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第21話 完全獣化した恋人が、人間に戻って「mignon」と笑った

 龍樹の処置で、高瀬の熱はすぐに引いた。  耳と尻尾も消え、人の姿になった高瀬は、心配そうにベッドを覗き込む成瀬に手を伸ばして、頬を撫でた。 「mignon……」  成瀬は高瀬の手を握り、ハラハラと涙をこぼしながら頷く。  高瀬の脈をとり、身体の異常を調べていた龍樹に目線を送り、高瀬はすまなそうに呟いた。 「龍樹、外してくれないか」 「………………僕も労いの一言が欲しかったよ……」 「悪い、今度梅干しのおにぎりをやる」 「……覚えているのか?」 「あぁ……」 「それは…………あ、いや、後でいいよ。でも、今は安静にしてるんだ。成瀬くんも、体に異常は無いけど、安静が必要だよ」 「あぁ、悪かった……」 「間違っても、交わろうなんて「わかってる……」  龍樹の言葉を強引に止めて、高瀬はジトリとした目線を送る。  龍樹はヤレヤレといった表情で部屋から出ていった。 「ケン、痛む所はないか?」 「大丈夫です。バレーの試合の時の方が派手に吹っ飛んでました」 「……悪かった…………」  成瀬は首を振りながら高瀬の胸に擦り寄る。  しかし、虎が登りやすいように作られたベッドは低く、成瀬は体勢を保ちずらかった。 「ベッド、上がっても良いですか?」 「遠慮するな」  二人分の重さを支えているが、軋まないベッドはやはり特注品なのだろう。  高瀬の体にピッタリとくっつくように、成瀬は横になった。  虎の毛皮のように柔らかくはない。  ふわふわとした手触りもない。  でも、抱きしめてキスをくれる。 「良かった。シンさん……」 「……悪かった…………」  高瀬が強く強く成瀬を抱きしめた。  その背中を、成瀬は優しく撫で続ける。 「あ、クリスマス、一緒にいられましたね」  ニコリと笑う成瀬の唇に、高瀬は唇を合わせる。  聖なる夜に二人は、抱き合ったまま、眠りについた。  翌朝、ダイニングに全員が集まった。  豪華なお菓子はそのままに、長机に並んでいた。  パーティー会場で、高瀬はコレットとレオニア、そして龍樹と一人づつハグをする。  コレットもレオニアも涙を浮かべ高瀬を強く抱きしめていた。 「臣、覚えていることを教えてほしい」  龍樹の言葉に、皆の視線が集まる。 「全部だ。昨日のことも、今までのクリスマスのことも、全部覚えているし、思い出した」  レオニアとコレットの顔が綻ぶ。  龍樹は顎に手を当てて考える。 「やはり、獣人の特性というよりは、臣の心理的なことが原因か……?」 「俺も、そう思う。父さんのことが……恐ろしかったんだ……俺のせいで、誰かを失うと思った。忘れてしまいたかった……」 「シンシア……」  レオニアは唇を噛む。  成瀬が、そっと高瀬の手を握った。  高瀬はその手に軽く口付けて離すと、レオニアに向き合った。 「父さんの言葉を思い出した。レオニアと一緒に聞いていた時の言葉を。二人で助け合えと、守るために強くなれと言われていた……。レオニア、助かった。ありがとう」  レオニアは、再度高瀬に抱きついて、首筋に擦り寄る。甘える行動に高瀬も応え、レオニアを抱きしめる。 「成瀬くんのおかげだよ。ずっと分かってなかった……クリスマスのシンシアは、ただの虎になってしまっているんだって、僕たちが決めつけていたんだ。Papaの話もしたらダメだと思ってた。シンシア………………pardon(ごめんね)」 「Je suis désolée, Shinshia(ごめんなさい、シンシア)」  二人を抱きしめるように、コレットが手を広げ抱きついた。 「ふふっ、二人とも大きくなったわね」  涙を浮かべながら笑うコレットの姿に、高瀬はレオニアと一緒に抱きしめる。 「Merci beaucoup…………ありがとう……」  ダイニングに、幸せな空気が流れる。  龍樹は、抱き合う家族を見て、そこに、にじり寄った。 「僕もありがとうの中に入っているのかな?」 「ははっ、入ってるさ。ずっと。豪も一緒にな」  高瀬は龍樹の腕を引き寄せて、レオニアとの間に引き入れる。 「神谷さんもだよね」 「あぁ」 「ケンイチ、あなたもよ」  コレットに手招きをされて、成瀬は少し戸惑ったが、高瀬に腕を引かれた。 「なんか、円陣みたいですね」 「円陣?」 「試合前に気合い入れるやつです」 「あ、それ僕やってみたかったんだ。スポーツの試合やったことないから」 「ハドルの事ね。いいわね、ケンイチやってみて」 「え、なんて言えば良いですか?」 「成瀬くんの好きな言葉で良い」  全員に言葉を待たれ、成瀬は考える。  部活のように「やるぞ、おー」なんていうのは違うだろう。  自分の好きな言葉と言われても…… 「た、高瀬家の家族……全員……大好きです!!」  恥ずかしそうに叫んだ成瀬の言葉に、全員が吹き出した。 「mignon」  成瀬の頭を撫でながら、高瀬が笑う。  そして抱きしめてくる。 「mignon」 「mignon」 「んっ……」  レオニアとコレットも同じ言葉で抱きついてきた。  成瀬は圧迫感に多少悲鳴を上げる。 「面白いね、成瀬くん……mignon」  龍樹は三人に潰されている成瀬の肩を掴むと、唇に軽くキスをした。   「んっ!」 「龍樹っ!」  高瀬に引き剥がされた龍樹は、そのまま高瀬の腕を掴み、高瀬の唇にもキスをする。  高瀬の首に腕を回して、龍樹は何度も角度を変えて離さない。 「た、龍樹さんっ!!」  成瀬が龍樹を引き剥がすと、龍樹は一息吐いて、不満そうに言った。 「舌、入れさせてくれないのか」 「当たり前だ!」  ダイニングに、レオニアの笑い声が響く。  成瀬はギュッと高瀬の腕にしがみついた。

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