞こえているのかいないのか、ふぅと一つ鼻を鳴らした。
「そういえば、初めてうちに来た時も大量のおにぎりでしたね。シンさんは、何が良いですか?やっぱり昆布?」
「え、シンシア昆布のおにぎり好きなの?」
「そう言ってました。少し甘いのが良いって。だから、おかかも好きなんですよね?」
高瀬は腰をあげ、テーブルに前足をかけるとおにぎりを見た。
後ろ足で立っているような体勢になると、やはり虎の身体は大きい。
簡単に、成瀬の座高を超えた。
「食べられそうですか?開けてあげますから」
「成瀬くん優しいね。シンシアのテーブルはソファーのローテーブルの方が食べやすいかな」
「そっか」
成瀬はクラシカルなローテーブルを隣に並べ、自分も床に座った。
「成瀬くんは椅子に座ったら?」
「うち、椅子の無い家なんで、こっちの方が落ち着きます」
「そうだったね。日本式だ」
「いや、日本人が全員、床が良いわけじゃ無いからな」
ローテーブルにおにぎりを並べるが、高瀬は匂いを嗅ぐだけだった。
「食べないんですか?昆布ですよ?」
「……やっぱり食べないか」
少し期待を込めていたのか、レオニアは残念そうに言う。
「え?」
「完全獣化している時の臣は飲食をしないんだ。何を差し出しても食べようとしない。食べ物に興味を持ったと思ったんだけどな」
「た、食べないと、倒れませんか?」
「明日の朝には人間に戻る。一晩くらい絶食したって大丈夫だ」
龍樹はそう言いながら、レオニアが渡した梅干しのおにぎりを頬張った。その味に、どことなく嬉しそうな顔をしている。
レオニアも、食事については心配をしていないようだ。
「シンさん……お腹空いちゃいますよ?」
成瀬はおにぎりを割ると、手のひらに乗せて高瀬の前に差し出した。
高瀬は成瀬の手に顔を近づけ、ちらりと成瀬を見る。
「美味しいですよ」
ニコリと笑う成瀬の顔に、高瀬は小さくおにぎりに齧り付いた。
「えっ!」
驚いた龍樹は、慌ててノートに書き綴る。
「動画、撮って良いかい?」
「え、あ、はい」
成瀬は高瀬に次のおにぎりを与えるが、高瀬はフイっと顔を逸らした。
「シンさん、もういらないんですか?」
成瀬の心配そうな声に、高瀬は体を寄せて、床に寝そべり甘えるように膝に顎を乗せた。
「うわっ……」
成瀬は少し体勢を崩しながらも、高瀬の重さを受け入れ笑う。
「やっぱり体感鍛えないとな。三浦さんとジム行こうかな」
成瀬の呟きに、高瀬の前足が床を叩く。
「ふふっ、シンシアのヤキモチだ」
「成瀬くん、後で三浦さんについて教えてくれ」
「え……」
きらりと光る龍樹の眼鏡に成瀬は苦笑した。
そんな龍樹の横で、鶏五目おにぎりを小さく齧りながら、レオニアは高瀬を見つめる。
高瀬の目は不満そうだが、次に大きくあくびをした。
「シンシア、眠そうだね。少し眠ったら?」
レオニアがそう呟くと、高瀬はゆっくりと目を閉じた。
「獣化って、体力使うんだ。僕も半獣化するとすぐに眠くなる」
「そうだったんですか」
次第に、ゆっくりとした呼吸になる高瀬に合わせて、成瀬もゆっくりと手を動かす。
「こんな風にクリスマスにみんなで食事ができるなんて、Papaもきっと喜んでるよ」
穏やかに笑うレオニアは、高瀬に向ける視線が完全に安心したものに変わっていた。
不安が無い瞳は、高瀬によく似ていて、成瀬もホッとする。
「玲央、朔夜さんについて、もう少し聞いてもいいか?」
龍樹は高瀬の様子を伺いながら、少し声を潜めて言った。
穏やかな空気から、少し冷たく緊張した雰囲気に変わり、成瀬は、動かしていた手を止める。
高瀬の寝息だけが少しの間、聞こえていた。
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