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第33話 神話と絡む成瀬の家系図

 家に戻ると、居間には古い資料が広げられていた。  龍樹が資料を興味深そうに読んでいる。ルルは龍樹が次々に広げる物をそっと片付けていた。  仙吉が成瀬と高瀬に気付いて、眉間に皺を寄せ視線を送ってくる。  怒っている時の顔だ。  成瀬は気付いたが、あえて笑顔でただいまと言う。 「お前ら、何で手なんて繋いでる」 「え、あっ、あ、ちょっとシンさん具合悪くて……」  成瀬は慌てて手を離した。  高瀬は仙吉に軽く頭を下げる。 「おい、獣人。神社でひと騒動あったみたいだな」 「ちょっと、爺ちゃん!」  高瀬の呼び方に成瀬はカチンとくる。  差別的な意味を感じたからだ。 「事実だろ」 「でも!そんな言い方!」 「その通りです。申し訳ありません」 「シンさん!」 「今、和也が謝りに行ってる」 「父さんが?あ……そっか、ごめん」 「なら、俺も行きます」  高瀬は神社に戻ろうと踵を返したが、仙吉の声で止められた。 「いい!どうせ持ってった酒で飲んでるだけだ。寒いからさっさと上がれ」  仙吉は縁側の窓を閉めろと手を振って面倒そうな顔をする。 「シンさん、父さんの方は大丈夫ですよ」 「でも……」 「結局飲み会になるんです。そう言う文化ですよ」  成瀬に優しく微笑まれ、高瀬はゆっくりと居間に上がった。  仙吉は座った位置から動くことなく、手を伸ばして座布団を二つ放る。  ぶっきらぼうだが、仙吉の優しさだ。  それがわかる成瀬は、仙吉の分も含めてお茶を淹れようと立ち上がる。 「シンさん、台所行きましょ。お湯沸かして、茶菓子も持ってきましょ」  急に機嫌が良くなった成瀬を不思議に思いつつ、高瀬は立ち上がろうとしたが、また仙吉の声に止められる。 「客に手伝わすんじゃない。健一がやれ」 「えー、シンさんはお客さんだけど、そうじゃないし……」 「なにがだ」 「えっと……その……」  成瀬のモジモジとする言葉に、仙吉の眉間の皺は濃くなり、さっさといけと言われてしまった。  仙吉の機嫌を取るのも面倒なので、成瀬は台所に向かった。 「あんなぐずぐずで、不動産の仕事なんか出来てるのか……たく」  仙吉の言葉は独り言なのか、問いかけられているのか、高瀬は迷ったが、返事を言葉にしてみた。 「あいつは、接客上手ですよ。仕事は丁寧ですし」 「あいつか……」 「あ、いえ…………」  思わず、いつもの調子で成瀬を呼んでしまった。  上司としては呼び方を変えたほうが良かっただろう。  そして、営業エースの高瀬の口は、仙吉の前ではあまりよく動かないようだ。  消えた高瀬の言葉にかぶる様に、龍樹がボソリと呟いた。 「先祖に、生け贄に出された人がいるのか?」 「ちょっ、たっちゃん!」 「あ、すいません。口に出てしまいました」  ルルの言葉に、龍樹は慌てて口を押さえた。  しかし、仙吉は特に気にしていないようだ。 「あー、なんか家系図が途切れてる部分か。死んだとも書かれていないやつだろ?俺にもよくわからないけどな」 「あの、では、事のついでなんですが、急に出てくるこっちの系譜は何ですか?」 「一本だけで繋がってるのか。本当かどうかわからないけどな、うちの家系にも獣人がいたらしい」 「え……」  高瀬は思わず身を乗り出し、家系図に見入った。  家系図には、親から子へ一本線だけで繋がった系譜が、三代分だけぽつりと存在していた。 「まぁ、昔のことだ。獣人は家系図に入れなかったんだろう」 「そんな……」  ルルは、悲しそうに呟き、仙吉はそれに視線だけを送る。  考え込んでいるような高瀬の顔に視線を合わせた仙吉は、補足をした。 「でもな、俺たちの直系はそこに辿り着くんだ。多分な。途切れて、また新しく書かれている。