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第31話 獣人上司、石碑の守り神に取り憑かれる?
「たっちゃん!どこまで行くの?」
ルルは滑りそうな道をザクザクと歩いていく龍樹を、追いかける。
餅つきの掛け声は聞こえるが、木々に隠れて神社の境内は見えなくなってきていた。
だんだんと、道なのかなんなのかわからない所まで入ってきてしまった。
「ねぇ、たっちゃん?遭難するわよ?」
「遭難はしない。昔はここから山に入る道になっていたらしいから」
龍樹は目的のものを見つけ、滑りそうなルルの手を引いた。
「これって、お稲荷さん?」
「いや、石碑を祀っているらしい」
小さな祠を、狛犬とも違う動物の像が守るように立っている。
しかし、随分と苔むしていて古さを感じた。
祠の前には、団子のような小さな握り飯が置いてあり、今でも参拝者がいるのだとわかった。
「その伝承は、いつの話ですか?」
「さぁ、この辺りの昔話でいつの話かまでは……」
高瀬と成瀬は、雛子の昔話を聞きながら、祠に向かっていた。
「雛子すごいな。よく覚えてんな」
「記憶力は良いの。健一と違ってね」
「余計だよ。でも、神社の裏って、昔遊んでて怒られたんだよな」
「あー、確かに。子供は近づくんじゃないってね」
「雛子も?」
「うん。なんだっけ、生け贄にされるからって。こわっ」
「ははっ、俺もそんな感じで言われてた。でも、一回だけかくれんぼで見つかりたくなくて、こっちまで来たんだよ」
「生け贄にされたのか?」
高瀬が成瀬の腕をギュッと握ってきた。
高瀬の目は真剣だが、成瀬には滑稽に見えてしまった。
「されませんよ。そこで寝ちゃってました。だから、めちゃくちゃ探されて、めちゃくちゃ怒られました」
「それは健一が悪いわね」
雛子と成瀬の笑い声が木々に響いて、祠にいたルルが気が付いた。
「あー、ここ。やっぱり覚えてる。ここで寝ちゃってたんですよ。俺」
「え、こんなところで寝たの?いつ?」
ルルの問いに、成瀬は歩いてくる間に話していたことを伝えた。
すると、龍樹がすごい勢いで成瀬に掴み掛かった。
「それは、何歳の時?!」
「え……えっと……6歳?7歳かな……?」
「それまで、動物に好かれてたりとか無かった?」
「……さぁ、家には猫とか色々いましたけど。爺ちゃんとか母ちゃんならわかるかな」
「えー、健一、動物にめちゃくちゃ懐かれやすいじゃん」
「そう?」
「飛んできたカラスは、絶対に健一のチャリにフン落としてたでしょ~」
雛子が思い出し笑いを始め、ルルも吹き出した。
「それは災難ね……」
「それって、好かれてないじゃん」
龍樹はその話を聞いて、顎に手を当て考える。
「求愛に自分の排泄物を使う動物も……」
「いないだろ、そんなやつ。求愛ってなんだ……」
龍樹の呟きに高瀬はすぐに否定をする。
そうか、と龍樹はまた考え始めた。
高瀬は求愛という言葉が引っ掛かりつつも、祠に向かった成瀬に続いて近づいていく。
「ここに、生け贄の子供の石碑があるんですね」
成瀬は両手を合わせる。
「山を救うためとはいえ、怖かっただろうな……」
成瀬の優しい声色に、みんなが口を閉じた。
「でも、結果的に山を平和にしたんだから凄いですよ。獣と心を通わせられるって、人も獣もみんなその子の事好きだったって事ですよね。神の力よりも、その子が凄いです」
「その神の力を、成瀬くんも持っているかもしれないよ」
「え?」
龍樹は、科学的根拠はないと付け足しながらも、その力を否定しなかった。
「ケン、俺も、お前にはあると思っている」
「シンさん……」
優しい声に、褒められたのだとわかり、成瀬は照れる。
