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第15話 シンシアは悪くない

 朔夜は、高瀬の父親だ。    今まで、高瀬から父親の話はあまり聞いたことがなかった。クリスマスに法事がある。そのくらいしか言われてない。  龍樹の言葉に、レオニアも高瀬の様子を伺う。  成瀬はその視線に、止めていた手をまた動かし、高瀬を撫で続けた。  多分、高瀬には聞かれたくない話なのだろう。 「お、俺、離れましょうか」  高瀬と共に、部屋の奥へ行こうかと思ったが、レオニアは首を振った。 「聞いてて。成瀬くんにも知っていてほしいから」 「…………はい……」  龍樹がレオニアを見て、高瀬を見る。  双子なのに、今はだいぶ見た目が違う。  ゆっくり瞬きをして、龍樹は口を開いた。 「朔夜さんも獣人だったな。俺は一度だけ会った事があるけど、その時はかなり元気だった」 「うん。高校生の時だよね。僕を家まで運んでくれたから」 「あぁ、でも、その後数年で亡くなっている」 「……そう……だね……ちょうど僕らが20歳の時に……」  龍樹は、言葉が途切れるレオニアの様子をよく診ながら、話を続ける。 「あの頃は、臣も満月の前後は不安定になっていた。豪に噛み付いたこともあるくらいに……」  ピクリと成瀬の手が止まる。  高瀬は変わらずにゆっくりとした寝息を繰り返していた。 「うん。それ以来、満月の日は神谷さんが、シンシアに付きっきりになってくれた」 「そこだよ」 「え?」 「急に、朔夜さんが出てこなくなるんだ。それまではよく朔夜さんの話を聞いていた。フランスでコレットさんに出会って大恋愛をした話とか、玲央が自慢してただろ。臣も無表情に楽しんでた」  レオニアが、鶏五目のおにぎりを置き、顔を伏せる。  呼吸は落ち着いている。  龍樹は言葉を繋げた。 「どうして、朔夜さんの役割が神谷さんに変わった?」 「それは………………」 「悪いな、玲央。コレットさんに聞く方が酷だと思ったから、お前に聞いてる」  レオニアが目をつぶって頷いた。  龍樹は、気になっていた高瀬の言葉を続けて口にする。 「臣は、父親を殺してしまうかもしれないと言っていた」 「なっ……」  ガタンと椅子を揺らすレオニアに、成瀬は顔をあげられず、高瀬の穏やかな寝息に合わせて、また撫で始めた。  ゆっくり、寝ていてほしいと、二人の会話に耐えながら。 「臣は、朔夜さんを傷つけたんじゃないか?致命傷を与えて、しまった。だから、朔夜さんは数年で亡くなってしまったんじゃ無いのか?」 「違うよ!」  息を切らし、涙を浮かべながら、レオニアは龍樹の言葉を否定する。 「違う、シンシアは悪くない!」 「わかった。僕が聞いたのは臣の言葉だ。僕がそう思っているわけじゃない」 「ごめん」  レオニアは、ゆっくりと呼吸をして、興奮をおさめようとする。  龍樹は、その様子を診て、黙って待った。 「確かに、シンシアはPapaに大怪我を負わせた事がある。17の時、満月の衝動に耐えきれなかったんだ。神谷さんがいてくれて、どうにか押さえ込んでくれた。でも、Papaの腕と背中には大きな傷が残ったよ。でも、それはちゃんと治ってる。」  レオニアは、一呼吸置いて、また口を開いた。 「……Papaは……僕と……同じ病気だった…………」  龍樹はレオニアを見る目を大きくした。  無意識にか、レオニアに手を伸ばして、手を握っている。  その様子に、レオニアは優しく笑った。 「大丈夫、僕は進行性じゃない。上手く付き合っていけば長く生きていられる。でも、Papaは違った。どんどん弱っていったんだ。シンシアの怪我から、病気が見つかって、その時にはもう……でも、その時見つかってなかったら、もっと早くに……」  レオニアの目から、堪えていた涙が落ちる。 「一度だけ、Papaに謝られたんだ……シンシアと三人で話していた時……僕の病気も、シンシアの特異性も、Papaの遺伝だろうって…………」 「玲央、悪かった。ありがとう。もう充分だ」  龍樹は、涙をこぼすレオニアの手を強く握り、頭の中を整理していた。 「遺伝……」  朔夜の若い頃の話は、コレットから聞いていた。  やはり抑制剤は効きづらかったらしい。でも、完全に獣化することはなかったようだ。  そして、完全に獣化した高瀬に触れられていたのも朔夜だけだったと。 「ふぅ……はっ……」 「玲央?」  気付けば、レオニアの息が上がっていた。  龍樹はレオニアの隣に立ち、背中をさする。 「大丈夫だよ。痛みはない。でも……部屋に戻ろうかな……」 「あぁ。成瀬くん、少し離れる」 「あ、はい」  龍樹はレオニアを支えるように立ち上がらせ、一緒に部屋を出ていった。 「シンさん……お父さんは、優しくて強い人なんですね。シンさんと一緒ですね……」  成瀬はゆっくりと優しく、高瀬の毛並みを撫でる。  艶のある毛が柔らかく、手触りがいい。  龍樹とレオニアの言葉を反芻し、高瀬の胸の内を想い、たまらずにギュッと抱きついた。  ゆっくりと、高瀬の目が開く。

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