家系図に載せられなかった人が、俺らの先祖だと言うことだろ」 「では、獣人の力を持った人が親戚にいらっしゃるんですか?」 「いや。俺は会ったことがない。途切れたところから何代あると思ってる。とっくにその力は無くなったんだろうよ」 「なら、ケンが持ってる力は……」 「ん?」  高瀬の呟きに、仙吉が目を見開いた。  龍樹は、直感的に何かあると思い仙吉に詰め寄った。 「成瀬くんは、昔から動物に好かれてたりしませんでしたか?」 「いや、だからそんな事ないですって」  龍樹が質問をした所で、成瀬が笑いながら茶菓子を持って居間に戻ってきた。  後ろから美幸もお茶を持ってきている。 「なに?健一の昔話?面白い話あるわよ~」 「やめてよ。今結構真面目な話してるんだから」  美幸の言葉に、成瀬は恥ずかしそうに子供っぽく言いながも、全員の湯呑みを配り始めた。 「それで、仙吉さん……」  仙吉は、湯呑みを置いた成瀬の手を見て、自分の手のひらを眺める。  しばらくの沈黙の後、ギュッと拳を握り話し始めた。 「健一の力だろ?実は俺もあった。動物はだいたい撫でてやれば落ち着いてよく懐いてくれた。猪や熊もだ」 「えっ!?爺ちゃんすご!金太郎みたいじゃん!」  純粋に褒める成瀬を流して、龍樹の質問は続く。 「獣人に対してもですか?」 「あぁ、抑制剤なんてあんまり普及してなかったからな。半獣化した獣人が暴れた時にはよく手伝った」 「そうなんだ。だから俺も?」 「うん、多分、力は血筋なんだと思うけど、それよりも、仙吉さんは、あったと言いましたよね」 「あぁ、今は全くだ。俺が力を無くしたと気付いた頃に、健一が生まれてな。妙にうちの猫が懐いていた」 「あー、リオちゃんね。かわいい黒猫だったわねー。赤ちゃんの健一がぎゅーぎゅー握っても怒らないでずっとそばに居たの。他の子には触らせもしないのに」  美幸は懐かしそうに庭の片隅を見て、今はあそこにいるのとルルや高瀬に小さな墓石を指して説明する。  仙吉は成瀬の顔を見てから、また口を開いた。 「俺はな、健一に力が引き継がれたんだと思った。不思議だろ、和也じゃないんだ。優人でもない。孫で次男の健一にだ」 「……力を持つのは成瀬くんだけじゃない、でも、家族全員でもない……そして……力は、永遠ではない……」  龍樹の最後の呟きは、成瀬と高瀬に深く刺さった。 「じ、爺ちゃん、昔の……えっと、抑制剤が無い時の獣人は、満月の時どうしていたの?」 「山だ。獣人は山に入る掟があった。あいつも……」  仙吉は昔を思い出し、眉間の皺を深くさせながら、手を強く握る。 「あいつって……?」 「…………………………」  仙吉は成瀬と高瀬を交互に見て、さっさと資料を片付け始めた。  もう話すつもりは無いようだ。  龍樹はもう少しで繋がりそうなピースを取られまいと、家系図を握りしめる。  仙吉は龍樹の様子に、家系図だけは諦め部屋を出ていった。 「怒らせたかな?」 「まぁ、聞かれたく無いこともあるでしょ。爺ちゃんの親友だったみたいだから」  美幸は夕飯の準備しないとねと立ち上がる。 「健一、明日の年越しそばの天ぷら、金谷のおばちゃんちのを頼んであるから、明日貰いに行ってきてよ。おせちも頼んであるの」 「えー、姉ちゃんの方が良いんじゃない?」 「幸恵はおばちゃんのところでバイトなの」 「じゃあ、その帰りでいいじゃん」 「帰ってくるの待ってたら年明けちゃうでしょ」 「わかったよ……」  美幸はチラリと高瀬を見て、龍樹とルルに視線を巡らせる。 「金谷のおばちゃんの叔父さんが、爺ちゃんの親友だった人よ。もう亡くなってるけどね」  ばっと龍樹が顔を上げた。  その目は飛び出る勢いで、ルルは呆れながら、落ち着くように背中をポンポンと撫でてやった。

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