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第17話 檻の中の幸せ
「ケン、mignon……」
成瀬は高瀬の声を思い出す。
その声はいつも優しく、低く響く音の振動が、成瀬の耳に心地良かった。
「タツキ、もう戻らないって、どうにもならない事なの?」
「現段階では、可能性の話です。過去の文献には、そういう事例があると言うだけで」
「シンシア…………」
レオニアは、檻の中の弟を見て、その隣の恋人を見る。
成瀬にもたれて甘えるような姿は、成瀬の家で鍋を作っている時にもしていた。
ジッと見つめていると、金色の瞳が返ってきた。
穏やかで、安心しきっている目は、今まで見たことがない。
弟は、シンシアは、全てを受け入れたのだろうと、レオニアは感じた。
泣き崩れそうなコレットを支え、レオニアは部屋を出ていく。
「大丈夫、きっと何か方法があるよ」
「えぇ、そうね。諦めないわ」
コレットは、胸元のペンダントトップを握りしめる。
十字に、チーターの模様を模した宝石で作られたロザリオが、シャランと音を立てた。
「祈ろう。絶対に大丈夫」
レオニアはそう言って、コレットを自室まで送り、地下室へと戻る。
微かに、怒りのような感情が湧いてくる。
「僕も、力になりたいって言ったじゃないか……」
地下室に戻ると、龍樹が興味深そうにベッドを観察していた。
ベッドの上では、成瀬が高瀬と取っ組み合っている。
正確には、そう見えるだけだ。
成瀬も笑っているし、高瀬は甘えている。
「いいですよ、シンさん。どんな姿でも。シンさんは格好良いし、こうやってそばに居られる。離れて行かないなら、俺も離れません」
その言葉に、レオニアは驚いた。
さっきは絶望したような顔をしていた成瀬が、一瞬で高瀬を受け入れたのだ。
高瀬も、グルグルと成瀬の腕に擦り付いて喉を鳴らす。
しかし、成瀬は少し困った表情になり、そっと高瀬に耳打ちしていた。
龍樹には聞こえないだろうが、レオニアの耳にはそれは届いていた。
「でも……キスとか……出来ないですね……」
レオニアは、思わず吹き出しそうになる。
問題はそこなのかと。
チラリとレオニアを見た高瀬はペロリと成瀬の唇を舐め、頬や首筋も舐め尽くしていく。
「ちょっ……くすぐったい!やめて……ははっ!」
高瀬は成瀬の服を捲りあげ、素肌を舐め始めた。
成瀬は身を捩りながら、笑い声をあげている。
虎に襲われている人間という雰囲気はなく、恋人同士のじゃれ合いとしか見えない光景に、レオニアは苦笑する。
「これはベッドシーンかな。観察していて良いと思うか?」
龍樹の言葉についに吹き出した。
「成瀬くんは、本当に……」
レオニアは、笑いながら思う。
シンシアにも、特別な人が出来たことを。
だからこそ、このままじゃいけない。
朔夜の言ったことを守るために。
『お前たちは二人いる。二人で、助け合えば大丈夫だ』
「僕も、中に入ろうかな。ベッドシーン邪魔して来よ」
龍樹が言葉を理解するより先に、レオニアは、檻の扉を開けて入って行った。
「玲央っ!」
龍樹の静止も聞かずに、レオニアは檻の中を進んでいく。
「レオニアさん?」
どうしたのだろうと不思議そうな成瀬と、警戒を強めた高瀬。
レオニアは、ベッドのそばのソファーへと腰掛け、高瀬に視線を向けた。
「シンシア。このまま、元に戻らないかもしれないって」
成瀬は視線を下げ、ギュッと手を握った。
グルグルと小さく唸りながら、高瀬はレオニアから、ジリジリと後ずさる。
「怖い?人間で無くなった自分を、成瀬くんが受け入れてくれるかどうか、不安じゃないの?」
とりあえず、落ち着いている空間に、龍樹はノートを握りしめつつ息を吐く。
レオニアの目は、少し失望を滲ませているようだった。
「抱きしめることも、キスもできない。成瀬くん、どう?」
「俺は、俺は……それでも……」
良いとは言えなかった。
さっきは受け入れたと言ったが、同時に寂しさもある。
あの声を聞けないのは、あの、肌を合わせる感覚を味わえないのは、辛い……。
高瀬が、グルっと鳴く。
「僕は、シンシアの心が強いって、信じてるよ」
レオニアの問いかける最中に、地下室の扉が慌てた様子で開かれた。
神谷が駆けつけ、後ろからコレットが入ってきたのだ。
「レオニアっ!」
「何をしてるの!」
檻の中を見て驚いた二人の言葉に、レオニアは微笑みだけを返して、もう一度、高瀬に目を向けた。
「僕も、シンシアの力になりたいから、酷なことを言うよ」
レオニアの目が、獣化した高瀬と同じく金色に光る。
成瀬が、ゴクリと息を呑み、無意識に高瀬の頭を撫でた
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