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第29話 恋人を地元の餅つきに連れて行ったら、幼馴染が全部察した

 御岳神社の境内は、大盛況だった。  神社が混み合うのは、夏祭りと餅つきと初詣くらいだ。  町内会のおじさん達が、餅つきの臼を囲んで、ヨイショーと威勢の良い声を張り上げている。餅米が蒸される匂いが充満していて、雑煮やお汁粉も振る舞われ、子供達が拝殿の階段で頬張っていた。  日本の文化そのものという光景に、高瀬はもちろん、ルルや龍樹も少し場違い感を感じる。  自治会のテントの下に、知った顔を見つけて、成瀬は駆け寄って行った。  後ろに続く三人も、そちらの方向へと歩いていく。  龍樹だけが、キョロキョロと辺りを見回していた。 「金谷のおばちゃん!手伝いに来たよ」 「あら、ありがとう。健一くんと会社の人ね。せっかく帰ってきたのに餅つきなんかに駆り出されて、ゆっくりしたかったんじゃないの?」 「大丈夫だよ。特に行く所もないし、どうせみんなここに来てるんでしょ?」 「そうだね~、こんな田舎じゃ遊ぶ所も無いか。同級生なら、あっちに集まってるよ。雛子ちゃんが、健一くんの会社の人知っててビックリしたよ。地元離れてまで仲良いなんて、なんかあるね~これは」  クスクスと意味ありげに笑いだす金谷のおばちゃんに、高瀬の頬がまた引き攣っていく。  ルルはやれやれという顔で、金谷のおばちゃんに頭を下げる。  同級生の方へ歩いていく成瀬の後に三人はついていった。 「ケン、雛子ちゃんは、営業所に来ていた子だな?」 「あぁ、はい。シンさん話しましたっけ?」 「いや……」 「じゃあ紹介しますね」  高瀬の纏う空気に、ルルは雛子と知り合いだと言いそびれ、面倒だなと思いつつ流れに身を任せた。 「みんな、久しぶり!」 「健一!」 「おー、ケンチ!久しぶりだな~」  178㎝ある成瀬が小さく見えるほど背の高い男数人と雛子が、成瀬に気付き、その輪に引き入れた。  あっという間に成瀬の姿が隠されてしまい、高瀬とルルは居場所なくただそれを眺めていた。  龍樹は、特に興味もないのか神社の建物を眺めている。 「あ、ルルさん!なんで?健一と来たんですか?」  久しぶりの再会で、盛り上がった若者達のノリだけの会話が終わり、雛子が視線を離すと、ルルを見つけたようだ。 「そうなのよ。ちょっとケンちゃんのご実家にお邪魔しててね」 「やだ、言ってくださいよ!ここで会えるなんて嬉しい~」  高瀬は、ルルに話しかけているのが雛子だと気付き、ルルの腕を掴んで無言の視線を送るが、ルルが高瀬を紹介する前に、背の高い集団の男たちが盛り上がった。 「何だよ!ケンチ、女と実家帰ってきたのかよ!」 「マジか!やるなお前!」 「えっ!?やっ、ちが……」  成瀬の否定は胴上げをするかの勢いの男たちによって阻まれ、高瀬の機嫌はさらに悪くなっていく。 「ちょっと、ルルさんはバーの店長さんで、健一の家の近くにお店があるの」 「へぇ、ルルさんて言うのか。こんにちは!俺ら、ケンチの高校時代のバレー部仲間です」 「ルルさん、綺麗ですね」 「ケンチなんかで良かったんですか?」  雛子が訂正しようとするが、男たちのノリは加速していき、ルルを囲み始める。  ルルは次々と来る質問攻めに、珍しくタジタジになっていた。  グルルと唸りそうなほどに高瀬のオーラが獣じみてきた時、成瀬の友人に興味を持っていなかった龍樹が割って入ってきた。 「こいつは僕の恋人だ」  ルルを後ろから抱きしめ、背の高い男たちに牽制の目を向ける龍樹は、雛子には王子様に見えたようだ。  ポッと顔を染めて、健一の腕を引きつつ、紹介してと目で訴えてきた。  成瀬は困ったように後頭部を掻きながら、場を収集するために説明する。 「えっと、まず、ルルさんは俺の家の近所のバーの店長さんで、隣が龍樹さん。ルルさんの恋人で、フランスで研究してるお医者さん。で、こっちが高瀬さん。俺の会社の上司」 「おい、ケン」  高瀬は自分だけ紹介が雑だろうと成瀬に不満そうな目を向ける。  成瀬はそっとその視線から目を逸らした。 「スッゲー、フランスで働いてるんですか?」 「じゃあ、一時帰国みたいな?なんでこんな田舎に?」 「かっこいいっすねー」  バレー部の男たちは、ルルと龍樹を囲み、その身長で二人を埋もれさせた。  雛子だけは高瀬の名前を聞いて、全てを察し、掴んでいた成瀬の腕を離した。  丁寧に高瀬に頭を下げ、まるで保護者のような挨拶をし始める。 「雛子と言います。いつかは部屋探しでお世話になりました。健一から、お話は聞いています。こんな田舎まで来ていただけて私も嬉しいです」  高瀬を見上げながら、雛子は何か感慨に耽っていた。  ルルと龍樹を囲んでいる男たちには、雛子の話は聞こえてないようだ。 「ちょっ、雛子、母ちゃんじゃないんだからやめてよ」 「だって、健一のお相手でしょ?私もちゃんとご挨拶しておかないと、私、キューピットみたいなものでしょ?」 「はぁ?」  成瀬と雛子のやりとりに、高瀬は二人と距離を詰めた。  二人がどういう関係なのかがわかり、ホッとしたのもあるが、社会人として、挨拶は返さなくてはいけない。 「高瀬臣と言います。ケンを見守ってくれていたようでありがとうございます。今は、誰よりも大事に思っているので、安心してください」  ニコリと笑った高瀬に、雛子は頬を染める。 「やっば、健一の言う通りめちゃくちゃ格好良いじゃない!」 「え?だ、ダメだぞ!シンさんは、俺のだから!」 「わ、わかってるわよ!なに、急に惚気ないでよね!」  兄妹みたいなやりとりになった二人に、高瀬は笑う。  ようやく、成瀬が地元で恋人として対応してくれた。  ただそれだけで嬉しかった。 「おい、こんなところで騒いでないで、餅つけ!爺さんばっかにやらせてんな!」  自治会のおじちゃんが、盛り上がっている若者たちに一喝すると、バレー部の男たちは素直に大きく返事をした。成瀬も漏れず通る声を出す。  そう、躾けられているのだ。  全員で、餅つきのブルーシートに向かっていった。

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