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第35話 爺ちゃんの親友の話以上にドキドキが止まらない。壁になれ?
金谷のおばちゃんの家は惣菜屋だ。
毎年、年末の蕎麦の天ぷらとおせちを売っていて、年末年始は大忙しで、地域の人をバイトに雇っているくらいだ。
成瀬も例に漏れずお世話になったことがある。
惣菜屋まで、高瀬と成瀬、ルルと龍樹の四人で車に乗っていく。
歩いて行ける距離でもあるが、おせちを運ばなければいけないから車で行けと言われた。
大人四人もいれば持てると思うが、田舎あるあるだろう。
成瀬が運転で、高瀬が助手席、ルルと龍樹が後部座席に座る。
美幸の軽自動車は大人の男が四人乗れば結構窮屈だ。
高瀬は助手席なのに、小さく体育座りをしているような姿勢で申し訳ない。
「おばちゃん、忙しそうだったらあんまり長居しちゃダメだからね」
「わかってるよ」
美幸は家系図の話や仙吉の親友の話を聞きたいと、もう話を通してくれていた。
よって、時間指定で惣菜屋まで向かわなくては行けない。
時刻は昼過ぎ、夕方のお惣菜を買いに来る客で混む前までなら話が出来ると時間を作ってくれたようだ。
「これ、持ってって」
「おにぎり?」
「混ぜご飯のね。おばちゃんたちは今お昼時でしょ」
成瀬は、いつも作ってもらっていたものより、豪華な具が混ぜ込まれているおにぎりを受け取り、小さく腹を鳴らした。
車内に笑いが響く。
「美幸さん、ケンちゃんが食べないように私が持っていきますよ」
ルルが笑いながらお重を受け取って膝に抱え込んだ。
成瀬はルルの声にビクッと震えながらシートベルトを締める。
昨日から、ルルと龍樹の顔をまともに見られていない。
とろけた表情のルルの顔と、艶やかな声が思い出され、成瀬が赤く染まっていく。
「ケン?どうした?」
高瀬は昨晩の夕飯時から成瀬の様子がおかしいことに気付いている。
しかし、詳細は教えてもらえないでいた。
「だ、大丈夫です。出発しますよ!」
ゆっくりと動き出した軽自動車の車内は、後部座席だけが通常運転だった。
「豪、お重こっちに持っていてやるぞ」
「大丈夫よ。あ、ちょっと……」
「僕の膝の方が広いだろ」
「それは関係ない……って、もう、たっちゃん……」
龍樹がお重を口実にルルに触れているようだ。
高瀬は不機嫌な顔をしているが、この状況には慣れているのだろう、外を眺めて知らぬふりを決め込んでいる。
成瀬だけは、聞こえる声だけで色々と想像してしまい、もじもじとアクセルを踏む足が動いて、車の速度が落ちていく。
「ケン?」
「あ、ごめんなさい……一回停めますね」
成瀬は事故る前にと田んぼの畦道に車を停め、深呼吸をした。
心臓がバクバクと動いている。
苦しい訳ではないが、落ち着かない。
若干反応してしまっている下半身も上着を引っ張って誤魔化した。
「大丈夫か?熱でもあるのか?」
高瀬の手が伸びてきて、成瀬に額に触れると、高瀬も驚くほど成瀬の体が跳ね上がった。
「ど、どうした……」
「大丈夫?ケンちゃん……?」
「だ、大丈夫ですよ。なんでもないです……」
ルルも声をかけてくれたが、振り向く事はできない。
早く惣菜屋に行かなければならないのだが……。
心臓のドキドキは止まらなかった。
「昨日の事なら、怒ってない」
「ひゃいっ!?」
龍樹の声に、変な返事をしてしまう。
「なんだ?やっぱり何かあったな、ケン……」
高瀬のちゃんと話せという圧に、成瀬は口を閉じる。
言えるわけがない。
「シンシア、ケンちゃんは悪くないの。悪いのは私とたっちゃんだから……」
「いや、成瀬くんにも多少非はある。覗くのはどうかと思う」
「それ、たっちゃんが言うの?」
「ああいう場合は壁になるべきだ」
「壁……?」
壁という言葉に、高瀬は何があったかのかを察したようだ。
ため息と共に、鋭い視線を後部座席に送っている。
「臣、少し獣化してないか?」
「してない。これは俺の殺気だ」
「あ、あの。もう大丈夫ですから。ごめんなさい」
成瀬はギアを入れて、アクセルを踏む。
また、惣菜屋に向かって走り出した車内は、ルルから高瀬に興味が移った龍樹によって、高瀬の機嫌がさらに悪くなっていった。
「もう。ごめんね、ケンちゃん」
子供の口喧嘩のようなやり取りをする高瀬と龍樹に、ルルは呆れて、いろいろな意味を込めて成瀬に謝罪した。
成瀬は苦笑しか返せないが、心臓の音は小さくなっていった。
惣菜屋では、数人のお客さんを、成瀬の姉の幸恵が対応していた。
「あ、健一。おばちゃんなら奥だよ。居間にいるんじゃないかな。庭から入って行ってみて?」
「うん」
店の脇の小道を抜けると、金谷家の庭に出る。
大柄の高瀬を始め、体を斜めにしつつ抜けていく。
「日本の田舎は勝手に庭に入っていくもんなのか?」
「そうですよ」
「違うわよ。この地域が仲良いの」
「そうだな。基本は玄関のチャイムを鳴らすだろう」
高瀬に間違った情報を与えないよう、ルルと龍樹が訂正する。
庭に入ると、家の中にいるおばちゃんが見えた。
居間の奥の仏間で、仏壇の遺影に手を合わせていた。
その遺影は、50代くらいの男性で、目元が優しい穏やかな顔をしている人だった。
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