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第16話 シンさん、朝ですよ
成瀬のスマホが鳴った。
神谷からのメッセージを開くと、明日も休んでいいと言うものだった。
年末に連休なんて申し訳ないと思ったが、隣に寝そべる高瀬を見て、そうさせてもらおうと営業所のみんなに心の中で頭を下げた。
「シンさん、俺、明日も休んでいいって言われました。明日、元に戻ったら、クリスマスやりましょうね」
成瀬はスマホの画面を見せながら、営業所の大掃除をみんなでやったら楽しそうだと仕事の話をする。
高瀬はスマホの画面をペロリと舐め、メッセージアプリを閉じてしまった。
「えっ、すご、シンさん今の偶然ですか?」
アプリを開き直そうとする成瀬に、高瀬はのしかかり、ベッドへ押し倒す。
気付けば夜も更けている。
「俺、ここで寝ていいんですかね。シンさんの実家にお泊まりなんて……」
「臣を襲わなければ一緒に寝ていて構わない」
「えっ!」
二人だけだと思っていた空間に、突然龍樹の声がして、成瀬は驚き体を起こした。
「ずっとここに居た」
「……俺、襲いませんよ?」
「君は、性欲旺盛そうだから」
「性欲旺盛って……」
これは褒め言葉なのか?
龍樹の表情はあまり変わらず、この言葉をどう捉えればいいのか、成瀬は悩んだ。
「普段、臣とはどんな風に交わるんだ?」
「はっ?!そんなこと……」
「言えないかい?僕と豪はかなり濃密な方だと思っているけれど、満月の臣の衝動の方が激しそうだ。満月の日はどんな交わりになる?」
「い……言いません……」
正直、満月の日にまだちゃんとしたことが無い。
成瀬が撫でて、眠っただけだ。
成瀬が口をつぐんでいると、高瀬も体を起こして、冷ややかな視線を龍樹に向けた。
「怒らないでくれ。純粋な研究者の疑問だ。衝動の度合いを知ることで、薬の調整もできるだろ」
龍樹は表情を変えずに、淡々と話す。
高瀬は長く息を吐いて、ベッドへと体を沈めた。
そして、隣に来いとでも言うように成瀬へと目線をあげる。
「わかった。もう寝よう。でも、事を起こすなら呼んでくれ。それか、後で教えてくれたら助かる」
「…………わか」
「ガウッ」
成瀬が返事をしようとすると、高瀬が小さく短く吠えた。
「…………悪かったよ……おやすみ」
龍樹は部屋の明かりを落とすと、扉を出ていった。
その表情は、なんだか嬉しそうで、成瀬もおやすみなさいと返す。
「龍樹さん、良い人ですね」
成瀬の言葉に、高瀬はグゥゥと唸る。
「シンさんの事、大事なんですよ。すごく。話ができるの、嬉しそうでした」
そう笑いつつも、成瀬の表情は少し固い。
眠る前にはいつも、高瀬が「おやすみ」と言って、抱きしめてくれる。
成瀬の頭の中には、低い優しい声が響いていた。
高瀬は成瀬を抱き込むように、腕を伸ばし頬を舐めた。
高瀬の腕を枕にして、成瀬は胸のふかふかの毛に顔を埋める。
成瀬の顔は自然に笑顔になった。
「柔らかい。シンさん、あったかい。気持ちいいな、この手触り……ずっと撫でていたい」
高瀬は成瀬の言葉に安心しながら、目を閉じた。
窓のない部屋で、成瀬は目を開けて、スマホで時間を確認した。
日付が変わって、朝になっている。
隣には、大きな虎。
あれ?
「シンさん……?」
開いた瞼の中には、金色の目が揺れていた。
「完全獣化から戻ってない」
「龍樹さん」
成瀬が体を起こすと同時に、龍樹の言葉が聞こえた。
今来たのだろう、龍樹の顔は驚きで固まっている。
「嘘……だろ……」
龍樹は慌てて部屋を出ていく。
入れ違いにレオニアとコレットが入ってきて、檻の中の様子に驚いていた。
「朝になれば戻っているはずじゃ……」
「えぇ、いつもそうなんだけど……」
「シンシア?大丈夫?」
コレットもレオニアも困惑している。
二人の様子に、成瀬は高瀬の頭を抱き寄せ、撫でる。
「痛いところはありませんか?苦しいとか……」
高瀬は顔を上げると、ペロリと成瀬の頬を舐めた。
続けて、ペロリペロリと舐めていく。
心配するなと言っているかのようで、成瀬は手の力を緩めた。
「大丈夫みたいです」
レオニアとコレットに言えば、いくらか二人の表情は和らいだ。
そこに、古い本を持ってきた龍樹が走り込んでくる。
「昨日、獣化したのは何時だった?」
「えっと……昼過ぎ……夕方前かな」
答えるレオニアに、龍樹は時刻を確認する。
そして、少し青ざめた顔で告げた。
「獣化してから、一日経っても戻らなければ、もう元には戻らないかもしれない」
コレットとレオニア、そして成瀬が言葉を失う。
ギュッと高瀬の頭を抱き寄せれば、また、ペロリと頬を舐められた。
「シンさん……もう、声が聞けないじゃないですか……」
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