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第32話 成瀬の故郷、その土地の優しさ

 高瀬の姿を見た男たちは、口々に何かを言っている。  危険という言葉が聞こえ、成瀬と高瀬、ルルと龍樹がそれぞれに反応した。 「危険ではありません。今は鎮静されています」 「今は……」  不安な声が聞こえる。 「大丈夫ですよ。尻尾と耳が出てるだけで、結構甘えん坊ですから」 「………………」  ルルの明るい声でも、場は和まない。  理解がありそうだった雛子さえ、何も言えないでいる姿に成瀬は憤る。  悔しそうに奥歯を噛み締める成瀬を見て、高瀬は口を開いた。 「危害を加えることは致しません。驚かせてしまい、すいません」  高瀬が頭を下げようと立ち上がると、一瞬だけ、男たちはどよめき立った。  その雰囲気に、成瀬はギュッと拳を握る。 「シンさんは怖い人じゃない!わかってよ!」  成瀬の言葉は随分と子供っぽかった。  自分の地元で、自分の愛する人が理解されないのが嫌だったのだ。 「あ、あぁ。少し驚いただけだ、すまないな」  成瀬に答えたのは、餅をつけと叱りにきたおじちゃんだ。  昔からよく怒られたが、よく世話を焼いてくれていた。  そのおじちゃんの声に続いて、緊張の糸が解け始めた。 「獣人だったのか。だったらここはあまり良くないかもな」 「獣たちが子供神を守ってるから。敵が来たんだと思われる」 「何かにあてられたんだろうさ」 「だな。おい、担架。立てるだろうけど歩かねぇ方が良い。お前たち運んでやれ」  担架を持っていたのはバレー部の男たちだ。  みんな一斉に返事をした。  そう、躾けられているからだ。 「なんか、すいません……」  担架で搬送される高瀬は、バレー部の男たちに謝った。  足先は担架からはみ出ており、横幅もギリギリで、布担架はギチギチだ。  成瀬の恋人として高瀬に負けを認めていた男たちは、半獣化している高瀬を少し情けない格好で運んでいることに苦笑する。  神社に着く頃には、高瀬の半獣化もおさまった。  人間に戻った高瀬に、みんなはまた目を丸くする。 「お騒がせしました」  高瀬が頭を下げ、成瀬も一緒に頭を下げた。 「いいよいいよ。よくわかんないけど、大変なんだな。いやでも、餅つきは助かった。雑煮食ってってくれ」  おじちゃんたちはサッと雑煮を準備して成瀬たちに配る。  高瀬は申し訳なさそうに、それを受け取った。 「健一!!どうしたの、大丈夫?」 「あれ、母ちゃん。どうしたの?」  鳥居の下の階段で龍樹とルルも含めて四人で雑煮を食べていると、美幸の軽自動車が止まった。 「金谷のおばちゃんが、なんか倒れたって言ってたから迎えに来たのよ」 「あー、ありがとう。大丈夫、歩いて帰れるよ」 「本当に?あれ、誰が倒れたの?あんたじゃないの?」 「あ、うん……えっと……」  言いにくそうな成瀬に代わって、高瀬が口を開いた。 「俺です。でも、もう大丈夫です。ご心配おかけしました」 「そう……でも、乗って帰る?せっかく来たし」  美幸は不思議そうな顔をしながらも、高瀬が雑煮を完食していることを確認して多少安心した。  ここで答えるのは成瀬しかいないが、どうしようかとルルや龍樹を見てしまった。 「私たち、乗せてもらおうかしら。多分、シンシアは少し歩いた方が楽になるんじゃないかしら」  ルルの言葉に、成瀬は高瀬を見る。  特別具合は悪くなさそうだが、ルルが言うからにはそうなのだろうかと。 「そうですね。全員は乗れないですし。僕は美幸さんに少し聞きたいことがあります。家系図とか見せてもらえませんか?」 「家系図?なんで?」 「成瀬くんの先祖と、この神社の神話のつながりが知りたいんです」 「何の研究かわからないけど、そう言うことなら爺ちゃんの方が知ってるかな。じゃあ、健一は高瀬さんをしっかり見てあげなさいね。気をつけて帰ってくるのよ」 「大した距離じゃないから大丈夫だよ」 「そういうことじゃないの。知らない土地で体調不良なんて、不安でしょ。大事な人なら寄り添ってあげなさい」 「……わかった」  久しぶりに美幸の叱りを受け、成瀬は高瀬やルルたちの目が恥ずかしくなった。  美幸の車に乗ったルルと龍樹を見送ると、高瀬が成瀬の腰を抱き寄せた。 「美幸さんにも、俺たちの関係を伝えてくれてたんだな」 「え?……あ、いや……まだ……ごめんなさい……」 「ん?美幸さんはわかっていたようだけどな」 「………………あっ?!……えっ?……なんでっ!?」 「ははっ、母親には隠し事できないよな」  高瀬は笑いながら、焦る成瀬を引き寄せた。  首元に顔を埋めて、匂いを嗅ぐ。  安心する匂いだ。  山の風と空気の匂いに混じって、成瀬の匂いがいつもより素朴になっている。  成瀬を作った環境が、高瀬にはとてもありがたい。  顔を上げて、神社の鳥居に向かって頭を下げた。  その奥の、小さな祠は見えないが、心を込めて頭を下げる。 「シンさん……?」 「ケンの故郷が好きになった」  高瀬の言葉に、照れくさそうに成瀬ははにかむ。 「ゆっくり歩いて帰りましょ?」  人目は気になるが、高瀬の手に自分の手を重ね、成瀬は田んぼ道を歩き出した。

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