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第26話 恋人を「会社の人」と紹介したら、獣人上司が不機嫌になった
「成瀬くん、整腸剤だ」
やっとトイレから出てきた成瀬が席につくと、龍樹が白い錠剤を渡してきた。
「あ、ありがとうございます」
「たっちゃんの薬はよく効くわよ」
ルルが自慢気に笑いながら水を渡してくれた。
「これ、龍樹さんが作っているんですか?」
「あぁ、豪が腹を下さない為にな」
「ルルさん、お腹弱いんですか?」
「え?うん……まぁ?」
「下したら出来ないだろ」
「何……」
「もう良い。早く飲め」
龍樹が無表情で説明する話を、成瀬が純粋に聞き返す前に、高瀬は割り込んで終了させる。
結局、成瀬は新幹線で食べる為に買ったおにぎりを食べられずに、地元の駅に到着してしまった。
空は青く、山は若干白い。
山並みに雪雲が見えて、風は冷たい。
「まだ雪積もって無いんだ。やっぱり温暖化なのかな」
成瀬は地元の冬の風景が変わったみたいな感じがして少し寂しく思いつつも、約1年ぶりの景色に顔は綻ぶ。
対して、他の三人は山の冷たい風に慣れていない様子だ。
「寒っ!!」
ルルは両手で自分の体を抱きしめて、吹く風に耐えた。
「レオニアは連れてこなくて正解だったな」
「確かに。ずっと家の中で寝かせる羽目になっていたね」
「レオニアさんもいたらもっと賑やかになってたでしょうね。残念……あ、お土産買って行きましょ。この時期なら、干し柿かな。餅つきしたら餅も持っていけますね」
成瀬はニコニコと小さな駅舎に入っていき、慣れた様子で無人の改札を出てバス停に向かった。
その後ろを、慣れない都会人の三人はついていく。
大柄な高瀬を筆頭に、派手なルルに、インテリ系の龍樹の組み合わせは田舎の空気にとても似合わず、すぐさま人の目に止まった。
「あれ、健一くん?なに、こっち帰ってきたの。あら、お友達?」
「あ、久しぶり、金谷のおばちゃん。か、会社の人……だよ?」
ピクリと高瀬の頬が動いた。
口を出そうとしたところで、ルルが腕を引く。
ルルに首を振られて、高瀬は不満そうに押し黙った。
「やだぁ、格好良い人達連れて。何も無いところだけど、成瀬さんちなら楽しいやね。後で佃煮持ってくから、美幸さんにもよろしく言っといて」
「あ、うん。ありがとう」
そう言って、金谷のおばちゃんは、軽トラに乗り込み窓から成瀬へ手を振った。
「健一くん、荷台だったら乗せてったげるよ~?」
「おばちゃん、公道は違法だからそれ!」
「あははっ、バスもう来るかね。じゃあ後でね~」
軽快に軽トラが走って行き、小さな駅前のバス停は静かになった。
高瀬は軽トラに手を振る成瀬の真後ろに立って、上から低い声をかける。
「ケン、俺は会社の人なのか?」
「あ、もう、聞き方考えなさいよ」
ルルは、呆れた声で高瀬の腕をひく。
「え?会社の人……ですよね?」
「はぁ?」
高瀬の雰囲気に不思議な表情を返して、成瀬は首を傾げた。
高瀬はそれ以上は言わずに、ムッとしたままバス停に並ぶ。
「臣は恋人って紹介してほしかったんだよ。むしろ、なんで会社の人を連れて実家に帰ってくるんだ?成瀬くんは実家になんて言って連絡したんだ?」
龍樹の言葉に成瀬はハッとした。
高瀬を連れて実家に帰ってくることになんの疑問も無かったが、よく考えれば恋人を両親に合わせるのだ。
”ご挨拶”というものになるのではないかと、今更ながら思い至った。
しかし、駅を出てすぐに目立っている高瀬を、自分の恋人だと紹介するのは、なんだか気が引ける。
こんな田舎なのだ。
成瀬は急に自分は高瀬に不釣り合いなのではと思い始めた。
「あ、えっと……俺……」
「そんなに考えなくても良いんじゃない?私たちは、ケンちゃんの地元に遊びにきたの。観光客みたいなものよ。今はそれで良いじゃない」
ルルは、成瀬の気持ちを察してか、フォローしてくれる。
色も分からないほどくすんだバス停の標識の横ですら、高瀬は目立っていた。
スラリと高い身長も、綺麗なハーフ顔も、この田舎には眩しすぎる。
こんな人を恋人だなんて言ったら、両親は度肝を抜かれるだろう。
成瀬の祖父に至っては、心臓を止めかねない。
高瀬は無表情に見えて不満だらけの顔を隠しもせずルルの言葉を聞いていた。
「ま、臣が成瀬くんの両親に認められるかも分からないしね」
「どういうことだ」
「ここら辺の認識じゃ、都会から来た詐欺師にも見えないか?」
「ブフッ!確かに!営業エースは口上手いもんね。シンシアの営業スマイルなら、みんなイチコロで契約しちゃうでしょ」
「今は休暇中だ」
「なら、成瀬くんの両親への挨拶は考えているのか?」
「あぁ」
「え?」
成瀬は驚き、高瀬を見上げる。
嬉しさと、動揺が隠せていない。
「挨拶って……」
「ハグはしないぞ」
「いや、そうじゃなくて、俺の両親に挨拶してくれるんですか?」
「ん?当然だろ」
成瀬は少し困った顔をする。
嫌ではないが、急に高瀬との仲を、親に認めてもらうのは少し照れくさい。
そして、何を言われるのかが、怖い。
「あ、ごめんね、ケンちゃん。多分、挨拶違いよ」
ルルは高瀬の思考を補足する。
「シンシア、普通にこんにちはだと思ってるんじゃない?」
「ん?」
「この場合は、息子さんをください。になるわね」
「……そういう……」
高瀬は片手で口を覆いながら、気づいた間違いに目を泳がせた。
しかし、そっちの挨拶をしたって構わない。
それなら、しっかりと挨拶をしようと顔を上げたら、成瀬がほっとした顔をしていた。
「なんだ、良かった。ちょっと焦っちゃった」
その一言で、バス停の空気はまた、5℃ほど下がった。
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