高瀬は、何度助けられたかと成瀬を抱きしめたくなり屈みこむ。
そして、祠を守る狛犬の目線と重なった。
「…………っ!…………」
「シンさん!!」
突然、高瀬が倒れ込んだ。
満月の夜のように苦しみ出した高瀬は、息を荒げ、身を丸める。
「ぐっ……ウゥッ……」
獣の唸り声のような声が聞こえ、成瀬は高瀬を抱きしめ必死に撫でた。
「わ、私、人呼んできます!!」
「私も行くわ!」
雛子はすぐに判断をすると、神社の境内に向かって走っていった。
ルルも雛子の後を追う。
「半獣化しそうなのか?」
龍樹は観察をしながら、高瀬に問いかける。
小さく何度も首が縦に振られた。
満月の夜、本能的に半獣化し、衝動に耐え、朝が来ると勝手に元に戻る。
これが高瀬のサイクルだ。
他の獣人は、抑制剤の力もあるが、自分の意思で半獣化して力を発揮し、そのあとは自分の意思で戻ることができる。
しかし、それが出来ない高瀬が、満月でもないのに半獣化しようとしていて、それを抑えようと苦しんでいる。
龍樹の思考は次々にピースを当てはめていくが、どうにもまだ足りない。
「シンさん、ゆっくり息をしてください。俺にもたれて」
「ケ……ン……ぅぐっ……」
高瀬の必死の抵抗も虚しく、耳と尻尾は現れてしまう。
そして、金色の目が真っ直ぐに成瀬を見た。
「え……シンさん?ですか……?」
成瀬の気づきに、龍樹の背に悪寒が走った。
「成瀬くん、離れた方がいい!」
成瀬の腕を掴んで高瀬から引き剥がそうとしたが、龍樹の腕を高瀬が振り払った。
龍樹は凶暴性が見える高瀬に焦り、声を荒げる。
「臣!!それは成瀬くんだ!お前の恋人だ!傷つけるなよ!」
グルグルと唸りながら、高瀬は龍樹に鋭い視線を向けた。
同時に、成瀬を腕に抱き込んで、強く締め付ける。
「うぐっ……シンさん……苦しいです……」
高瀬の腕の力は強く、成瀬は息を詰まらせる。
しかし、高瀬を撫でる手は止めない。
「シンさ……」
高瀬の首元に、成瀬は頭を埋めた。
強すぎる力を成瀬が抱きしめる。
「臣!しっかりしろ!」
「大……丈夫、です……シンさん、守って……くれる……でしょ……?」
小さく呼吸をしながら、成瀬は高瀬を抱きしめる。
高瀬の瞳が揺れ、耳がピクリと動いた。
次第に、高瀬の力が弱くなっていく。
「けほっ……げほっ……」
強い力から解放されて、成瀬は激しく咳き込んだ。
しかし、高瀬から離れることはしない。
「大丈夫ですか。シンさん、戻ってきてますか?」
「……あぁ……すまない……」
ホッとした表情の成瀬に、高瀬が悔やんだ。
「どういうことだ……」
何かをわかり合っている二人に龍樹は疑問を投げた。
「ケンを……守れと強く言われた気がした」
「誰に?」
「さぁ……」
高瀬は、成瀬の体を傷つけていないかと確かめる。
大丈夫だと笑った顔に心底ホッとした。
「俺も、誰か違う人だと思いました。シンさんの目じゃ無かった……」
「え?」
「龍樹、怪我はしてないか?」
「あ、あぁ。大丈夫だ」
「すまなかった。二人とも……」
頭を下げる高瀬に、成瀬はまた笑う。
虎の尻尾と耳はまだ出たままだが、高瀬は成瀬を守ってくれようとして、ちゃんと帰ってきてくれた。
「良かったです。シンさん……」
成瀬が抱きついた時、神社からはぞろぞろと人が上がってきていた。
「大丈夫かー?倒れたって!」
「担架持って来たぞ」
雛子とルルが呼んできた男たちだ。
自治会のおじちゃんたちに混じって、バレー部のメンツもいた。
そして、みんな、
高瀬の姿を見て固まった。
「お前、獣人か…………」
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