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第27話 恋人を田舎に連れて帰ったら、祖父に獣人だと見抜かれた
成瀬の家は米農家だ。
広大な田んぼを見渡せる場所に建っている。
母屋と納屋兼離れ、倉庫に、大きな農機具を入れる屋根付きの駐車場兼作業場がある。
「広いわね。地主さん?」
「まさか。先祖代々の土地ってだけで、建物も古いですよ。シンさん家みたいに豪華じゃないから……」
「うちは悪目立ちしてるだろ」
高瀬の言う通り、コレットの趣味でクラシカルな西洋風の豪邸だが、普通の住宅地に並んでいると確かに浮いている。
しかし、成瀬の話と多少論点がずれていることを、ルルは黙っていた。
成瀬は家の玄関の前で鍵を探す。
普段は居間の縁側から出入りする方が多く、玄関に人を連れてくることに慣れていない。
「鍵かかってるのか?」
「あ、そうか」
成瀬の地元では鍵は基本かけない。成瀬はわかっていたことに照れ笑いしながら玄関を開けた。
「た、ただいまー」
動揺を隠すように大きな声で成瀬は言った。
しかし、声は返ってこない。
「ま、まぁ、上がってください」
成瀬はスリッパを出して三人を案内する。
「成瀬くん、これは何か補強してるのか?」
玄関を上がってすぐ、龍樹が天井の梁に巻かれているタオルを指さして聞いてきた。
「あ、頭ぶつけないように。俺と兄ちゃんがよくぶつけてたから。シンさんも気をつけてください」
「あ、あぁ……」
そう言って高瀬を見ると、すでにどこかにぶつけたのか、頭を押さえている。
古い日本家屋は、高瀬のサイズでは適応が難しそうだ。
「納屋に行ったらもっと狭いんですけど大丈夫ですかね」
「気を付ける。問題ない」
廊下を抜けると、居間には成瀬の祖父が座っていた。
「あ、ただいま爺ちゃん」
「ん?おぉっ、健一。どっから入ってきた」
「玄関だよ。お客さんも一緒に来るって言ってただろ?」
健一の祖父、仙吉は、厳格な見た目でとっつきずらそうだが、孫の健一にはデレっとした表情を見せた。仙吉の反応からして、玄関からこの家の人間が出入りするのは珍しいようだ。
「あ、えっと、高瀬さんに、ルルさん、龍樹さんだよ。俺の爺ちゃんです」
成瀬は悩みながらも、それぞれの名前を仙吉に伝える。
仙吉は厳しい目を向けつつ、三人に会釈をした。
「こんにちは。お邪魔させていただきます。これ、つまらないものなんですけど」
ルルは人受けする笑顔を作りつつ、一升瓶を取り出した。
普段カクテルを作っているルルが日本酒の瓶を持っている。しかし、妙に似合うなと成瀬は口角を上げた。
「こちらも、お口に合えば」
龍樹も、有名和菓子屋の饅頭を仙吉へ渡す。
「いや、悪いねぇ。気を遣ってもらっちゃって」
「二人とも爺ちゃんの好きなものよく知ってましたね」
「あら、そうなの?良かった」
ご満悦の仙吉は、壁際の食器棚からぐい呑みコップを取り出して、早速開けようかと準備する。
「あ、爺ちゃん、まだ荷物とか……母ちゃんにも会えてないのに」
「美幸さんなら台所だ。ついでにツマミも貰ってこい。ほら、お前らは座れ」
仙吉は三人を呼ぶと、ぐい呑みに酒を注いでいく。
「みんな飲めるんだろ?さ、やってくれ」
「じゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
ルルに続いて、龍樹と高瀬が酒に口をつけた。
仙吉はグッと煽ると、酒の味に満足そうに口を離す。
「美味いな」
「良かったです~」
ルルに笑顔を向ける仙吉は、先ほどから声を発しない高瀬に目線を向けた。
その視線に気付いて、高瀬は姿勢を正す。
「特に手土産もなく申し訳ないです。しばらくお邪魔いたします」
「あぁ、まぁ、いい。なら、肩でも揉むか?はははっ」
仙吉の冗談を間に受けた高瀬は、立ち上がり、仙吉の後ろに回った。
「失礼します」
「なんだ、冗談だぞ?」
笑いながら酒を飲む仙吉だが、高瀬の手が肩に触れた瞬間に表情を固くした。
「……お前、獣人だな?」
「はい…………」
「そうか……犬か?」
「いえ、虎です」
「なら良いか」
一瞬、ピリッとした空気が流れたが、仙吉は何事も無かったように酒を飲み出した。
龍樹は興味深そうにその様子を見ていた。
「母ちゃん、爺ちゃんがツマミくれって」
「なに、健一。いつ返ってきたの?」
台所で母の美幸に声をかけると、だいぶ驚かれた。
「今、玄関からただいまって言ったよ」
「なんで玄関?」
「お客さん居たから」
「あーそうだったわね。恋人でも連れて来るんじゃないかって、幸恵と話してたのよ」
「ふえぁっ?!」
美幸の言葉に、成瀬の肩が異様に跳ねた。
まだ、高瀬を何て紹介すれば良いのか悩んでいたのだ。
「違うの?」
「え、あー…………ツマミ!爺ちゃんに持ってくから。あと、納屋の二階に荷物運んでいい?」
否定もしたくないから誤魔化して話をすり替えたが、下手すぎたのだろう美幸の顔はニヤニヤと笑っていた。
「良いよ。綺麗に掃除しておいたから、雑魚寝で本当に良かったの?」
「うん。みんな男の人だし」
「あ、そう……」
美幸はそれ以上は何も言わずに、成瀬に漬物と乾き物を持たせた。
居間に戻ったら仙吉が、龍樹の質問攻めにあっており、ルルがそれを止めに入っていた。
「あーもう、獣人てわかったのは勘だ!ただの勘!」
「勘……それはどんな感覚ですか?フッと頭に浮かんだんですか?それともビビッと何か刺激みたいなのが?」
「たっちゃん、もう、楽しくお酒飲んでるんだから、やめて」
ルルが龍樹を引っ張るが、研究モードに入っている龍樹は目が血走りそうな程前のめりで仙吉に向かっている。
「あー、うるさい!お前ら荷物運んでこい!」
「ははっ、龍樹さん、ルルさん、納屋の二階案内します」
成瀬が苦笑しながら二人に声をかける。
龍樹は、鼻息を荒くしながら、ノートにペンを走らせていた。
呆れるルルと龍樹を引っ張っていき、納屋へと向かう。
居間には、仙吉と、肩を揉み続ける高瀬が取り残された。
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