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第28話 恋人を実家に連れて帰ったら、家族がニヤニヤしている
納屋の二階は母屋よりさらに天井が低い。
龍樹もルルも身を屈めて歩いている。
「ごめんなさい。狭いですよね」
「探検みたいで良いじゃない。なんだかあったかいお家だし。今更だけど年末にごめんね」
「いえ、うち人数多いから少し増えても気になりませんよ」
納屋の二階は大部屋と元は物置にされていた小部屋がある。
大部屋には、布団が四組揃えられていた。
男四人で寝るには十分な広さだ。
「修学旅行みたいね」
「そうですか?」
「シンシアとレオニアと四人部屋だったの。色々あって、夜大変だったのよ」
「へぇ。いいな、楽しそうです」
「そうね、楽しかった」
ルルは何かを思い出して微笑みながら、窓の外の田んぼを見渡した。
この季節にはなにも生えていないただの土だけだが、山並みに続いている道に、小さく軽トラが見えた。
「あ、多分父さんです。兄ちゃんも一緒かな」
「あら、ご挨拶しなくちゃね」
真剣にノートに向かう龍樹からルルはノートを奪い、挨拶する方へとスイッチを入れ替えさせた。
龍樹に対してこれができるのは、多分ルルだけなのだろう。
片や、母屋の居間では、高瀬が引き続き仙吉の肩を揉んでいる。
「健一は、ちゃんと仕事してるか?」
「はい。かなり優秀です。宅建の試験にも一回で受かりました」
「そうか、そうだろ。あいつはやればできるんだ」
「そうですね」
上機嫌の仙吉の肩を優しく揉みながら、高瀬は自分の手から感じる温もりにホッとしていた。
成瀬は、温かい家庭で愛されて育ったのだと改めて感じる。
同時に、この家族に認めてもらいたいと、強く思う。
「やだ、お義父さん。お客さんに肩なんて揉ませてるの?」
「冗談を間に受けたんだ。馬鹿正直な上司さんだ」
「あーもう、ごめんなさいね。良いから座ってください」
美幸は、申し訳なさそうに高瀬に謝る。
「いえ、俺も、なんだかホッとして」
「ん?変なこと言うな。お前の爺さんじゃないぞ」
「そう、ですね」
仙吉の何気ない言葉が、高瀬にチクリと刺さった。
表情には出さないように、仙吉から離れ、おとなしく座る。
大きな体を小さく丸めるような姿に、美幸は微笑みながら頷き、煮物ときんぴらを机に置いていく。
「ただいま。あ、いらっしゃい。健一のお客さんですか?」
居間の縁側から、明るい声が聞こえ、成瀬の姉の幸恵と、兄嫁の結菜が入ってきた。
買い物の帰りなのだろう、たくさんの料理の材料を運び込んでいる。
「お邪魔しています。高瀬と申します」
「あ、はい。あー……ゆっくりしていってくださいね」
幸恵は、高瀬の顔を見た瞬間、照れたような表情になったが、美幸の視線に気付いて何かを察した。
笑顔でそう言うと、結奈と共に買い物袋を持って台所へと向かっていった。
直後に、女子特有のきゃーという声が聞こえたが、高瀬には何があったのかわからない。
「ただいま。あ、いらっしゃい。高瀬さん?ですか?」
幸恵たちが出ていった後、すぐにまた男二人が縁側に現れた。
高瀬を見て、すぐに名前を出してくれ、高瀬はありがたかった。
「お邪魔しております」
「健一の父の和也です。こっちは健一の兄の優人。何もないところですいませんね」
「いえ。お世話になります」
高瀬は、より丁寧に和也に向かって頭を下げた。
フランス系の顔の高瀬に頭を下げられ、和也はなんとなく違和感を感じるが、息子が連れてきた都会人が悪そうな人じゃなくて良かったと思う。
「土産もらってる。もう飲めるだろ。こっち上がれ」
「あー、すいませんね。気を遣ってもらって」
「いえ。それは……」
「こいつが持ってきた物じゃない」
「はい……」
ピシャリと仙吉に言われ、高瀬はますます小さく座った。
「あ、父さん、兄ちゃん。やっぱりあの車だったんだ」
ちょうど良く居間に現れた成瀬たちに、高瀬は安堵する。
「やー、ルルさん飲ませ上手ですね」
「バーをやってるんです。近くに来ることがあったらよろしくお願いします」
「面白そうなお店ですね」
ルルは、成瀬の家にすぐに馴染んだ。
隣で潰れている龍樹に膝枕をしながら、次々とみんなに酒を注いでいく。
久しぶりに会う家族の中で、成瀬も楽しんでいるが、どことなく緊張をしている。
何がと言うわけではないが、気を遣っていることが高瀬にはわかった。
「ケン?」
「なんですか?」
「いや、疲れてるか?」
「あー、腹の調子はあまり良くないですね」
「いや、そうじゃなくて」
高瀬は成瀬を気遣おうとするが、勝手のわからない家ではうまくいかない。
成瀬の下の妹と弟は、夕食後とっくに部屋に戻り、兄夫婦もすぐ裏の自宅へ帰っていった。
だいぶ夜も更けている。
仙吉が欠伸をしたのを合図に、そろそろ寝ましょうかと美幸が切り出した。
「あ、片付けやるよ」
「あら、都会に出て手伝う事を覚えてきたの?良い子ねぇ。でも、お客さん案内してあげなさい」
「良い子って……」
成瀬は恥ずかしそうに反論しようとするが、美幸はポンとおにぎりを渡してきた。
「夜食。食べられそうならね」
「……ありがと」
「あーそうだ。明日、餅つきなの。ちょっと行ってあげてよ。男手欲しがってたから」
「あーうん。わかった」
美幸が手渡してきたおにぎりは、コンビニの物よりも大きい。成瀬がよく食べていたものだ。
夕飯が進んでいないのを気付かれていたのだろう。
成瀬は、久しぶりの母の優しさを嬉しく思う。
納屋の二階は、高瀬が入るととても狭く感じた。
しかし、ルルは嬉しそうにピッタリと布団をくっつけて寝転んだ。
「シンさん、布団から足出ませんか?」
「出るな。でも、丸まっていれば大丈夫だ」
「ごめんなさい、窮屈で……」
高瀬の部屋のベッドは、とにかく広かった。
小さくもない成瀬と高瀬が一緒に寝てもまだ余裕がある。
それに比べて、狭い納屋で足の出る布団しか無い事を、成瀬は申し訳なく思う。
「大丈夫だ。こうして眠れば……」
高瀬は成瀬に体を寄せて、抱き込むように引き寄せてきた。
「ちょっ……ルルさんも龍樹さんもすぐ隣で寝てるんですよ?」
「何もしない。くっついているだけだ」
そう言いつつ、高瀬は成瀬の首筋の匂いを嗅ぐように擦り寄ってくる。
くすぐったいような感覚に、成瀬は身じろぐ。
「もう……我慢できなくなる……」
「我慢はしてくれ」
高瀬はフッと笑いながら、軽く額に口付けた。
だったら煽らないでほしいと成瀬は息を吐く。
高瀬の心音を感じながら、成瀬は目を閉じる。
田舎の静かな夜は、遠くにせせらぎの音が聞こえる。
昔から聞いていた。でも、今はなんだか懐かしく感じる。
その音に混じって、すぐそばで、耐えるような苦しそうな声が聞こえた。
誰だろうと顔を上げたら、高瀬の眉間に皺が寄っていた。
高瀬が辛いのかと思ったら、その後ろから声がする。
そして、高瀬が不快な声を発した。
「龍樹、豪、盛るな……」
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